電力料金の上昇、困窮する産業界の声を聞く--原子力国民会議から

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GEPR編集部 (GEPR版

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写真 東京で行われた原子力国民会議

電力料金が円安と原発の停止の影響で福島原発事故の後で上昇した。自由化されている産業向け電力料金では2011年から総じて3-4割アップとなった。安い電力料金、安定供給を求める人も多く、企業は電力料金の上昇に苦しんでいるのに、そうした声は目立たない。エネルギーをめぐる問題は複雑で多様な意見に配慮しければならないのに、これはおかしな状況だ。


昨年12月4日に経済界、労働界や民間の有識者などが集う「原子力国民会議」が、第二回東京集会を開いた。そこで産業界の声が伝えられたので紹介したい。

政治、経済界からの再稼働要望

原子力国民会議は原子力の利用を訴える経済界、学会、産業界の有識者が集まって、集会や啓蒙活動を行う。(紹介ビデオ)そして「原子力を国民の手に取り戻す」をスローガンにしている。その意味は、原子力活用の恩恵を全国民が受けることを目指すことという。

政治家からは原発の停止による日本経済、地域経済の衰退への懸念の声が出た。主催者の一人の元参議院議員の田渕哲也氏があいさつ。「毎年3-4兆円の燃料費による国富の流失は戻ってこない。産業界が疲弊している」と問題を提起した。さらに原子力関係施設の集積する福井県敦賀市の河瀬一治市長が講演。「立地地域は昭和30年代から原発に協力し、感謝している」と話した。

そして特殊なガラスを製造するジャスダック上場の岡本硝子の岡本毅社長が出席した。岡本社長は以前、警察のキャリア官僚という異色の経営者で1928年創業の家業を継いだ。歯科治療のライトの反射鏡、プロジェクター用の特殊レンズでは世界のトップを占める。

同社は製造の過程で、特殊なガラスの原材料を電炉で溶解させる。24時間、365日電炉を熱している。製造費用における電力費が他産業に比べて高い。製造費用における電力費の比率は、2011年上半期に8%だったのが、14年上半期には14%になってしまった。「競争は世界各国のメーカーと行っています。販売価格にコストが転嫁できません」と、岡本氏は苦境を訴えた。

「原子力をめぐるさまざまな意見があることは承知しています。しかし企業努力が前提ではあるものの、それでは対応できないエネルギー政策によって経営の問題が生じています。製造業が日本からなくなれば、雇用と技術が日本から失われます。安全性を確認した原発から速やかな再稼働を政府と電力会社にお願いしたいのです」と、語った。

次に、日本基幹産業労働組合連合会中央副執行委員長の操谷孝一氏が講演。同組合は鉄鋼業、金属加工業などが加盟する。「ものづくり産業では可能な限りの対策を実施し、自らの産業基盤強化に邁進していますが、現在の電力料金の水準は製造業に、きわめて大きなコストインパクトをもたらし、雇用に直接的な影響が発生しています」と、加盟企業の苦境を代弁した。

温暖化、経済政策など多様な視点から訴え

また地球環境産業技術研究機構(RITE)の秋元圭吾主席研究員が講演した。気候変動リスクの顕在化を指摘した。原子力発電は、CO2を出さないために、重要なそして原子力事故のリスクが課題に見積もられており、リスクと便益を冷静に考えることを主張した。

さらに著名なエコノミストとして知られる山本隆三常葉大学教授が講演した。日本の国益の中心は製造業であるにもかかわらず、その競争力が少子高齢化などさまざまな要因が重なり低下していることを指摘した。その中で、エネルギー価格の上昇を放置するアベノミクスに疑問を示し、原発の再稼働による電力料金の抑制を訴えた。

原子力国民会議は、東京の他に、唐津市(福岡県)と福岡市、広島市、松江市などで開催。経済活性化と温暖化抑制に向けて、1)原子力発電所の早期再稼働、2)適正な原子力発電比率の設定、3)電気料金の適正化を求める意見書を近く政府に提出するという。

9兆2000億円の負担に意味はあるか?–経済の視点を

福島原発事故が起こったことで、原子力に懐疑的な声が強まった。反対には、即時全廃の意見もあり、エネルギー政策が混乱した。長期的に原子力の発電比率を低減させることは政権与党の自民党を含めて各政党が合意している。であるから代替エネルギーが見つかるまで目先は原子力を活用することで折り合いがつきそうなのに、なぜか議論が膠着している。原発の再稼働も遅れている。

その遅れは日本経済に悪影響を及ぼす。電力会社は原発停止の代替策として、LNG(液化天然ガス)などの化石燃料の発電を増やした。その金額は2013年単年度で推計3兆6000億円になり、総額で震災以降14年までに9兆2000円を越える。膨大な国富が産ガス・産油国に流失した。

原子力国民会議で見られたように、産業界から意思表示が始まったことは、膠着を打開する一つの新しい動きになるかもしれない。また感情だけではなく、冷静にエネルギーを語る状況に、世論が動きつつあることも示しているだろう。

興味深い資料がある。NHKが昨年11月に、川内原発の再稼働をめぐり鹿児島県で世論調査を行ったところ、20代から30代は「賛成」「どちらかといえば賛成」が75%となり、以下、年齢を経るごとに反対が増える結果になった。

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(出典はNHKニュースより)

原発は地元に仕事と雇用を生んでいる。経済を支えて、働き、家族を支えている世代にとって、再稼働は切実な問題なのだ。

当面は安全審査の適合性を検証し、それを満たした原発の再稼働を進めて電力料金を下げる。長期的な課題として原発の割合の低減の方策を議論する。大半の人が妥協できるこの方向にエネルギーと原子力をめぐる議論を進めるべきだ。そして原子力国民会議で示されたように、これまで消されてきた産業界の声を広げ、経済的視点を加味して問題を考えるべきであろう。

こうした動きは、膠着した原子力とエネルギーの議論を打開する糸口になるかもしれない。

(関連原稿「電力料金値上げ、苦しむ経営者の声-鋳造、特殊ガラス製造」)

(石井孝明 ジャーナリスト)