バロンズ誌:米企業CEOは、ユーロ建て社債がお好き? --- 安田 佐和子

2014年11月09日 21:19

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バロンズ誌、今週の特集は携帯通信サービス会社ベライゾン、AT&T、スプリント、TモバイルUSをめぐる競争激化を取り上げています。2011年にAT&T、2014年にスプリントが4位のTモバイルUSに買収案を提示したものの、規制当局の介入も会って物別れに終わると、Tモバイルの携帯端末購入と通信サービス分離策が奏功しライバルに食い込む現状。顧客の奪い合いは、さながら戦国時代を連想させます。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、テーマは米企業の株価対策。出口戦略に向かう米連邦公開市場委員会(FOMC)からバトンを譲り受け、ゼロ近辺金利政策導入後はFed型の量的緩和(QE)を検討するECBに、米企業トップは熱い視線を注ぎます。

映画「メル・ブルックスの珍説世界史パート1(History of the World, Part I)」のルイ16世は、フランス革命が勃発するまで欲に満ちた王の人生を謳歌していました。現代のアメリカを率いるオバマ米大統領は、中間選挙で共和党が両院を制してしまった以上、2015年から新たに上院議長に就任するミッチ・マコーネル議員(ケンタッキー州選出)と膝を突き合わせるのにバーボンをいくら飲んでも足りないでしょうが・・。

メル・ブルックス、アメリカ喜劇映画の巨匠です。
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(出所:Undergrounddeals)

企業の君主たる最高経営責任者(CEO)ともなれば、オバマ米大統領より統治がしやすい。決算発表や当局の承認テストなどを除き、プレスリリースで印象操作するのはお手の物。ロンドン・ビジネス・スクールのAlex Edmans氏をはじめシンガポール国立大学のLuis Goncalves-Pinto氏、INSEADのYanbo Wang氏、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス のMoqi Xu氏によると、CEOによる株式売却あるいはストック・オプション行使が可能な時期にはプレスリリース発表回数が5%増加していました。しかも自社買いをはじめとした会社発表の後、16日間の株価はその月を0.28%上回るんです。ストックオプション行使/株式売却を通じたCEOの年間平均利益518万ドルのうち1万4504ドル相当、貢献していることになります。

ECBがQEを検討する今、米企業CEOは株主還元策の打ち出の小槌としてユーロ建て社債に目を向け始めました。好例がアップル(AAPL)。現金・現金等価物を1550億ドルも積み上げつつ、11月4日に8年物と12年物ユーロ建て社債を28億ユーロ(3990億円)発行。利回りは8年債が1.082%、12年債が1.671%とスペインやイタリアなどのユーロ圏諸国の利回り以下とあって、ムーディーズは「Aa1」、S&Pは「AA+」と2番目に高い格付けを与えています。

Fedが出口政策の戸口に立ったいま低金利のユーロ建て社債発行は極めて魅力的ですから、他の米企業も同じ手段に打って出ています。ムーディーズの主席キャピタル・マーケッツ・エコノミストのジョン・ロンスキ氏によると、年初来から45週間でユーロ建て社債発行に踏み切った投資適格級の企業は15%増加し、ジャンク格企業だと60%も急増していました。逆にドル建ては投資適格級の企業で0.7%減少、ジャンク級企業でも1.4%増にとどまります。

ソシエテ・ジェネラルはアップルに続く優良銘柄でユーロ建て社債を発行する可能性が高い企業として、IBM(IBM)を挙げていました。他にバイアコム(VIA)、コカコーラ・エンタープライズ(CCE)、モトローラ・ソリューションズ(MSI)、ファイザー(PFE)、ターゲット(TGT)、ディーア(DE)、モザイク(MOS)、ウォルマート(WMT)、アロー・エレクトロニクス(ARW、セント・ジュード・メディカル(STJ)、CAテクノロジーズ(CA)に注目しています。

米10月雇用統計後、JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストは「賃金の上昇は労働市場のひっ迫から遅れをとるケースが多い」と指摘していました。その上で「否応なしに『タカ派的』な雇用統計は、当方が2015年6月と予想するように来年半ばの利上げと整合的な内容」と振り返っています。FF先物も、第1弾の利上げ先送り観測が後退。2015年9月17日に0.50%へ上昇するとの織り込み度は7日に56%と、6日の12%から急伸しました。同年7月29日に0.5%引き上げられるとの織り込み度も7日に36%と、6日の6%から大幅上昇しています。

出口を見据え、経済指標などデータを精査するイエレン議長。
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(出所:AP)

2015年半ばの利上げ見通しが強まったとはいえECBという援軍が傍にいれば、企業のトップに立つCEOは従業員や投資家にお菓子を食べさせてやれそう?

ストリートワイズは、債務が増加する企業にスポットライトを当てます。

フランス軍のマジノ線失敗、ビートルズをオーディションで落としたデッカ・レコードなど、世紀の大失敗は当時の大英断とされていました。株式で言うなら、債務拡大こそ失敗例と言えます。金鉱、石炭、石油関連企業は商品価格が上昇していた頃に債務を積み上げたものの、商品価格が下落した現時点ではその負担に喘ぐ状況。投資家も火の車といった様相のバランスシートを認識しており、クリフ・ナチュラル・リソーシズ(CLF)は年初来から50%下落、ウォルター・エナジー(WLT)は80%もの急落と惨憺たる有様です。

しかし商品関連企業以外だと、株価は堅調。例えばドラッグストア大手ウォルグリーン(WAG)は欧州の同業アライアンス・ブーツの完全買収の費用など80億ドルの資金調達に踏み切ったものの年初来から約17%上昇しています。

違いは何か。確かに、S&P500を構成する企業は長期債務を上半期末までに6.6%拡大させました。とはいえ、レバレッジを大いに利かせてきた2008年以下にとどまります。負債資本比率や利払い前・税引き前・償却前利益(EBITDA)に対する比率をみても、過去17年間で最低なんですね。そうなると、業績不振が懸念される商品関連企業だけが狙い撃ちされるのも納得です。

また商品関連企業でも、資産売却など自助努力を決断する企業の株価はしっかりしています。チェサピーク・エナジー(CHK)が良い例で、ペンシルベニア州での掘削権を売却したこともあって年初来リターンは8.5%下落にとどまっています。債務返済能力があるか、返済のため身を削っていればまだ投資家から温情を受けられる実体を表していますね。

(カバー写真:Reuters)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年11月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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