投機がなければ投資もできない

森本 紀行

先物、即ち、フューチャーズは、投機である。「赤いダイヤ」といわれた小豆の先物など、日本では、危険極まりなき、故に同時に魅惑的な投機の代名詞である。


同時に、フューチャーズは、ヘッジ手段である。小豆でも、大豆でも、トウモロコシでも、価格変動の激しい農作物の生産者にとって、先物で売っておける可能性は、どうしても必要なものである。事情は、鉱物資源も同じで、一般に、一次産品の生産者にとって、フューチャーズはヘッジのための必需品である。

為替も同じことである。一方で、巨額な貿易や資本取引が行われて、実需の為替取引がなされ、他方では、FXを楽しむ個人も含めて、投機家は、単なる取引のための為替取引を行う。実需の為替が円滑に取引されるのは、膨大な投機が背景にあるからである。

フューチャーズの市場は、実物を扱う業者にとっては、在庫等の価格や為替の変動リスクのヘッジの市場であると同時に、投機家にとっては、思惑による投機的取引の市場である。投機で買う投資家がいなければ、実需のヘッジの売りはできない。逆に、実需側の事情こそが、投機家にとっての機会である。

投機と実需は、市場で、真っ向からぶつかる。全く異なる思惑と事情が、市場でぶつかれば、短期的には、フューチャーズの独特な価格変動が生じる。そこに、投資の機会を見出すのがマネッジドフューチャーズの投資戦略である。

マネッジドフューチャーズは、それが投資であって投機でない限り、単なる価格変動への賭けではあり得ず、何らかの価格の非効率を取りにいく工夫でなくてはならない。フューチャーズの市場には、非効率がなくてはならない。

非効率というのは、特殊な需給構造が作り出す価格変動のくせというか、統計的に検証される何らかの傾向性である。マネッジドフューチャーズは、価格変動に賭けているのではなくて、市場リスクを避けつつ、価格変動の非効率から収益をあげているのだ。故に、その限りで、ヘッジファンドの要件を満たしている。

投機は投資ではない一方で、投機が作り出す状況が投資の対象になることは、中々に興味深い。投資とは、投機を避けることではなくて、投機も前提にした、もう一つ上の仕事なのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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