なぜ反ユダヤ主義が生まれたか --- 長谷川 良

2015年01月28日 12:22

20年、50年、そして100年と時間の経過と共に、如何なる歴史的出来事もその記憶は薄れ、それに参加した関係者は一人、二人となくなっていく。記憶を保つために、私たちは、時の節目にはさまざまな追悼イベントを開き、記憶を再生する努力を払ってきた。

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▲ウィーンの国連で開催されたホロコースト追悼集会で祈るユダヤ教のラビ(2015年1月27日、ウィーン国連で撮影)


昨年は旧ソ連・東欧諸国の民主化のシンボル、“ベルリンの壁”崩壊25年目を迎え、ベルリンなどで様々な記念行事が行われた。そして1月27日、ユダヤ人ら100万人以上が殺害されたアウシュビッツ収容所解放70年目を迎えた。ポーランド南部オシフィエンチムの収容所跡に元収容者たちが集い、ナチス・ドイツ軍の蛮行を改めて想起するとともに、未来の世代に警告を発する追悼式典が開かれた。

当方が住むウィーンの国連でも1月27日は「ホロコースト犠牲者を想起する国際デー」 (International Holocaust Remembrance Day)であり、追悼行事が開催された。

アウシュビッツ収容所の100万人を含め、ナチス・ドイツ軍は約600万人のユダヤ人らを殺戮していった。考えられない数字だ。その犠牲者の一人一人には人生があったし、夢があったはずだ。それらが非情にも一方的に葬られていった。その無念さ、憤りは70年が過ぎた今日も関係者の心には残っている。

解放記念の行事を、招かれた国家首脳たちの演説で終るのではなく、収容所関係者の証言に焦点を合わせたというイベント関係者の言葉もそれを裏付けている。

当方は昔、イタリア映画で第71回アカデミー賞を受賞した「人生は美しい」(監督・主演 ロベルト・ベニーニ)を観て感動した一人だ。ナチス・ドイツ軍の強制収容所で死を待つユダヤ人たちの姿を描いた映画だ。死ぬまで過酷な強制労働の日々を生きるユダヤ人収容者の中でも、息子のために苦しさを明るさに変えて励ましていく父親の姿を描くことで監督は「人生は本来美しいものだ」という結論を引き出している。

多分、それは映画の中だけで、実際の収容所生活は絶望的であり、希望などどこにも見られなかったはずだ。だから、今回のように、元収容者の証言に耳を傾けなければならないわけだ。

私たちはアウシュビッツ収容所解放70年から何を学ばなければならないのか。換言すれば、過去70年間で何を学んできたのだろうか。元収容者関係者は「世界はアウシュビッツから何も学んでいない。その後もボスニア・ヘルツエゴナ紛争など民族戦争が繰り広げられていった」と指摘する。
 
イスラム過激派テロ事件が生じたフランスではここ数年、多数のユダヤ人家庭がイスラエルに移住している。シナゴークやユダヤ系施設への襲撃が絶えない中、生命の危険を感じて移住していったわけだ。昨年1年間だけでもその数は7000人という。パリの反テロ国民大行進に参加したイスラエルのネタニヤフ首相はフランス居住のユダヤ人にイスラエルへの移住を歓迎すると述べている。ブリュッセルに本部を置く欧州連合(EU)も欧州全土で反ユダヤ主義が拡大してきたと警告を発している。

ところで、反ユダヤ主義はナチス・ドイツ軍時代から生じたものであるならば、ひょっとすれば、その解明も楽だったかもしれないが、実際は反ユダヤ主義の歴史は中世よりも前まで遡る。ウィリアム・シェイクスピアの喜劇「ベニスの商人」には強欲なユダヤ人の金貸しシャイロックが登場する。当時、ユダヤ人は他の国民から忌み嫌われる人間のシンボルだった、旧約聖書を読むと、エジプトのパロ王がユダヤ人が自身の懐の中で増え、その影響力を拡大していく状況に強い警戒心を感じる箇所があることから、反ユダヤ主義はイエスの十字架前に既に芽生えていたわけだ。ちなみに、ユダヤ民族の流浪はイエスの死後(西暦135年)から始まっている。

当方は「ユダヤ民族とその『不愉快な事実』」2014年4月19日参考)のコラムの中で、ユダヤ人イエスを殺害したユダヤ民族が神から見捨てられた後、ロシア革命を主導したレーニンのもとで神を否定する唯物思想の構築に深く関わっていた話を紹介した。興味深い点は、同胞ユダヤ人が収容されていたアウシュビッツ収容所を解放したのは旧ソ連の赤軍だった、という事実だ。

アウシュビッツ解放70年を迎えた今日、ナチス・ドイツ軍の蛮行への批判や犠牲者への追悼だけではなく、“なぜユダヤ民族は常に迫害されてきたのか”を真剣に考えるべき時だろう。ナチス・ドイツ軍の犠牲となった数多くのユダヤ人を心から追悼するためにも、このテーマをいつまでも封印すべきではない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年1月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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