歌舞伎町と信頼の話 --- 宇佐美 典也

アゴラ

先日歌舞伎町で10年近く働いている長い付き合いの男女と、座談会というかまーお茶をしたのだが、色々考えることがあったので備忘録がてら感じたことを書き残しておく。

2人とも水商売で働いている(キャバ嬢ーホスト)のだが、10年も働いているとなると相当長い部類に属する。特に女性の多くは2~4年くらいで、夜から足を洗ったり、街を移ったり、風俗に沈んだり、結婚したりといった形で歌舞伎町を去るのが相場なので10年ともなると相当年長な部類に属する。その間色々な形で闇に沈んでいく人を見て来たとのこと。女性の場合典型的な例としてはホストに貢いで落ちていく例なのだが、「あまりにもよくある話なのに、何で男を見慣れたキャバ嬢がホストにはまっていくのか?」と聞いてみたら、色々教えてくれた。

キャバ嬢とホストの関係は指名稼ぎで始まるそうだ。はじめは「お互い指名が足りない時指名しあう」という互助関係でスタートするのだが、そのうち生活時間帯があう遊び相手として気心許すようになる。キャバ嬢はお客の前で仮面を被る商売で、店でも皆が競争相手で殺伐としているので孤独感が募り、そのうち心を許したホストの元に遊びにいくようになり、それがだんだん止まらなくなる、とのこと。

2人曰く「男よりも女の方が落ちていくスピードが遥かに速い」とのことで、数ヶ月もするとキャバクラを辞めてデリヘルやソープランド等で働くようになる。そして「風俗で働いたお金でホストを養う」という関係が数年間程安定的に続いた後で、女性が30歳近くなるとホストの方が見捨てて終わるというのが典型的なパターンとのこと。もう何十人もそうした人を見て来たらしい。こうした構造の裏にはホストの側にもお金を使わせる仕組みがあって、車・酒・ギャンブル・ファッションなりのホストの享楽的消費に対してお金を貸す人なり消費者金融なりヤミ金なりがいて、結局のところ女性が貢いだお金はそこに吸い上げられていく。ホスト曰く「一番恐いのは笑顔で無尽蔵に金を貸す優しい先輩」とのことで「悪魔は優しい」との名言が生まれる。

一方で「派手に使う客は大抵2年もすれば落ちぶれる」というのもまた共通見解で、突然普通のサラリーマンの人がやってきて派手にお金を使うな~、と思ったら会社のお金を横領していて捕まった、だとか、詐欺で捕まった、だとか、八王子で死体が見つかった、だとか、いった話は一年に2・3回はあるらしい。本当の金持ちは目立たないように端っこで細く長くお金を使い続けるとのこと。

歌舞伎町

 

なんで「歌舞伎町はずっとそういう街なの?」と聞いたところ、

「この街で働く人の大半はみんな独りだ。地元や学校と言ったコミュニティから隔絶して、独りで生きている。友達がいるようでもみんな上辺の付き合いだ。だから何かあった時に止めてくれる人や相談できる人がいなくて、いとも簡単に道を間違えるし、なにか土壺にはまるとすぐに人を騙して問題を解決しようとする。この街には「信頼」がない。お互いがお互いを食いあって生きている。そしてそれを仕掛けてお金を吸い上げている妖怪みたいな奴らがいる。そういう街だから、いつまでたっても変わらない。餓鬼地獄みたいなもんだ。」

というような話をされた。これまたよく聞く話だが、実際に聞くと迫力がある。

「なんでそういうところで10年も生き抜けたの?」と聞いたら、2人が口を揃えていったのが「誰もを疑い続け、この街で本当の意味での「友達」を作らなかったこと」と言われて、「あーなるほど」と思った次第。「信無くば立たず」。信頼が無いところでは何も生まれず、何も育たない。

なおそのキャバ嬢ももう10年働いているくらいなので若くないのだが、「今後どうするの?」と聞いてみたところ、「今さら昼にもいけないし、そろそろ街を移ろうと思っている」とのこと。ちなみに歌舞伎町や六本木などでキャバ嬢を長くやった人の行く先というのは、恵比寿や銀座の「ラウンジ」と相場が決まっているらしい。ラウンジはキャバクラよりも給料が少ないのだが、客に富裕層が多い。そしてその富裕層はラウンジに愛人を捜しに来ている。体力が衰えつつある20代後半の夜の商売を続けて来た女性もまたパトロンを求めてラウンジに来るそうで、需要と供給がマッチしているらしい。人間迷路。なおホストはもう少し寿命が長い。

色々聞いて思ったのだが、ぼったくりに合うような脇が甘い自分はとてもこの街では生きられないな~、と感じ入り、信頼の土壌がある世界で生きていかねば、と感じた次第。

ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のブログ」2015年1月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のブログをご覧ください。