メディアが批判しない黒田日銀インフレ政策に成功の目はあるか --- 岡本 裕明

アゴラ

メディアのトーンは黒田日銀総裁に対して実に優しいのですが、やはり、現政権との結びつきと信頼関係を含めた上でのことなのでしょうか?

黒田日銀総裁が掲げた2年で2%のインフレを達成するという強い信念は残念ながらギブアップ宣言となりました。普通であればマスコミは黒田采配に対して疑念を全面的に押し出し、批判と共に今後のポリシーについて厳しい見方をするのでありますが、私が読む限りではそのようなトーンは薄い気がします。


むしろ「『需給ギャップや期待インフレに変化はない。デフレ心理の転換が着実に進んでいる』総裁は今回緩和を見送った理由についてそう主張した。日銀の調査では、企業の物価予測は3~5年後も2%程度の上昇率を見込む。春季労使交渉で賃上げが見込まれ、企業や消費者は引き続き物価が上昇するとみていると日銀は踏んでいる」とし、当初2年のお約束が反故にされています。

つまり、想定外の原油安でインフレ率が高まらなかったものの物価の下落により、消費意欲が高まり、更には今年も2%程度のベアを通じた賃上げも期待できることから年後半にかけてインフレ率は改善(上昇)するだろうとシナリオを描いているのであります。

個人的にはそんな絵に描いた餅のようにはならないだろうと思っています。

それは庶民ベースの消費の落ち込みが更に加速度を増している感があるからです。

先ず、外食産業の売り上げの落ち込みが顕著になっています。ファーストフードに限らず、チェーンレストランでも軒並みマイナスでその減少した分は自宅での食事に変わっているとされています。

ところがその受け皿のはずの総合スーパーの売り上げは18年連続で下落し、イオングループなどその落ち込みが顕著であります。セブンアイも内情を見ればセブンイレブンで引っ張り、スーパーが足を引っ張る構図になっています。そのコンビニもいよいよ売り上げは2014年は前年比でマイナスに転換してきています。

次に個人の貯蓄率。2013年には高齢者の貯蓄の取り崩しが加速し、全体平均ではマイナスに転換していますが、ミドル層の貯蓄が十分であるというわけでもありません。老後の蓄えに賃上げの分はようやく貯金に回せる、と思っている方は多いはずです。これだけの低金利で魅力がないのに貯蓄をしてどうするのかとの意見があるとすればそれはかなり偏見である気がします。誰でも必ず現役を退くことがあり、その後の余生は20年ぐらいはあるわけです。その間の暮らしは年金だけではとてもやっていけず、必ず一定額の貯蓄は必要であって金利云々は二の次、三の次であります。

また、低金利により住宅購入に走ることで無理なローン返済が家計における不健全なバランスとなり、ローン返済後の可処分所得が極めて少ないという事もあります。例えばカナダで家計の負債率が160%を超える状態となり、中銀や政府がいかにこの負債比率を下げるかと躍起になり住宅ローンを組みにくくした経緯すらあるのです。

私は日本に来るたびにモノが溢れかえる国である、とある意味驚愕の感すら持ちます。それにもまして100円ショップの商品の充実ぶりには唖然とし、日常生活の細かいものは100均で大半が揃えられると改めて感じてしまいました。つまり、更に押し進む過度な過当競争、価格競争が需給バランスを必ずしも健全化させていないのではないでしょうか? つまり中身の問題です。

インフレ率が低迷するのは複合的要因であります。そして日本だけが苦しんでいるのではなく、今やほとんどの国でインフレ率がとてつもなく低いのであります。あの中国ですら2.0%という状況で果たして本当に経済成長率は7.3%もあったのだろうかと疑問を抱く声も分からなくもありません。また、石油価格の下落がインフレ率を下押ししたとは思いますが、主因ではないでしょう。多分ですが、自由貿易とグローバリゼーションが作り出す「インフレ率の罠」のようなものではないかと思います。

黒田日銀総裁が今週の政策会議で何ら緩和策を打ち出さなかったことで市場には失望感が出ていましたが、総裁の今までの行動、発言から、小出しにしない、サプライズ感を出すことを一義にしています。よって、今回の様に期待が高まってくると全く肩すかしのような発言をしたりします。ただ、黒田手法がいつまでも効力を保てるかは分かりかねます。今週は欧州の動向が注目されますが、今日はカナダが先にサプライズ利下げをしました。

アメリカとどんどん距離を置かれる他国の経済のピクチャーはいまだに不透明であるとしか言えません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2015年1月22日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。