「平和憲法」──コスタリカと日本(1) --- 井本 省吾

2014年12月13日 12:10

高山正之氏が週刊新潮に連載している「変見自在」12月18日号で、コスタリカの「平和憲法」について書いている。

中米の小国コスタリカは1949年以来、常備軍としての軍隊を廃止した「平和憲法」を持っている。これに対して、日本は同様の平和憲法を持っていながら、事実上の軍隊である自衛隊を創設してしまった。「日本はコスタリカを見習え」と、朝日新聞などが20年近い前から書いているという。


実際、朝日新聞の過去の記事を点検すると、そうした記事が少なからず見られる。憲法「9条を守る会」などが各地で「コスタリカに見習え」という会合を開いているという記事もふんだんにある。

「これがウソだ」と高山氏は批判する。

コスタリカには、実はロケット砲などを持つ特殊警察があるのだ。その警察官の人数は1万人。少ないようだが、コスタリカの人口は490万人。日本の26分の1だから、1万人の警察官は人口比で見れば、日本の自衛隊25万人に匹敵する。

軍隊といわず、特殊警察としているが、国債戦略研究所(IISS)は準軍隊と表現している。軍隊といわず、自衛隊と言っている日本とほとんど変わらないのだ。 
 
しかも、コスタリカの憲法をよく見ると、有事では徴兵もできるし、日本が憲法9条で放棄している「交戦権」と「武力行使」を認めている。

さらに、ここが肝心だが、コスタリカは米州機構に入り、米州相互援助条約(リオ条約)を結んでいる。イザというとき、日米安保条約に依存する日本と同じである。

違いは自衛隊がF15などの高性能戦闘機を保有する軍事力を装備するのに対して、コスタリカが軽装備というだけのことだ。しかし、これは経済規模も人口も日本よりも極端に少ない小国だからである。

日本とコスタリカの違いの多くは米国の姿勢にも関係している。中米は米国の裏庭である。コスタリカの隣国は米国にとって不可欠の運河を抱えるパナマ。ここも軍隊を持たないが、理由ははっきりしている。

いつクーデーターを起こして、米国にも攻撃を仕掛けてくるかわからない国民に軍隊を持たせるよりも米軍によって支配した方が米国の安全と国益に資すると考えているのだ。 

高山氏はこう指摘している。

<広島長崎(の原爆投下)の報復権を留保する日本から軍隊を取り上げたのと同じだ>

「日本に核兵器をはじめとする強力な軍事力を持たせると、国際法違反の原爆投下をした米国に対していつ復讐戦を展開するかわからない」という不安と猜疑心が、日本の軍事力を一定以下に制限するテコになっている。
 
話を戻すと、米国の強力な軍事力と安全保障政策に全面的に依存しているのがコスタリカとパナマなのである。米国の狙いと思惑を熟知して、その軍事力に自国の安全を委ね、自らの予算は医療や教育、国土開発など他に振り向ける。小国の知恵である。

これをわからず、「コスタリカに見習って軍隊を放棄せよ」などと言っている朝日新聞は意図的なウソ情報を流していると批判されても仕方があるまい。

だが、朝日はコスタリカやパナマの事情を詳細に調べた記事も掲載している。少し古いが、2005年4月27日に掲載された「パナマ、米頼みの安保は 軍備放棄国の事情探る」という記事はこう書いている。
 
<軍備放棄を決めたパナマのエンダラ元大統領は「米国がパナマの安全保障装置」といった。 コスタリカも同様だ。49年に憲法で常備軍禁止を決めたが、それは米国に国防をゆだねる決断をしたからだ。 安全保障のあり方は国ごとに異なる。パナマとコスタリカは米国に近接する地理条件の中で「パックス・アメリカーナ」(米国主導の平和)に加わることを選択した。中米の両国と日本とでは事情が違うとはいえ、軍備以外の安保を考えるうえで示唆を与えてくれる>

国の安全保障をどう担保するかについて、よく理解した記事と言えよう。

ところが、ここから記事は朝日らしいというべきか、おかしな方向に行ってしまう。

<当時(サンフランシスコ講話条約調印時──引用者注)、憲法9条の安全保障の基本は世界連邦構想にあるといわれた。しかし現実には、当面の脅威はソ連であり、米国が日本を守るという発想があった。米国が「正しい米国」であるうちはそれでいいかも知れない。「悪い米国」「弱い米国」になったときどうするか、といった問題は残る。 現在の日本では、何が安全を保障してくれるのだろうか。 当面の脅威が北朝鮮だと考えれば、相変わらず米国の存在は大きい。しかし北朝鮮にもっとも影響力を持つのは中国だろう。とすれば、中国をどうやって動かすか、その外交が安全保障上大きな意味を持つことになる。 だが、日本と中国は今、指導者が相互訪問もできない状態だ。日本政府は国の安全保障に真剣に取り組んでいない、とみられても仕方あるまい>

現実的な安全保障論を展開していたのに、最後になって日本外交批判という従来の朝日路線に戻ってしまっている。

「外交は相手あってこそ」ということを理解していない(というより、イデオロギーの呪縛から、その点を見ないようにしているのだろう)。

中国は自らの勢力を拡張する長期戦略をとっている。日本を支配下に置きたいと願っている。朝日がそう見ていないとすれば、無知と言われても仕方があるまい。

中国の長期拡大戦略に乗り出しているのに対し、米国は経済力の限界から軍事予算を削減せざるを得ない状況になっている。とすれば、日本は従来のように米国に依存しているばかりではいられない。自らの軍事力を強化し、日米が相互に助け合う仕組みを整える必要がある。それが集団的自衛権の行使容認である。

コスタリカがイザというとき交戦権、武力行使を認める憲法にしているのに近い。

その点では「コスタリカを見習う」必要がある。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2014年12月13日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。

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