再生可能エネルギー普及政策は是か非か--エーオン・ショックの解釈

2014年12月19日 10:12

photo-3山家公雄
エネルギー戦略研究所取締役研究所長

1・再エネ推進が政策としての前提

12月1日付けの筆者の「再エネ接続留保問題」に係る論考への反論が、小野氏より寄せられた。再エネ推進を巡る全体的な論考であり、かなり広範囲に議論が広がっている。編集からの要請もあり、より広い視点でこの問題を整理してみた。


小野氏の論考を筆者なりに整理すると「太陽光、風力の変動する電気は品質上の問題があり、コストもまだ高い。欧州では、安定供給に責任を持っている電力会社は、補助金で優遇されている再エネ普及により、経営が窮地に陥りつつある。バクアップという重要な役割を担う火力発電の稼働が低下している。これは間違いであり、再エネの普及を再考すべきだ。」という趣旨と理解した。また、固定価格買取制度の問題を強調しているが、推進手段が何であれ(RPSであれ)、再エネ自体を問題視している。

部分的には理屈があり、これまでよく言われてきたなじみの議論である。こうした議論があることは筆者も十分承知しており、再エネは課題がある(どの資源もあるが)ことを前提に議論を展開している。

課題があるから、従来の担い手が困ることになるから、進めるべきではないということでは、世の中が変わらない。化石燃料への依存を減らしていくことは、地球環境や安全保障等の問題から、国際的なコンセンサスがある。先進国は2050年までにCO2を8割削減する義務を負っている。偏在する資源を巡る国際紛争も絶えない(中東、ウクライナなど)。

こうしたなかで、再エネや省エネを進めることは多くの国が重要政策として進めてきており、定着したといってもいい。課題を克服する技術進展も目覚ましく、再エネ、省エネは急速に普及している。風力・太陽光の従来の常識を超えたコスト低下と普及(シェアアップ)、エコカー、LED電灯、省エネビルなどによりエネルギー効率向上の実績も目覚ましい。

この政策が引き続き進んでいく(べき)とみるか、課題が多いから従来のシステムに軸足を置くべきとみるかで、ものの見方は大きく変わる。世界は明らかに前者で、日本はまだ不透明である。論考する際の前提が異なる。

2・エネルギーの考え方・前提が大きく変わる

【安定供給義務は電力会社からインフラ会社へ】

エネルギーを巡る議論が混乱しがちなのは、まさに時代の変わり目だからである。世界的には、100年間続いたシステムの変わり目であるとの指摘は多い。自由化、構造変革、低炭素、省資源、分散型等のキーワードが並ぶ。

「電力会社」という事業主体は、発送電分離を採用した国・地域ではもはや存在しない。存在するのは発電会社、送電会社、配電会社、小売会社、サービスプロバイダーなどである。安定供給義務を負うのは送配電会社であり、(火力)発電会社ではない。

【多彩になった調整方法】

送配電会社は、自身のオペレート(グリッドオペレート)と市場取引(マーケットオペレート)を活用して、「調整力」を効率よく調達し、需給を一致させる。需給を一致させる手段としては、火力・水力のいわゆる調整電源(ディスパッチャブル)だけではなく、ストレージ(揚水発電等)、インターコネクト(連系線)、デマンドサイド(需要家の協力)があるという認識に変わってきている。

火力には地域や需要家に密着したコジェネも含まれ、この方が有効であるとの議論もある。ストレージには燃料(水素、メタンなど)や熱も含まれる。こうした需給を調整する機能は「フレキシビリティflexibility」と称されており、「バックアップ」はこの一部になる。フレキシビリティという概念は、IEAをはじめ多くの研究者や実務家が議論の前提としている。

需給を一致させるためには、予測力が決定的に重要になる。再エネ普及前は、変動するのは需要だけであり、「電力会社」はこの予測のノウハウを蓄積してきた。供給側でも太陽光・風力等が変動するが、このシェアが大きくなるとその予測力を高めていく必要がある。天候予測は急速に進歩しており、3時間前、半日前ではかなり正確に把握できるところまで来ている。

こうした考え方の変化や技術進歩により、変動する再エネの受容可能量が次第に増えてきている。再エネシェアが従来常識よりも大きくアップしているのは、こうした事情による。この動きは現在進行形で進んでいる。

以上のような、新しい思考や技術革新が可能になった背景には、ICT(物のインターネット:Internet of Things さまざまな商品、物、行動がネットでつながり情報を共有すること)の急速な進歩がある。膨大な情報を収集・処理して、監視・制御に活かせるようになった。

3・個別のコメント

以下は、小野氏論考に関する気になる事項へのコメントである。一部は既に前述している基本事項を含む。

その1「安定電源」という用語について

電力工学的には「安定電源」という用語は存在しない。系統信頼度や安定度に関しては、火力や原子力についても偶発的に供給停止することが想定されており、全ての電源が安定であるとは見なされていない。「安定電源」という言い回しは「なんとなく頼もしい感じのイメージ」を一般の方に伝えるに過ぎず、電力系統の設計・運用上(とくに系統セキュリティ上)は意味も持たない。

その2「バックアップ電源」という用語について

現在、IEAを始め世界各国の電力系統の研究者や実務者が議論し、新しい概念として提示しているのは「柔軟性 flexibility」であり、単純に再エネの変動を火力で「バックアップ」するという発想の時代では既にない。

その3電源のコストについて

再エネのコストは、多くの技術開発により、急速に下がっている。市場取引では、少なくとも風力は競争力をもつ。米国では固定費含めても風力は火力並みかそれ以下という試算もある。一方、コストには様々な視点があり、多くの機関が試算をしているが、まだ比較するのは難しい。社会的な便益やコストが発生するが、それのコストは正確に反映されていない。国産、環境、シーレーン防衛、事故の補償などを考慮に入れると違う水準になるはずだ。IEA・outlook2014では、化石燃料への補助は再エネへの補助より何倍も大きいと指摘している。

その4ドイツ(EU)の取引市場

ドイツでは再エネの市場価値が4セント程度しかない、と指摘しているが、全電源の取引価格が4セントを切っている中では、特段強調することではないように思える。

その5過剰設備と電力経営

設備過剰は、省エネが進んだことに加えて、2000年代に天然ガスを主に火力発電に巨額の投資したことも原因であり、「電力会社(大規模発電会社)」の経営判断が甘かった面はある。「旧電力会社」の経営問題は、天然ガスと火力発電への過剰投資、再エネへの過少投資が主要因であり、これは経営者もはっきりと認めている。なお、同じく旧電力会社から分離した「送電会社」(TSO)は、再エネのおかげで業績好調である。

その6ドイツの壮大な社会実験という認識

ドイツよりも、再エネ割合が多い国は少なくない。デンマーク、スウェーデン、スペイン、ポルトガル等。系統が孤立していても再エネ割合が高い国もある(スペイン、ポルトガル、アイルランド、アイスランド)が、破たんしていない。

その7図1の解説“Capacity Credit”(容量クレジット)について

やや細かい話になるが、ミスリードの恐れがあり、取り上げる。同図の “firm capacity” は“Capacity Credit”(容量クレジット)のことであるが、これを「容量クレジット」という適切な用語を用いずに「安定電源として期待できるのは」とするのは誤訳であり、読者に誤解を与える。容量クレジットは電源アデカシーの問題であり、そもそも安定かどうかとはあまり関係ない。これが低いからといって「優れた電源」ではないとは言えない。そもそも「優れた電源」という定義自体が存在しないので、この議論は無意味かと思われる。

4・最後に:エーオン、テイセンCEOの発言

最後に、欧州最大の「旧電力会社」エーオン社のヨハネス・テイセンCEOの説明の一部を紹介する。同社は、この11月30日に、歴史的な事業革新プランを発表した。従来電源、トレーディング、資源開発・生産を別会社に移すとともに、本体は再エネ、顧客サービス、配電事業にフォーカスする。本社はデュッセルドルフであるが、典型的なグローバル企業であり、ドイツ内の問題に留まらない。

●最近まで、エネルギー事業の構造は明確で直線的であった。バリューチェーンは、資源開発地から発電所、送電線、卸市場を経てエンドカスタマーまで繋がっていた。ビジネスの全体像が把握でき、大規模生産設備から監視・制御が可能であった。この従来型のエネルギー世界は、われわれにとって馴染みが深い。巨大設備とそれが統合されたシステム、大規模な取引により構築されていた。この技術は確実であり、成熟していた。

●これらのシステムはまだ存在しており、必要不可欠なものである。しかしここ数年、新しい世界が、並行するかたちで急成長してきた。多くの技術革新、顧客の期待の上に成り立つ世界である。新しい技術の成熟、コスト低下、それを背景とした再エネの普及がこのトレンドの主たる推進者である。どれよりも多く再エネ発電への投資が実施されてきている。再エネ投資は、減少するどころではなく、増え続けていく。

●同時に、再エネコストは急激に下がってきている。特に陸上風力は、従来型の電源と同等かそれ以下にまで下がっている。他の再エネも、遠からず経済性のあるものになる。

●再エネ発電は、単なる革命的な設備ではない。他の技術革新と融合して、顧客の役割を変えつつある。既に太陽光発電を設置し電力の一部を自給している場合は特にそうである。蓄電池が普及してくると、顧客は電力・ガスのネットワークから相当程度独立できるようになる。

●エネルギー供給を自らアクティブにデザインする顧客は着実に増えていく。何よりも、そうした顧客は、クリーンな、持続可能なエネルギー源を、そして資源を節約する効率的な消費を志向している。

山家公雄(やまか・きみお)1956年山形県生まれ。1980年東京大学経済学部卒業。日本開発銀行入行、新規事業部環境対策支援室課長、日本政策投資銀行環境エネルギー部課長、ロサンゼルス事務所長、環境・エネルギー部次長、調査部審議役を経て現在、エネルギー戦略研究所取締役研究所長、東北公益文科大学特任教授、京都大学特任教授。

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