好調な経済をよそに「死に体」のオバマ政権 --- 岡本 裕明

アゴラ

アメリカの景気回復は順調な足取りに見えます。細かい数字を見ていくとまばらさはありますが、日欧中が今一つな中では非常に上手な経済運営をしているかと思います。私が唯一気になるのはインフレ率がなかなか上がらないことと住宅市場において数字に見えない異変が起きているという事でしょうか?


10月のアメリカCPIはプラスの0.2%で年当初からは1.7%(コアは1.8%)であります。予想よりやや強含んでいますが、エネルギー価格の下落でもう少し下押しする懸念はまだ残っています。上昇をリードしているのがサービスセクターですから確かに富裕層から中流層に景気回復の実感が浸透しつつあるという見方もできるのでしょう。ただ、強いドルのアメリカだけにインフレが促進されやすいとも思いにくく、このままとんとん拍子に目標の2%にリーチするかどうかはまだ予断を許さないのではないでしょうか?

一方、住宅については高額物件の足は比較的順調に推移しているもののエントリーレベルの物件に伸びがないことが指摘されています。これは以前、読売新聞でも配信があったのですが、若年層において学生ローンの負担が大きく、住宅を買うような状況になっていないという事が主因として掲げられています。典型的な1%と99%のアメリカでありますが、富を持つ個人ないし会社がより強大になり、若者の成長の芽を引き出せなくなっている可能性がないとは言い切れません。もちろん、学費が高くなっていることもあるのでしょうが、経済が世代を超えて廻るという発想がここで繋がらなくなると頭が痛いことになりそうです。

さて、先日の中間選挙の結果が世論をどれ位揺るがせたか、といえば予想された事態だったこともあり、慌てふためいた感じは見受けられず、むしろ、今週木曜日からのサンクスギビング、ブラックフライディーからクリスマスへと盛り上がっていくのでしょう。ただ、オバマ大統領の精彩はいよいよ冴えないものとなり、今後の展開に黄色信号が灯っています。

まず、移民制度改革の問題。これはオバマ大統領が当初から目指していた氏の公約をこの時期に及んで強行突破しようとしています。アメリカでは人口の3.5%が不法移民とされています。ところが出生主義をとるアメリカではアメリカに生まれた子供はアメリカ人になるため、その親が不法に滞在する状態が生じています。そのためにオバマ大統領は不法移民の約半分とされる500万人に対して3年間、滞在許可を出したい、というものであります。

本件は民主が過半だった上院を2013年6月に通過させていますが、下院は共和が猛反対しており、全く可決の見込みがないため、大統領権限で強行突破しようとしています。これに対して共和党は年明けからこれを阻止するためにあらゆることをするという姿勢を見せており、大きく揺れているのです。

この問題はアメリカにとって深い悩みであります。移民国家のアメリカは人口増は経済効果もあり、基本的にプラスでありますが、誰でもよいわけではありません。出生主義も民族主義を薄め、人口増を促進するには整合性はあるのですが、経済が不振になり、雇用が十分に創設されないとドアを閉めるべきだという意見は当然強くなります。また、保守からすれば「不法」という根本思想の相違が出てしまいます。

血統主義の日本人がこの問題をどうこう論評するのは難しく、私も突っ込んだ意見をしにくいのですが、敢えて言うなら問題の本質の前に法治国家のアメリカにおいて不法滞在者のうち理由が伴う半分の人だけに3年間だけ認めるという案そのものが不安定要素である気がします。つまり何も根本から解決しておらず最終的に何を求めているのか分からないのであります。仮に大統領令で強硬しても継続性にも疑問符がついてしまいます。

浮浪者にパンを与えるのも重要ですが、浮浪者を独り立ちさせ社会復帰させるプログラムの方が重要なのと同じで3年間延長することで何が変わるのか、といえば問題の先送りともいえるのかもしれません。

オバマ大統領にとってもう一つの頭痛の種はヘーゲル国防長官が辞任したということでしょう。これは月曜日の朝のトップニュースであります。ヘーゲル氏は共和党出身で民主党出身のオバマ大統領と党の枠を超えて協力するというのが発想の根源でありました。しかし、ヘーゲル氏がシリア攻撃を提案したのに対して大統領はNOといい、民主党のライス氏が大統領にイスラム国への空爆を提案し、YESとしたことは矛盾であるとし、ヘーゲル、ライスのどちらかが辞めるべきだという争いになっていたものです。

議会の主力が共和になったこともあり、ヘーゲル氏はこれ以上、政権にいても自分の損失であると考えた節はあります。国防長官がこれで空席になるという事は今後、世界和平というレベルでも不安を残すことになります。

オバマ大統領は正に「死に体」でありますが、次期大統領選を考え、その職を放棄するわけにもいかず、どうやってクリントンにつなげるか、模索しているように見えます。ただ、大統領があまりにも議会との混乱を作り続ければ国民がそっぽを向くだけでなく、せっかくの順調な経済運営に影を落とすことにもなりかねません。

大統領には威厳が必要なのは分かりますが、日本の様にすぐに解散総選挙ができない体質であるがゆえに大統領がやらなくてはいけないことは何なのか、慎重にならざるを得ないのではないでしょうか? 極論すればドイツの大統領の様に実質は何もないというほうがアメリカの為になるとも言えなくはない気がします。勿論、大統領を辞任という選択肢もありますが、かつてそれをしたのはニクソンだけ。クリントン(夫)のような醜聞でも辞めないのが大統領のポジションでありますからオバマ大統領はこれ以上、無理をしない方がよい、というのが私の個人的な感想であります。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年11月25日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。