戦後70周年追悼と「歴史の証人」 --- 長谷川 良

2015年02月01日 16:36

2015年は第2次世界大戦が終わって70年目を迎える。歴史の節目だ。関係国では戦後70年に関連したさまざまなイベントや追悼集会が計画されている。わが国でも同様の行事が行われる予定だ。


ところで、韓国や中国は日本の戦争責任を追及し、反日攻勢を仕掛ける年と受け取っている。既に、その兆候が出ている。中国の王毅外相は先月28日、訪問中のイスラエルのリーベルマン外相との会談の中で、「和解には歴史の正しい認識が必要」と主張し、ナチス・ドイツ軍のアウシュビッツ強制収容所での蛮行を批判すると共に、南京事件を挙げ、日本を批判する発言をしたばかりだ。ウィーンでも駐ウィーン国際機関中国政府代表部のCheng Jingye(成竞业)大使が27日、国連で開かれたホロコースト犠牲者追悼集会の場で中国外相と同様に、ナチス・ドイツ軍のユダヤ人大虐殺と南京事件を同列に挙げ、反日発言をしていることから、中国外務省が戦後70年目の今年、国を挙げて反日攻勢をかける方針であろうことは明らかだ。

アウシュビッツ強制収容所解放70年の追悼集会に約300人のユダヤ人生存者が参加し、当時の状況を証した。彼らは「歴史の証人」と受け取られている。一方、韓国の慰安婦問題でも集会に慰安婦が招かれ、旧日本軍の蛮行を報告するケースが増えてきた。韓国政府は「慰安婦は高齢であり、一人、二人と亡くなっていく。時代の証人が生きている時に問題を解決すべきだ」として、戦後70年目の今年、慰安婦問題で一層、日本に圧力を強めていく意向だ。

ここでは、通称・歴史の証人といわれる人々のことを考えてみたい。「歴史の証人」の話が貴重であることはいうまでもないが、あくまでも個人の体験、目撃談に基づくものだ。その体験談が即、戦争や蛮行の全容を網羅した「正しい歴史認識」を育むとはいえない。

戦後70年追悼集会を開催する主催者側には明確な目的があるから、「歴史の証人」の体験談は、程度の差こそあれ、その主催者側の意図に一致するストーリーが求められる。
例えば、ポーランド南部のアウシュビッツ強制収容所解放70年でロシアのプーチン大統領を招くかどうかで主催国や関係国で意見の対立があった。ロシア・プーチン大統領のウクライナ政策を激しく批判しているポーランドのシヘティナ外相は、「アウシュビッツ強制収容所の最初の戸を開けたのはロシア兵士ではなく、ウクライナ兵士だった」と言い出したのだ。
主催者側の意向を快く思わないプーチン大統領は気分を害し、70年集会の参加を拒否した。追悼集会の参加者リストでさえこの有様だから、歴史認識で関係国の間に微妙な相違が出てきても不思議ではない。

慰安婦の一人が先日、亡くなり、生存している慰安婦が54人となったこともあって、韓国側は焦る思いがあるのか日本への批判のㇳ-ンを強めてきた。慰安婦の証はその女性の体験談であり、その証はあくまでも“ her story ”だ。記憶に間違いがあるかもしれないし、何らかの配慮や計算が働くかもしれない。だから、そのストーリーで歴史的評価を下すことには慎重にならなければならない。

「歴史の証人」は歴史の空白を埋める重要な役割を果たす。歴史の出来事を縦軸としたら、関係者の証は横軸だ。出来事だけを羅列してもその歴史的全容が浮かび上がってこない。しかし、証人の話だけでも歴史を再構築することに無理が伴う。
「歴史は各国、民族に独自存在する。共通の歴史は存在しない」とよく言われる。同様に、「歴史の証人」もあくまで一つのストーリーであり、歴史全般を網羅する縦軸とは成り得ない。例えば、米国の大統領は退任後、自伝を書く。それはその大統領の歴史であって、大統領時代の出来事を完全に再現するものではない。

誤解を避けるため付け加えるが、「歴史の証人」の価値やその意義を過小評価する意図はない。「歴史の証人」が存在するゆえに、私たちは過去の歴史に対し、真摯に対峙しようとする熱意が湧いてくるのだ。「歴史の証人」は今年、様々な戦後70年追悼集会に参加し、そのストーリーを語ってくれるだろう。私たちは真摯にそのストーリーに耳を傾けたい。

最後に、安倍晋三首相は終戦70年の今年8月、日本の過去を振り返り、未来に向け新たな決意を表明する「戦後70年談話」を発表するという。戦時中、近隣諸国に対して犯した過ちを詫びる一方、若い世代に向かっては「戦争の悲惨さ」を訴えるだけではなく、敗戦の廃墟から平和な国を建設し、復興してきた日本国民の能力と勤勉さを誇り、世界の平和建設にまい進する決意を奮い立たせる内容であってほしい。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年2月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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