再燃したギリシャ問題を考える --- 岡本 裕明

アゴラ

年初から荒波の金融市場において石油問題と同等で語られるもう一つの頭痛の種がギリシャ問題であります。日本では遠い国というイメージか、いまだ報道では目立ったものはありませんが私は12月に大統領選挙を通じてじわじわと困難な状況に陥りつつあった同国の問題を注意深く見守っています。

ギリシャで何があったかおさらいしましょう。


パプリアス大統領の2015年3月任期満了に伴う大統領選が同国議会で行われましたが大統領に指名される規定数の得票に達しないため、達するまで繰り返し選挙を行いました。が、3回目の投票でも第一候補で与党の押すディマス元欧州委員が必要得票数の180票を得ることができず、規定により議会解散となりました。これにより1月25日に総選挙が行われます。与党・第1党の新民主主義党と野党で反緊縮財政派の急進左派連合を軸とした戦いになります。

問題は総選挙をした際に政権交代があるかどうかであります。年末の世論調査によると野党の急進左派連合が27.4%でトップとなり、与党の新民主主義党の23.5%に差をつけています。それ以外に極右政党「黄金の夜明け」が6.4%、新民主主義党の連立相手の全ギリシャ社会主義運動が5.8%となっており、与党第一党の新民主主義党は急進左派連合に第一党の席を譲り渡すかもしれませんが、連立を考えれば政権交代まで起きるかどうか、現時点では微妙な感じは致します。

ではなぜこの選挙がそれほど注目されているかといえば2009年に発覚した財政の粉飾決算に端を発したギリシャ危機までさかのぼらなくてはいけません。これは粉飾によりユーロ圏の規範に反するため、EUなどから国家財政管理に関して厳しい条件を付けられ、緊縮財政が前提となっていました。ところがギリシャは大きな政府を掲げ、公務員比率が高いことで知られていたため、一般国民への直接的影響は大きいものが予想されました。

このため、国内ではすったもんだしたのですが、最終的に2012年6月に緊縮財政を支持する政権が樹立し、危機を脱しました。ただ、それはEU、ECB、および欧州諸国との対外的顔であって国内では国内総生産は下落し、3年間で17%も落ち込みました。国民は現在の緊縮に我慢出来ず、急進左派連合がここにきて支持率を伸ばしているのはそういう背景であります。

その左派の党首ツィプラス氏は当初は緊縮に反対する過激なスタンスもみせていましたが、このところ、世界が注目するようになり、その姿勢がマイルドになりつつあるとされています。

世界が恐れるのはギリシャで左派政権が誕生し、EUなどとの財政再建に対する約束事を反故し、最悪、ギリシャがユーロから離脱するのではないか、というシナリオです。そして、そのシナリオの続編は他にも成績が良くない国家が離脱しやすい状況を作り出した結果、ユーロの構造的歪みがいよいよ現実化し、ただでさえさえない欧州経済がさらに悪化するというストーリーでありましょう。

ただ、これは悲観論にたったストーリーテラーであり最悪の中の最悪のケースです。残念ながら市場参加者の心理とはこんなことに左右されるものであります。こういう時にはどうしたらよいか、と考え、金(ゴールド)や日本円にセーフヘイブンを求めるわけです。

ユーロ圏はギリシャのような頭痛の種を抱えながらも拡大傾向を続けています。1月1日にはリトアニアが19か国目のユーロ加盟国になりました。私にはそれでも拡大するのはブラックホールが吸い寄せる力のようなものを感じます。それは欧州の長い歴史の繰り返しが経済連携の中に力関係として存在するようにも見えます。

ユーロ圏がブラックホールならギリシャの離脱はありません。いや、できないと言った方が正しいでしょう。仮に選挙の結果がどうなれ、ギリシャは緊縮財政下、文句を言いながらもそれに従わなくてはいけない構図が私には見て取れますが。さてどうなりますか。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2015年1月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。