朝日新聞の慰安婦誤報騒動はゾルゲ事件に似ている-北朝鮮の影

2014年12月25日 01:50

91年に動きが集中、なぜ?

Dr_Richard_Sorge_spy朝日新聞の慰安婦誤報事件で第三者委員会報告書が出た。これを読みながら、私は気味悪さを感じた。過去の共産圏諸国や北朝鮮によるスパイ事件に似た点が多いのだ。有名なゾルゲ事件にも、共通点がある。

言論アリーナ「朝日新聞誤報問題、黒幕は他にいる!?」に私はアシスタントとして出演した。この番組に出演のアゴラ研究所所長の池田信夫氏の推測、また報告書からこの論考の関連事実を抜き出してみよう。(写真はソ連のゾルゲの記念切手)

1・慰安婦の誤報は北朝鮮と日本の国交回復の期待が高まった91年前後に集中した。これは金丸訪朝団1990年9月の後だ。金丸氏は当時の北朝鮮の金日成主席との間で国交回復と、それと同時に払う1兆円の国家賠償の密約をしたとの噂がある。

2・1991年5月に朝日新聞大阪版が「慰安婦を強制連行した」と嘘をついた吉田清治を再び記事で登場させた。書いた記者は不明。

3・91年8月に朝日新聞の大阪社会部の植村隆氏が「元朝鮮人従軍慰安婦 戦後半世紀重い口開く」というスクープ記事を執筆。「金学順」という自称慰安婦の証言を載せた。しかし金学順がキーセン(一種の売春婦)に売られた情報を伏せた。また大阪版の記事では「女子挺身隊の名で」という文章が入った。女子挺身隊制度は女性の勤労動員で、朝鮮では行われず、慰安婦とも関係ない。これは誤報、捏造だ。

4・91年夏、NHK勤務だった池田氏に、福島みずほ氏(現社民党国会議員)らによる左翼系弁護士グループから、金学順を報道しないかという売り込みがあった。弁護士グループがどこから情報を得たのか不明だ。

5・植村氏の義母は90年11月に結成された「韓国挺身隊協議会問題対策協議会」の幹部。同団体は過激な抗議活動を続け、北朝鮮系団体として韓国政府に監視されている。同団体は慰安婦と挺身隊を混同する主張をしている。植村氏は、上記の「スクープ」と義母は関係ないという、信じられない証言をしている。金学順はその後、この団体と共に行動した。

6・北朝鮮工作員のキム・キョンヒの証言により、90年ごろから北朝鮮による拉致問題が、日本のメディアで注目されるようになった。田口八重子さんの拉致事件も91年、金丸氏の訪朝直後に、日本の公安警察のリークとみられる情報で明らかになった。慰安婦報道はこれを打ち消そうとしたのかもしれない。

重要な出来事が91年前後に一度に発生したのは不思議だ。そしてそれら相互に関連し合うが、「北朝鮮の利益=日本からの賠償獲得」を支援している点では一致している。北朝鮮の諜報当局者の意図があるかもしれない。

そして過去の共産圏、北朝鮮によるスパイ事件に、類似したものがある。

その1・日中国交回復への朝日新聞の悪影響

朝日新聞は1971年8月から、本多勝一記者による「中国の旅」という連載を行った。本多記者の中国ルポは80年代初頭まで続いた。日中戦争での日本軍による残虐な行為の現場、証言者を、有名記者の本多氏が訪ね歩く内容だ。痛ましい話ばかりだった。

確かに、残虐行為はあっただろう。けれども当時は、文化大革命中で、中国は混乱していた。本多氏の取材のお膳立ては当然、中国政府・共産党が仕切った。彼らの意図が働いていた。読みなおすと証言者はそろって「日本人民に敵意はない。日本帝国主義、軍国主義が悪いのだ」という趣旨の言葉を述べていた。これは中共政府の当時の見解と同じだ。

日中国交回復は1972年9月、日中平和友好条約締結は78年8月だ。最大の懸案は戦争の賠償問題だ。中華民国は賠償放棄したが、中共も引き継いだ。しかしその代償として、日本は中共に今に至るまで資金・技術の経済援助を続ける。

当時は今と違って、新聞の影響力は絶大だった。特に日本の国内左派への朝日新聞の影響は大きかった。その時は大蔵官僚だった歴史家の秦郁彦氏は賠償の担当だったが、朝日新聞の一連の報道が圧力になったと回顧していた記憶がある。(出典を探しているがみつからなかった。月刊文藝春秋のどこかの号で発言していたと思う。)

北朝鮮は当然、日中国交回復の経緯を研究しただろう。中共が行ったように、朝日新聞と記者を戦争犯罪ネタを使って利用し、国交回復交渉を有利にすることを考えたとしてもおかしくない。

その2・諜報活動での「スリーパー」と、謎の男吉田清治

旧西ドイツでギヨーム事件が74年に発覚した。東ドイツ・シュタージ(国家保安省、諜報を統括)の要員が、56年に西独に偽装亡命。57年にドイツ社会民主党に入党。そこでの活動が評価され、出世頭の政治家ウィリー・ブラントに認められた。ブラントが首相になったとき、第一秘書になった。そのため首相が関与した機密が72年から74年まで東側に筒抜けになった。

この手法は諜報で「スリーパー」と呼ばれる。他国民になりすまして経歴を隠し、時期が来たら動かす。実在の人になりすます「背のり」という手法もある。

吉田清治(1913?- 2000)という、慰安婦を強制連行したと嘘をついて歩いた男がいる。90年代、この男は活動を活発にした。この嘘を朝日新聞は繰り返し報道した。韓国では事実になってしまった。

さまざまなメディアが追っているが、吉田の経歴は謎だらけだ。働いたという組織で、彼のことを覚えている人はいない。経歴は嘘。卒業した学校の名簿では「死亡」と書いてあったのに生きていた。戸籍で朝鮮人を養子にした記録もあった。

私は吉田の謎を聞き、ギヨームを思い出した。もしかしたらスリーパーかもしれない。もしくは戸籍乗っ取りを北朝鮮に突き止められ、脅迫されたのかもしれない。根拠はないが、自ら不利益になる嘘をつくという行動を普通はしない。その理由は複雑な背景があったとしか考えられないのだ。

その3・ゾルゲ事件、朝日新聞記者の尾崎秀実は上海でスカウトされた

諜報の歴史で輝かしい成功例として知られるゾルゲ事件がある。太平洋戦争前、日本在住のドイツ人ジャーナリストと称するリヒャルト・ゾルゲが諜報団を組織。ゾルゲはソ連共産党員で、ソ連軍のスパイ。ドイツ大使に取り入る一方、朝日新聞記者から近衛文麿首相の側近になった尾崎秀美などを使い日本の政軍の情報も入手した。

ゾルゲは、日本が南方に進出する、また独ソ戦でのドイツ軍の配備などの情報をつかんで、ソ連に報告し歴史を動かした。戦後「ソ連邦英雄」として顕彰される。ただし事件には、いまだに謎が多い。

尾崎は中国生まれ、元大阪朝日新聞社員で上海特派員になった。1927年にそこでゾルゲに出会った。当時、各国で連携していた共産党の人脈を通じてだ。

北朝鮮の諜報・外交関係者も当然、その成功例を学んだだろう。

慰安婦報道事件で関与する朝日新聞記者の経歴が相互に似ている。尾崎が歩んだように、大阪-アジア-社内出世という形が共通する。植村隆氏は大阪社会部からソウル、北京特派員と、途中まで同社では嘱望されるコースを歩んだ。その後は組織に切り捨てられる形で飛ばされてしまう。

しかし他の人は社内で出世している。吉田清治を頻繁に取り上げた清田治史氏は、大阪社会部-ソウル特派員-外報部長-取締役だ。騒動で役職を外された市川速水氏は、東京社会部-ソウル、北京特派員-報道局長。慰安婦問題を頻繁に執筆した北畠清泰氏(故人)は、海外歴は不明だが、大阪本社論説委員になっている。

仮説だが、「朝日新聞の大阪で活躍しそうな記者と関係を持ち、協力して育て、出世させる」という目標を持ち、北朝鮮の諜報機関が接触しても、決しておかしなことではない。ゾルゲ事件という模範例があるのだから。また大阪は在日が集住し、その存在感が大きく、情報を得やすい。

記者は、特ダネを与えられる可能性があれば、情報源に協力する。そうする中で一部の記者が、意図せざるにしても、北朝鮮の諜報機関に絡め取られてしまったと考えても不思議ではない。

その4・よど号犯は、妻子が北朝鮮の人質になった

1970年によど号ハイジャック事件で極左過激派の9人の日本人が、北朝鮮に亡命した。このメンバーは亡命後、北朝鮮当局の斡旋で、在日朝鮮人などと北朝鮮で結婚した。

北朝鮮は家族を事実上の人質にした。そして粛正されたらしい2人を除き、犯人グループを国際犯罪の実行要員として利用した。(高沢皓司『宿命「よど号」亡命者たちの秘密工作』(新潮社)参照)日本人拉致事件というおぞましい事件にも彼らは関わった。

誤報を流した植村氏は韓国の延世大学に80年代末留学した。また韓国女性と結婚している。彼のプライバシーに踏み込む意図はない。しかし北朝鮮関係団体の娘と知り合い結婚し、その人物が誤報をするのは、あまりにもできすぎた偶然だ。

北朝鮮の当局者は、よど号亡命者の日本人を血縁で縛り、工作をした経験が70-80年代にある。その経験を参考にして朝日新聞の記者に魔手を伸ばそうとしたと考えても、おかしな推測ではない。

(この他にも、キムフィルビー事件など、過去のスパイ事件に似たところがある。英国の対外情報部の工作幹部がソ連のスパイだったというスキャンダルだ。これは機会を改めよう。)

「北の工作」としたら…日韓関係崩壊の大成功

北朝鮮の諜報・外交当局者は過去の共産圏のスパイ事件を当然、学んでいるだろう。そして過去のスパイ事件と慰安婦騒動には、不思議な類似点がある。

朝日新聞の第三者委員会で政治学者の北岡伸一氏が慰安婦問題の影響を鋭く分析している。

日本に対する過剰な批判は、彼らの反発を招くことになる。またこうした言説は韓国の期待を膨らませた。その結果、韓国大統領が、世界の首脳に対し、日本の非を鳴らすという、異例の行動に出ることとなった。それは、さらに日本の一部の反発を招き、反韓、嫌韓の言説の横行を招いた。こうした偏狭なナショナリズムの台頭も、日韓の和解の困難化も、春秋の筆法を以てすれば、朝日新聞の慰安婦報道がもたらしたものである。

指摘の通り、北朝鮮は一連の騒動で、1兆円の賠償がもらえなくても大変な利益を得た。北朝鮮の2つの仮想敵国である日本と韓国を、朝日新聞社の慰安婦報道は分断してしまったのだ。第二次朝鮮戦争を北が起こしても、韓国が1997年のように再び国家破綻しても、今のままでは日韓はぎくしゃくして何も協力できないだろう。

もちろん朝日新聞の慰安婦誤報事件に北朝鮮が関わっている可能性があるというのは、根拠のない類推だ。軍事史・外交史オタクである私の妄想と受け止めてほしい。

ただし、もし本当に北朝鮮が慰安婦問題に関わっていたら…。ゾルゲ事件なみの、大スキャンダルだ。そうでないことを祈りたいが。

植村隆氏と報告書に登場した朝日新聞の関係者らは、事実に加えて、北朝鮮との関係についても説明責任がある。

石井孝明
ジャーナリスト

メール:ishii.takaaki1@gmail.com
ツイッター:@ishiitakaaki

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