小回りと現場裁量を忘れつつある日本ビジネス --- 岡本 裕明

アゴラ編集部

先日ある会社にインターネットを通じて問い合わせをしたところ、一週間たっても何も返信がありません。おかしいと思い、「先日メールを送っているのだが返事を頂けないのか?」と催促メールを送ったところ半日たってようやく電話がかかってきました。担当者は悪びれる様子もなく、先方の説明を一方的に押し付けてきました。「いや、その点については考慮の余地はないのですか?」と聞いたところ、できないの一言。結局、「ご縁がなかったことで」と電話を切ったのですが、実に後味の悪い体験でした。


その数日後、その会社の同業者と話をしていたところ、「あぁ、あそこは経営が苦しくて人も足りなくて同様の苦情があちらこちらで出ていますよ」と。「あれ?業界最大手じゃなかったのですか?」「創業者が辞めてがたがたになっています」と。

この会社は確かに業界のパイオニアとして破竹の勢いで伸びたのですが、伸びに対してサービスがついて行っていないことから顧客満足度が下がり、逆に広げた風呂敷をうまく畳まないと会社の存続すら危ないという事のようです。

電話で話しながら印象的だったのは若い担当者が会社のルールを杓子定規で振り回し、「それは決まりですので」で押し切ってしまったことでしょうか? 世の中、様々なケースが存在します。その事情に勘案した対応が一切できないのはマニュアル文化の大きな弱点であります。

同じマニュアル文化の発祥地、北米においてはマニュアルに対して一定のフレキシビリティを持たせる「進化」を遂げています。また、担当者の権限のフレキシビリティを超える要求の場合にはマネージャーが対応することが多く、私の経験ではこの数年、ほとんど大きなトラブルは発生していません。つまり、クレーム処理がきちんとなされているという事です。

例えばクレジットカードの支払(こちらは原則自動引き落としではなく、自分で支払いを起こさなくてはいけません。)が期限を超えた場合、翌月には必ず「遅延利息」が加算されています。利息も2割を超えますから結構な額です。が、この遅延利息、クレーム(というより懇願)をすると案外消してもらえます。

あるいは携帯電話の通信費。携帯本体の償却前でも未償却分をおまけしてもらえる可能性はあります。その決め手は「私はオタクの通信会社と20年以上のおつきあいです」の一言。先方も私の個人データをパソコン画面で見ながらの対応ですので「お客様は当社にとり、とても重要ですのでそのようにお取り計らいさせていただきます」と返ってくるのです。先述のクレジットカード会社へのお願いも同様です。つまり、顧客情報をみてフレキシビリティも持ち合わせた進化を遂げているのです。

北米の場合、マニュアルに書いていない場合の対応はスタッフに委ねられているのですが、皆さん、よく勉強していて「プロフェッショナルリズム」を感じることが多いものです。一方、日本の場合には「少々お待ちください」ばかりでスタッフの判断による対応があまりにも少ないことに時として腹立たしさを感じることすらあるのです。

私は自分のビジネスにおいて「目が届くこと」を主眼としています。さもなければスタッフによる対応はケースABCをなるべくアップデートしているつもりです。それはビジネス環境の変化が早い中で顧客の要求も時と共に大きく変わっているからです。それなのに「作ったマニュアルがある」とそれを見直しもせず放置していると顧客満足度は確実に落ちます。また、会社の成長が早い場合、冒頭のような行き届かないケースがまま生じてしまうのであります。

これはせっかくの潜在能力ある会社を十分に生かし切っていないことになり、むしろ会社への損失とすらなってしまうのではないでしょうか?

これを防ぐにはどうしたらよいか、私は原点に立ち返るべきだと思います。経営陣がもう一度現場で何がおきているかチェックし、無理が生じている場合には一時的な規模縮小も必要だと思います。顧客満足度は今後、最も重要な経営指標の一つとなるはずです。ありきたりの言葉が並ぶメールを貰うより自分だけにあててくれたメールを貰うと「あぁ、自分のことを気にしてくれているのだな」と思わず一生懸命読んでしまうものです。

規模の追求がビジネスの基本路線ではありますが、時としてカスタマーを置き去りにしていないか、振り向いてみることも必要ではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年11月26日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。