教育・研究目的の著作物利用に合法判決が相次ぐ米国(その3完)

2014年12月14日 00:12

(その2)でグーグル書籍検索サービスに対する訴訟2件のうちの1件目の訴訟を紹介したのに続いて、2件目の訴訟を紹介する。


2. グーグルに書籍を提供した図書館に対する訴訟
グーグルを訴えた全米著作者組合などは、グーグルに書籍をスキャンさせた大学図書館に対しても著作権侵害訴訟を提起した。ミシガン大学など5大学の図書館は、グーグルと提携して図書館の書籍をデジタル化し、検索可能にするHathiTrust電子図書館を運営している。全米著作者組合はHathiTrustを訴えたが、2012年、ニューヨーク南部連邦地裁はフェアユースを認める判決を下した。

第1要素(利用の目的および性質)については、表示される検索結果は元の書籍と全く異なる典型的な変容的利用なので、フェアユースに有利とした。第2要素(原作品の性質)については、原作品が著作権法で保護しようとしている創造的作品であることは間違いないが、変容的利用の場合は創造性の要素はあまり重要ではないとした。第3要素(利用された部分の量と質)については、全文を複製することは問題だが、そうしないと全文検索できないので、利用量が度をすぎているとは考えられないとした。

第4要素(利用が原作品の市場に与える影響)については、まず、原作品に取って代わる作品であれば、原作品の市場を奪うおそれがあるが、変容的作品はもともと取って代わる作品ではないので、そのおそれはないとした。具体的に原告は全文検索が書籍の市場を奪うと主張したが、全文検索は書籍に取って代わるものではないとした。

以上、4要素中3要素がフェアユースに有利なので、フェアユースが成立すると判定した。グーグルを直接訴えた上記の訴訟も、地裁判決を不服とした原告が上訴したため控裁で審理中だが、裁くのは同じ第2控裁なので、この判決によって、上記1.のグーグルに対する訴訟で、地裁に続いて控裁でも合法判決が出される可能性が高まった。

フェアユースの効用
以上、教育・研究目的の著作物利用に関する最近の判決を紹介した。いずれもデジタル・ネット化が生んだ新しいサービスに対して、5件中4件でフェアユースが認められた。認めた判決のうち3件で著作物の利用を変容的利用であるとした。

フェアユースを考慮する際の4要素のうちの第1要素は、「利用の目的および性質(利用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的を含む)」と規定している。このため、1984年の米国ソニーが販売したVTRの著作権侵害が争われたソニー判決では最高裁は商業性を重視した。しかし、パロディーの著作権侵害が争われた1994年のキャンベル判決で最高裁は解釈を変更。作品の変容性を重視するようになった。単に原作品に置き換わるだけの作品なのか、別の目的を加える変容的な作品なのかを考慮し、変容的であればあるほど商用目的など他の要素の重要性は低くなるとした。

第1要素で変容的利用を認めることは、総合判定でもフェアユースを認めやすくなる。変容的利用は原作品に取って代わるのではなく、新たな価値を加えるので、原作品の市場を奪うか否かを考慮する第4要素でも、フェアユースに有利な判定が出やすくなるからである。しかも、この二つの要素は裁判所がフェアユースを考慮する際に最も重視する要素でもある。

変容的利用は、上記のとおり、もともとパロディをフェアユースとするために生まれた法理だが、新技術・新サービスについても適用されるようになった。典型例が画像検索サービスである。2009年、第9控裁は画像検索エンジンに対して、著作権のある写真などを検索しやすくするためにサムネイル画像にすることは変容的利用なので、フェアユースにあたるとした。

フェアユース再考の必要性
筆者は「グーグルの書籍検索サービス合法判決でますます拡大する日米格差」(その1)で以下のように指摘した。

グーグルの書籍検索サービスGoogle Booksをフェアユースであると認定したニューヨーク連邦地裁の判決を機に、日本も前回骨抜きにされたフェアユース規定の導入を再検討しないと、米国との格差は開く一方で、ネットサービスのプラットフォームを米国勢に握られてしまう問題は一向に解決しない。

前回、骨抜きにされたフェアユース規定導入の検討経緯については、字数の関係で小書「著作権法がソーシャルメディアを殺す」第2章「著作権者の保護に躍起になる人たち」を参照されたい。審議の過程では変容的利用を認めるべきという議論もあったようだが、上記、小書のとおり、権利者の利益代表委員が過半数を占める審議会では受け入れられなかった。

ネットから入手できる情報量の爆発的増大に伴いコピペ論文も急増しているため、コピペ論文検出サービスも急成長している。最初に紹介したコピペ論文検出サービスTurnitinを開発したiParadigms社は、研究者用にiTheticate(アイセンティケイト)も開発した。iTheticateはSTAP論文コピペ問題で、日本でも脚光を浴びている。以下は「『コピペ対策は…あります!』 蔓延する不正、対策急ぐ大学」からの抜粋である。

米企業が開発した「アイセンティケイト」は、コピペ判定ソフトとして最も普及している。論文やリポートを、データベース上の約1億3千万本の論文や約450億のウェブページと照らし合わせ、コピペされた部分を表示する。国内の販売元「アイグループジャパン」(東京)は、STAP論文問題以後、全国の大学から製品の問い合わせが急増したという。

90年代半ばに日米同時に開発された検索エンジンも、フェアユース規定のないわが国では、著作権侵害の恐れを回避するため、事前に検索するウェブサイトの了解を取る「オプトイン方式」を採用した。これに対して米国では、自分のウェブサイトを検索されたくない場合には、その旨を意思表示すれば、検索を技術的に回避する手段を企業側が用意する「オプトアウト方式」で対応した。

検索サービスは情報の網羅性、包括性が命であるだけに、オプトインしたサイトしか検索対象にしないサービスと、オプトアウトしないかぎり検索対象にするサービスとの差は決定的で、日本も2009年の法改正で個別権利制限規定を追加し、検索エンジンを合法化したが、時すでに遅し。日本の著作権法の適用を逃れるため米国内にサーバーを置き、日本にサービスを提供した米国勢に日本市場まで制圧されてしまった。

コピペ論文検索サービスや書籍検索サービスなど有望市場の教育・研究分野関連ビジネスでも、検索エンジンの二の舞を演じないようフェアユースの導入を再考すべきである。

城所岩生(米国弁護士)

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