バロンズ誌:米国のニュー・ノーマル、原油安は景気にネガティブ? --- 安田 佐和子

2014年11月18日 02:10

バロンズ誌、今週は「新しい中国(The New China)」と題し、中国の景気鈍化の陰で台頭しつつあるアジア諸国——ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマーに注目します。中国の輸出が過去4年間で31%増から8%増へ減速する間、以上の4カ国は20%以上を謳歌。国内成長率の加速にも、期待が掛かります。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、止まらない原油安に照準を当てております。アジア太平洋経済協力会議(APEC)後に行った米中首脳会談で、両者は二酸化炭素(CO2)排出量削減をめぐる数値目標を発表。オバマ米大統領は2025年まで2005年を基準に26—28%の削減を、習主席は2030年前後をピークに削減を目指す方針を明らかにしました。批評家は、温暖化対策に対し「米国の成長を妨げる」と槍玉に上げています。

それもそのはずで、足元は原油をはじめとした商品価格の下落を背景にデフレ圧力が掛かる状況。為替市場、信用市場、米株市場では余波がちらつき始めました。

基本的に原油安はガソリン価格の下落につながり、車社会の米国では好意的に受け止められます。ニューヨーク・タイムズ紙は14日、「原油刺激策(THE BARREL STIMULUS)」と大文字でデカデカと掲げた記事(オンライン版ではタイトルが異なりますが)で、消費者に与える恩恵を強調。キャタピラーのダグラス・オーバーへルマン最高経営責任者(CEO)の言葉として、「原油価格が75-95ドルの水準で推移すれば、米連邦公開市場委員会(FOMC)や米議会が成し遂げられなかった景気刺激包括案を差し出すことになる」と大いに評価していました。

ガソリン価格、ニューヨークでも3ドル割れが意識される水準に。
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ただし、この論調は米国が水圧破砕など技術革新をもって足どりを固める米国エネルギー自給路線とは相反します。マンハッタン・インスティチュートのステファニー・ポンボイ氏は、レポートで原油安が米経済にマイナスになると指摘。米国が原油消費国から生産国へシフトするなか、「原油・天然ガス生産額が年間3000億—4000億ドル相当増加しなければ、経済にネガティブなインパクトを与える」と説きます。米国のニュー・ノーマルとは「原油安=景気押し上げ」ではなく「原油安=景気下押し」というわけなんですね。

別の団体も、シェールオイルの生産者のうち「30%は現状の原油価格では利益が出ない」と警告します。シェールオイルの生産には維持費が掛かるところ採算に見合わず、設備投資の削減を余儀なくされ「米国内総生産(GDP)を0.5%ポイント押し下げる」と算盤を弾いていました。名目ベースでは、さらに顕著となります。現在のドル価値で換算すれば、「収入の伸びを1-1.5%押し下げる」とか。高利回り債市場のうちエネルギー企業の社債が17%と2008年の8%から上昇している点も、原油安の加速と合わせ懸念材料です。

原油価格が75ドルを割り込み約4年半ぶりの安値を示現するなか、13日にはマイクロソフトが石油メジャー最大手エクソン・モービルを抜いて時価総額2位に躍り出ました(1位はアップル)。ハリバートンは、原油安に対応するため競合ベーカー・ヒューズ買収に乗り出し、それぞれ生き残りを掛けた道のりを模索しつつあります。

米10月小売売上高は確かに9月の減少分を相殺したとはいえ、ガソリン価格下落の恩恵を受けた割には心もとない。百貨店の売上高は減少をたどっていました。また米11月ミシガン大学消費者信頼感指数・速報値で、インフレ見通しが減速した点も気掛かり。Fedの利上げシナリオに変化をもたらす可能性をはらみます。

原油安は短期的には消費者へのクリスマス・ギフトとして期待が高まるものの、長い目でみると石油生産国たる米国の景気を押し下げかねない——同コラムは保守寄りなだけに、設備投資に絡めた以前のようにエネルギー価格の下落には慎重スタンスを貫きます。

ストリートワイズは、原油安と米経済指標の好転を理由に米株高が継続すると予想します。特に米9月雇用動態調査(JOLT)で求人件数が約13年ぶりの高水準だっただけでなく自発的離職者も離職者数全体の57%を占め、アメリカ人の米景気に対する自信が表れていましたから。おまけに2015年は末尾が「5」で終わり、米大統領選を控える年。2つのポジティブなアノマリーを踏まえれば、来年も強いパフォーマンスを予想せざるを得ない?


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年11月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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