イスラム国日本人人質事件、「手詰まり」を受け入れるべき

2015年01月22日 03:07
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イスラム国に日本人2人が拉致され、身代金2億ドルを要求されている。2人の命が心配で、焦燥にかられる。回答期限は日本時間1月23日のようだ。イスラム国の現状について他の専門家が分析するであろうから、その方々の解説に譲ろう。私は軍事・外交史の読書が趣味の一介のジャーナリストだが、過去の4つの事件を紹介して教訓を引き出してみよう。


その1・ダッカ事件
1977年9月28日、パリ発東京行きの日航機が日本赤軍5名によりハイジャックされてバングラデシュのダッカ空港に着陸した。犯人らは、日本で拘留中の赤軍メンバーの仲間の釈放と身代金16億円を要求し、拒否すれば乗客乗員156名を順次処刑すると脅迫した。福田赳夫総理(当時)は「人命は地球より重い」との名(迷?)セリフを発し、超法規措置として仲間を釈放してダッカに輸送し、身代金を払った。人質は解放されたが、代償は大きかった。日本赤軍のテロ行為は続いてしまう。最高幹部の重信房子が日本で逮捕され、組織が壊滅したのは2000年だった。

その2・モガディッシュ事件
同年10月18日、ルフトハンザ機がドバイ離陸直後に西ドイツ赤軍によりハイジャックされた。ソマリアのモガディッシュ空港に緊急着陸した。4人の犯人たちは機長を殺害。西ドイツ赤軍11人とトルコで拘留中のパレスティナ・ゲリラ2人の釈放を要求した。シュミット西独首相は、隠密裏に国境警備隊の特殊部隊GSG9を送り、ルフトハンザ機に強行突入させ、乗員乗客86人全員を救出した。そして犯人3人を殺害、抵抗をやめた女性犯人1人を逮捕した。ただし機長は突入前に殺害され、そして西ドイツ赤軍に拉致されていたドイツ経営者協会会長も別の場所で殺害された。鮮やかな越境救出劇は国の内外で称賛された。日本とは対照的であった。

その3・ミュンヘンオリンピック事件とイスラエルの「神の怒り」作戦
ただそのドイツ政府も大失敗をした。1972年9月5日ミュンヘンオリンピックでパレスチナ過激派「黒い9月」のメンバー8人が選手村に進入し、イスラエル選手団の2名を殺害、9名を人質にした。イスラエル収監のパレスチナ人約200名の釈放を要求。ミュンヘン警察は突入を計画したが、テレビで事件が実況されていたために断念。要求を聞くふりをしようとして、ルフトハンザ機を用意し、その移動中に犯人を検挙しようとした。ところが突入の際に犯人が移動のヘリで自爆し人質全員が死亡。3人を逮捕したが、10月にルフトハンザ機をエジプトでハイジャックされ3人を解放してしまう。

イスラエルが凄まじいのは、復讐と恐怖による予防のために、諜報機関・軍から選抜チームを極秘に編成。同年から「黒い9月」のメンバーを仏、伊などで10人暗殺した。「神の怒り」作戦という。また軍がレバノンで黒い9月のアジトを攻撃し、十数人を殺害した。ところが事件に無関係の一般のモロッコ人をノルウェーで殺害してしまった。各国と大変な国際問題を引き起こした。またテロは止まらなかった。

その4・ペルー大使公邸人質事件
1996年12月17日、リマの在ペルー日本大使公邸をトゥパク・アマル革命運動の軍事組織の14人が占拠した。青木盛久大使を含め70人が解放までの127日間、公邸で人質となった。橋本龍太郎首相(当時)は、早期の武力解決を図るフジモリ大統領を鋭意説得し、持久戦に持ち込んだ。ところがフジモリ大統領は、この間に日本政府には内緒で、公邸に至る地下トンネルを掘削し、犯人たちの不意を突いた武力行使をした。人質1名最高裁判事と特殊部隊2名の死亡を代償に、犯人全員を殺害した。

人質救出は失敗例が多い

以上の事例から、学ぶべき教訓は何か。

政治的なテロ、人質事件は人命の尊重が最優先であるにしても、その命の確保を実現することは難しい。犯人は人質殺害を覚悟して事件を起こすことが大半だ。そして武力が伴う。こうした軍事活動は想定外の出来事が必ず起き、そして死者が出る。人質を守りながら犯人を排除することは困難だ。だからこそ犯罪者は民間人を狙った人質事件を起こすのだ。

そして妥協の道はない。特に2001年の9月11日の全米同時多発テロ以降、各国はテロとの戦いを優先させ、身代金の支払いは徹底的に国際社会から批判される。さらに犯罪者集団を生き残らせるので、結局、損害を広げる。

武力行使の選択肢も日本にはない。ご存じの平和憲法第9条の問題だ。イラクの日本人3人の人質事件で2006年に海上自衛隊の特殊部隊である特別警備隊要員が現地派遣され、米軍部隊と共に救出の武力行使をする「バビロンの桜」作戦が計画されたという。(ジャーナリストの麻生幾氏による)。真偽は不明で、人質もなぜか解放されたが、実施したら政治的に日本国内で大変なことになっただろう。(そもそもあの人質らは反戦活動家で、自衛隊の出動は滑稽さも伴う。)日本が軍事力を行使する可能性は少ない。また中東の活動で成果を上げている米英が、イスラム国関係では人質救出に失敗した。選択肢はあまりないのだ。

命を助けることは難しい。そして選択肢は限られる。こうした重い事実を受け止めなければならない。

日本的なズレた行動はやめよう-いつもの「山本太郎」

それなのに非常に「平和ボケ」日本らしい問題が起きている。一部の人たちが意味なく騒ぎ、現実から離れて話が無意味に混乱していくのだ。

トラブルメーカーの山本太郎参議院議員。さっそくこの事件を安倍政権批判の道具に使った。

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日本人の間なら「またあいつがやっちゃった、あははは」で彼の行動は笑って済む。しかし海外には「議会にテロに屈服した議員がいる」というメッセージになる。イスラム国には、日本のメディア、SNSを注目している人たちがいるらしい。上記の殺害予告もツイッター、フェイスブックで拡散していた。さっそく、イスラム国関係者らしい人が、ツイッター上で山本議員の意見をリツイートという拡散をしていた。

平和活動家の池田香代子さん。安倍政権と集団的自衛権が嫌いなようだ。「あべしね」というツイートで話題になったが、今回は命を救えと。凄まじい言行の矛盾だ。しかしこうした人たちは、理解できないと私はあきらめているので放置しておこう。

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テロに怯えて、またテロに反応して、社会が動揺したり、政策を変更したりすれば、おそらく次のテロを誘発する。イスラエルのように「落とし前をつける」国に日本はなれない以上、なめられやすい。彼らは効果があれば、また日本人を狙うだろう。

さらに筆者はユダヤ人と交際がある。「イスラエルに行ったから悪い」と安倍首相を批判することはテロリストに荷担するばかりではなく、「反ユダヤ主義者が日本に一定数いる」という誤った、そして国際的に批判される日本のイメージを、世界に向けて作り出しかねないだろう。

静かに。そして冷静に。そして犯罪者イスラム国への怒りと批判を強め、2人の救出を願うことしか、私たちの大半にできることはない。事実を受けいれなければならない。

「人間の叡智はすべて次の言葉に尽きることを忘れずに。待て、そして希望せよ!」(アレクサンドル・デュマ、小説「モンテクリスト伯」、復讐のむなしさを知り、最後にそれを乗り越え、新しい旅に出る主人公の言葉)残念ながら、これしか道はないようだ。

(注・このコラムは、日本国際フォーラム副理事長の平林博氏のコラム、「ミュンヘン-オリンピック・テロ事件の黒幕を追え」(早川書房)を参考にした。)

石井孝明
経済ジャーナリスト

ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com

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