ブラックバイト問題の本質は貧困化と世代間格差では

川嶋 英明

定期的に話題になるブラックバイトがまたもヤフトピになってましたね。すでに過去にブログ何度も話題にしているし、バイトなんて嫌なら辞めればいい、というわたしの考えは基本的に変わらないので今回はスルーしようかと思ったんですが、その記事内の「ブラックバイトを辞められない理由」がなかなかに興味深かったので、少し考えてみたいと思います。

学生追いつめる「ブラックバイト」過酷実態 それでも辞められぬ“3つの理由”

上の記事にある3つの理由を簡単に述べると「1.親の所得減」「2.フリーターとの競争激化」「3.業務の複雑化で習熟時間の増加による離職への二の足」だそうです。なるほどなるほど、一目見てわかるのは、どれも企業だけの責任とはいえないものばかりだということです。

特に「1.親の所得減」については、日本全体が貧困化していること、また特にそれが若い世代や現役世代へのしわ寄せとなって押し寄せてきているという世代間格差の問題が主因です。それに対して企業ができることは、年功序列型賃金や終身雇用制度を廃し、高齢者の分配を減らしそれを若い世代へ回すことなどですが、今の労働法制・労働判例、そして世間の反応を見る限りそれがなかなか難しい。

というか、そもそも、親の所得が少ないのなら、奨学金を貰うなり、高卒で働いて大学に入るなりすればいいはずです。しかし、現状では奨学金のほとんどが貸与型で卒業後の貧困化への要因となったり、一度働いてしまうと新卒扱いしてもらえなくなる可能性があるなどどちらもリスクがあります。でも、後者はともかく前者の問題を企業側に押し付けるのはあまりに酷な話ですよね。

また「2.フリーターとの競争激化」についても、企業は良くも悪くも もっともコストパフォーマンスの高い労働者を雇うだけなので、学生を雇うことにメリットがなければ雇わないのは当然です。では、企業が学生を雇うことのメリットとは何かと言えば、雇用保険の適用除外だったり、社会保険加入義務未満の労働時間で、しかも最低賃金に近い額で雇えるというその「安さ」にあります。しかし、そのためにシフトや勤務時間に配慮することが割にあわないと感じれば企業がフリーターを雇うのは当然でしょう。企業は学生にアルバイトさせるためにあるわけではないからです。

同様の理由で企業が学生だからという理由で、「3.」のような事情があったとしても習熟が簡単な仕事をさせてくれるということもないでしょう。ただし、ITにより昔からの職業や単純な業務が次々になくなっていく現代において、新しい業務に次々と順応していくというスキルは磨いておいて損はないとは思います。

さて、辞めれば済むブラックバイトの問題で、簡単に辞められない理由が企業側にだけあるわけではない、となると、それはもうブラックバイトはブラックバイトを行わせている企業だけの問題ではない、ということにもなります。にもかかわらず、ブラックバイトの話になると、ブラックバイトをさせる企業の話ばかりになってしまっては、学生アルバイトのような若者たちにとっての、より本質的な問題である世代間格差や若者の貧困の問題を覆い隠すことにもなりかねません。

もちろん、相手が学生であることをいいことに法令違反を犯す企業が許されるはずがありませんが、そうした歪みを是正することなくいわゆるブラック企業を叩いてみても、それは新たな歪みを生むだけでしょう。

そして、最後にブラックバイトのようなところでアルバイトをする学生にやっぱり言わずにはおれないのが「嫌なら辞めよう」という言葉です。学生の皆さん、すき家がワンオペを辞めたのは労働組合ががんばったからではありません、バイトが次々に辞めたからですよ。

川嶋英明(社会保険労務士)