バロンズ誌:ヨーデルの調べは、マーケットに悲観をもたらすのか --- 安田 佐和子

2015年01月18日 17:57

バロンズ誌、今週の特集はマーケットの重鎮10人を招き2015年の動向をうらなうラウンドテーブルです。ニューヨークにあるハーバード・クラブに集まった10名は、概して経済成長に慎重。株式市場にもそれほど楽観的ではなく米国債ファンド、金鉱株、薬品株のピックが優勢でした。詳しくは、本誌をご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週のテーマは金融市場に激震を走らせたスイス国立銀行(SNB)のユーロペッグ撤廃です。約40年前に発覚したウォーターゲート事件の言葉を借りれば、「もはや効力が失せていた(no longer operative)」のでしょう。トマス・ジョルダンSNB総裁は、対ユーロでのスイスフラン(CHF)上限を1.20CHFとする政策が「持続的」ではなかったと発言。当時のニクソン大統領が1973年に固定相場制の廃止を決めた当時を彷彿とさせます。

奇しくもSNBが決断を下す1日前には、欧州連合(EU)司法裁判所が国債買い入れに事実上のゴーサインとなる見解を発表し、欧州中央銀行(ECB)の広範な量的緩和(QE)実施がまた一歩近づきました。すでにバランスシートが国内総生産(GDP)の80%に達していた事情もあり、為替相場を操作し続ける状況に不安を覚えたのも頷けます。

SNBがマイナス金利を導入した2014年12月18日からたった1ヵ月後に大胆な政策転換に打って出た結果、輸出依存の高いスイス株式指数はリーマン・ショックという大混乱の最中にあった2008年10月10日以来の急落を演じます。ところがドルベースの”iShares MSCI Switzerland Capped ETF(EWL)”は、CHF急伸に支えられ3.2%高を遂げました。

問題は、SNBの決断がいかに世界金融市場に影響を及ぼすのか。アルプス山脈にシャレーを抱えるロシアのオリガルヒから、低金利を背景に住宅ローンを組成していた東欧諸国、同じく低金利に着目しキャリー・トレードで利益を達成してきたヘッジファンドなどが思い浮かびますが、他にも存在するはずですよね。

CHFの借り入れはショートを意味し、SNBがユーロ・ペッグを撤廃した時点でショートが炙り出されます。例えば対ユーロで1.20CHFで100万CHFを借りた場合、債務は83万3333ユーロ。しかしペッグが外れユーロとパリティを迎えた場合は100万ユーロとなり、一気に20%膨れ上がることになります。そこにレバレッジ50倍が加われば、投機家が莫大な債務を抱えること必至。為替証拠金取引会社FXCMの株価は16日に取引停止までに約90%も暴落し、証券会社ジェフリーズの親会社リューカディア・グループによる救済を余儀なくされました。

FXCM、14日終値が前日比11%安の14.87ドルだったという不思議。

fxcm
(出所:Stockcharts)

為替証拠金取引会社が経営難に陥るだけではありません。ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)紙によると、ドイツ銀行やシティグループは1億5000万ドルもの損失が発生したといいます。ただでさえ決算が不振だった上に悪材料が重なり、”ファイナンシャル・セレクト・セクター・SPDR ETF(XLF)”は足元1ヵ月間で3.1%も落ち込み、”エナジー・セレクト・セクター・SPDR ETF(XLE)”の2.4%より下落率が大きい。S&P500の0.3%上昇からも、大きくかい離しています。

SNBはユーロ・ペッグ撤廃に加え、3ヵ月物ロンドン銀行間取引金利(LIBOR)も”マイナス1.25%からマイナス0.25%”へ、中銀預金金利もマイナス0.75%へ引き下げました。結果を受け、ドイツ10年債利回りは0.411%と過去最低で、フランス10年債利回りは0.635%で引け。ECBが5000億ユーロ規模の国債買い入れに踏み切るとの思惑を反映したのでしょう。

米10年債利回りも前週末に1.83%でクローズする以前に、一時1.75%まで低下するに至ります。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのアナリストがECBの国債買い入れ開始で350億ドル相当が米国債市場に流れ込んでくると予想するように、恩恵を受けると目されているに違いありません。

FF金利先物動向をみると、第1弾の利上げは10月まで実施されない見通しであればなおさらです。原油安だというのに米12月小売売上高は惨憺たる結果となり、期待された”減税効果”を裏切っていました。おまけに、KBホームレナーなど住宅関連は見通しに疑問を残す決算を発表。ベーカー・ヒューズは稼働リグ数の減少を報告し、シュルンベルジェは9000人の第リストラを発表するに至っています。米新規失業保険申請件数が約4ヵ月ぶりに30万件台に乗せた一因はホリデー商戦の臨時雇用はく落に加え、5422人を数えたテキサス州だった事実も不安を抱かせますね。

バロンズ誌のラウンドテーブルに参加したイーグル・バリュー・パートナーズのメリル・ウィットマー氏は、買うに値する割安な株を探すのが困難と話していました。2015年の米株相場は、ブル相場の転換点となる懸念を募らせます。

いつもは強気なストリートワイズも、今回はアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートに呼応しています。マクロ経済見通しを曇らせる不安定要因は、新年早々数えきれません。原油安をはじめとする商品相場動向、米12月小売売上高、挙げ句の果てにスイス国立銀行が突如政策転換する有様です。

しかもS&P500の株価収益率(PER)は17.8倍と、極めて割高とは言えないものの10年平均である15倍を上回る状況。ダートマス大学タック・スクールで教鞭を取るノーベル経済学賞受賞者のケネス・フレンチ教授に言わせると、もっと割高なんです。シカゴ大学の証券価格研究センター(CRSP)の数値を1926年まで遡って検証したところ、上場されている全ての株を対象としたPERの中央値は第2次世界大戦後以来で最高の20倍に当たるといいます。株価キャッシュフロー・レシオでみた場合は15倍と、こちらも同じく約70年間で最高でした。2009年の12倍から、上昇していたんですね。

フレンチ教授いわく、PERが高水準にあった1962年に米株は27%、1969年は35%もの大幅下落でした。今まさにボラティリティが高い市場は、何かを暗示しているかのようです。

マーケット・ブロガーでジャーナリストのジョシュ・ブラウン氏は、過去6ヵ月間に個別株およびセクターの取引参加者減少を懸念していました。足元で200日移動平均線を上回ったり新高値を達成する銘柄が少なくなっていると指摘します。一因として規模の大きなポートフォリオを裏付けとした富裕層向けの使用目的不問の融資増加を挙げており、投資用物件をはじめヨットといった非流動性資産のほか愛人に回っていると不安を寄せます。こんなバブリーな話を聞いていれば、強気を保っていられませんよね。


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年1月17日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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