Gの世界の「学力観」がLの世界の児童生徒を駆逐する

2014年12月07日 10:00

「ゆとり教育」が転換されてひさしい。今どきの授業風景を現場からお送りしたい。

まず「ゆとり」と「新学力観」が混同されているようなので、ここから説明させていただきたい。迂遠ではあるが。
「新学力観」は、1989年の学習指導要領で採用された学力観である。ポスト近代社会を迎え、知識や技能を子どもたちに詰め込むのではなく、子どもたち自らが思考し、社会の変化に対応できる能力の育成を目指そうという崇高な理念を体現していたのだ。今でいうグローバル人材、Gの世界を意識した内容でもあった。


「新学力観」はGの世界を意識していた
当時は、偏差値が重視される受験競争を緩和するねらいがあった。偏差値という無味乾燥な一面だけで子どもたちを評価するのではなく、多様な評価軸を提供していこうとするコンセプトであった。教師の役割は「指導」「教授」より「支援」が望ましいとされ、学力の評価も「知識・理解」よりも「関心・意欲・態度」が重視されることとなった。

一方、「生きる力」は、平成8年に第15期中央教育審議会が答申において提言したもので、「自分で課題を見つけ、自ら学び、自ら考え、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する能力であり」、「自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など、豊かな人間性」であり、「たくましく生きるための健康や体力が不可欠である」と高らかに宣言された。

みんなでGを目指すのは難しい
しかし、「新学力観」を具体化した「問題解決型学習」は、なかなか難しい学習形態の試みだった。

理想からいえば、「問題解決型学習法」とは、教師が予め準備した授業案に従って学習するのではなく、たとえば「三角形の面積の求め方を考えよう」というテーマについて、個々の生徒が思考し、その様々な考え方を黒板に提示し、議論をして、確認をしていく。そして既習事項しか使ってはいけないという縛りがあるので、教師はその枠の中で児童の発言を選んで発表させる。結果「四角形の面積を半分にすればいいんだね」だから「底辺×高さ÷2」というあたりに落ち着くが、すでに塾などで学習している児童は「なにを当たり前のことを延々とやっているんだ」と思っているし、あまり理解の覚束ない児童は、「なにを話し合っているのかさっぱりわからない」という授業が展開される。練習問題を解く時間はなく、結果、まったく「習熟」しないまま上級学年へと進学していくことになる。「習熟」を知育偏重と批判する教育関係者も多いが、良くも悪くも日本の教育で知育が重視されたことが今までにあっただろうか。

「新学力観」の真骨頂は、試行錯誤のプロセスの中に、学習の目的があるし、またその過程そのものが学習といってもいい。最終的に答え、正しい解決に到達したかどうかは、その過程に比べれば、重要ではない。教師が準備し、設計した道すじをたどって学んでいく系統的な学習ではなく、児童生徒自身の自発性、関心、能動的な姿勢から、自ら体験的に学んでいく努力の価値を評価するということである。

しかし、児童生徒主体の学習方法は、教師の思惑を超えて展開する。塾に通っている子どもには「なにを当たり前のことを話し合ってるんだ」になるし、初めて問題を見る子どもは「なにを話し合っているのかよくわからない」という事態になる。そして、不遜にも多くの教師は「塾では教えられてないほんとうの学力をここで身につけているのだ」と思っているのである。(本気でこう思っている教師は多い。地獄への道は善意で舗装されているのである。)

「ゆとり」はたんなる分量の削減だが、「新学力観」は革命的な授業スタイルの変容をせまっていた。そして、「ゆとり」は転換され、「新学力観」だけがのこった。分量・難易度が格段に高まり、「手にあまる」この「新学力観」の指導が続くことを、わたしは憂慮している。

GかLかの教育を分けて議論すべきではないか
これは、学習のおもきを「創造」か「習熟」のどちらかにおくか、という問題でもある。「習熟」はリテラシーと言いかえてもいい。「創造」できれば「習熟」はいいのか。「習熟」を図るために既習事項をもう一度学習するという「スパイラル学習」というコンセプトも登場したが、どうも付け焼刃である。たとえば、ものづくりの企業で、三平方の定理を使うことよりも、それを「発見」するような高度な「問題解決」能力が、つねに重視されるのだろうか。「問題解決」能力の育成は、Gの世界の住人のようなかなりレベルの高い試みだろう。それをLで活躍する子どもにまで要求することが、「生きる力」なのだろうか。

中沢 良平(小学校教諭 初任者)

参考:森口朗公式ブログ

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