バロンズ誌:マリンベストメントの功罪 --- 安田 佐和子

2014年12月22日 11:48

バロンズ誌、今週の特集は原油安局面で押し目買いすべきエネルギー銘柄です。約5年半ぶりの安値をつけるなか、同誌はシェブロン(CVX)、ロイヤル・ダッチ・シェル(RDSA)、シュルンベルジェ(SLB)のほか、EOGリソーシズ(EOG)やオキシデンタル・ペトロリアム(OXY)を推奨しています。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、テーマは原油と中銀の金融政策。15日週、マーケットは原油安に引きずられ、ディスインフレ懸念に足を取られ、どん底へ沈みました。そこから起死回生を演じた一方、こちらの国の目の前には暗くて深い海が広がっています。そう、ロシアです。

原油先物が6月時点の100ドル台から約50%も急落し、クリミア編入を受けた米欧の経済制裁も加わってルーブルが対ドルで最安値を更新し続け、16日には650bpとロシア危機が揺れた1998年以来で最大の利上げを余儀なくされます。ルーブル売りはそれでも止まず、一時1ドル=80ルーブルを突破する場面がみられました。出口を見据える米連邦公開市場委員会(FOMC)の金融政策発表前だっただけに、余計に投機的な動きを誘ったことでしょう。

S&P500も原油安とロシア危機再来の懸念を背景に当時ピークをつけた12月5日の2075.37pから売りの流れが続き、16日引け値までに100p、約5%も急落しました。投資信託にも、リスク・オフ相場の色彩が強まります。EPFRグローバルの数字をもとにシティ・リサーチが明らかにしたところ、17日までの1週間でファンドの売り越し額は284億ドルと2005年以来で最大を記録していたのです。リッパーの調査ではエマージング市場ファンドから43億ドル、ジャンク債からも31億ドル、その前は19億ドル、2週前は9億ドルと立て続けに流出していました。

こうした金融市場の混乱も、17日の現地時間午後2時に幕を下ろします。FOMCが声明文で利上げに「忍耐強くなれる(patient)」を明記した一方で「相当な期間(considerable time)」を残し、FF金利誘導目標見通しも2015年につき9月末の1.375%から1.125%、2016年も2.875%から2.5%、2017年も3.75%から3.675%へ引き下げたことが決定打となりました。

記者会見では、今後数回=2回にわたって利上げしないとも明言。
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(出所:FRB)

10月15日に底打ちした急落劇が、中銀による支援の賜物だったことが思い出されます。当時はセントルイス連銀のブラード総裁が量的緩和(QE)継続の観測気球を打ち上げ、日銀がハロウィーンに異次元緩和第2弾を宣言し、欧州中央銀行(ECB)が国債買い取りを含めたQEを断行する示唆を与え、中国人民銀行が予想外の利下げに踏み切りました。

2015年も、中銀の行動がマーケットの運命を握るのでしょう。

各国中銀が直面するデフレ圧力は、2015年もしぶとく残存する見通しです。ケスラー・インベストメント・アドバイザーズのロバート・ケスラー氏によると、原油先物の50%下落は銅なら2011年のピーク時から38%、鉄鉱石なら65%、アルミニウムなら32%の下落に相当すると分析します。

分析に基づき、ケスラー氏はコア消費者物価指数(CPI)が2011年の2.5%から下方トレンドにあると指摘。イエレンFRB議長が17日のFOMC後の記者会見で、エネルギー価格の下落は「一時的」と一蹴したことと対照的です。商品価格の下落は消費者にとって減税効果として寄与する見通しながら、世界の商品需要減速を背景に低金利が続くと考えられます。エド・ハイマン氏率いるエバーコアISIが「日本の0.36%、ドイツの0.57%に現れる通り、世界中の低イールドには何か深い意味があるのだろう」と分析していたのも、偶然ではないしょう。

低金利時代の勝ち組としては、新規株式公開(IPO)規模が250億ドルと史上最高を樹立させたアリババが挙げられるでしょう。アップルも、自社株買いを調達するため2013年に社債を初めて発行してから今年の11月にはユーロ建て社債に手を広げました。テスラもギガファクトリーの資金調達を目指し転換社債を20億ドル発行。5年物のクーポンは0.25%、7年物は1.25%となり、当時の株価に対し42.5%のプレミアムだったといいます。

プライベート・エクィティ(PE)にも資金が殺到し、配車サービスのウバーの時価総額は400億ドルにまで膨れ上がりました。シェールガス革命を背景に、エネルギー関連にも大量の資金が流入したものです。ただし原油先物の急落で、エネルギー関連ヘ流れ込んだ9300億ドルのうち一部は、もう良い投資先とは言えなくなったようですが。

デフレ圧力を背景とした中銀の低金利政策で資産価格を押し上げ、株価を過去最高値に導きました。歴史的な経済学者フリードリヒ・ハイエクが提唱したように、チープマネーはいわゆる古典的マリンベストメント(malinvestment)の過程でマネーサプライを拡大させ、同時に価格の下落を促したかたちです。おかげで消費者がたっぷり恩恵に浴した裏で、生産者側は売上縮小に直面しています。設備投資向け資金をかき集めるため発行した社債の支払い負担は、2015年もマーケットの動向に影を落としそうです。

ストリートワイズは、2014年に推奨した銘柄のパフォーマンスを振り返っております。今年はFedの出口戦略観測、世界景気の減速、地政学的リスク、エボラ出血熱などネガティブ材料を跳ねのけてきました。推奨銘柄のひとつ、ナスダック(NDAQ)はマイケル・ルイス著の「フラッシュ・ボーイズ」が発売された3月から33%上昇。ギリアド・サイエンシズ(GILD)も、C型肝炎治療薬「ソバルディ」の躍進から、46%の大幅高を遂げています。ただし、エネルギー関連は原油先物が予想外に沈んだため振るいませんでした。

オマハの賢人、ウォーレン・バフェットは、かつてこう言いました。「潮が引いたときこそ、誰が裸で泳いでるか分かるものさ」——どんな潮目にも耐え切れる2015年シーズンの水着、デザインが気になりますね。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年12月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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