全ての人がミリオネアとなった日 --- 長谷川 良

2015年02月07日 14:00

当方は経済問題の専門記者でないから、友人の「新経済論」をどのように評価していいか分からない。明確な点は、彼は理論だけではなく、懸命にそれを実践していることだ。以下、彼が分かりやすく語ってくれた“マネーが不必要な社会”を紹介する。


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経済格差は現システムを維持するためにはどうしても不可欠となる。一握りの金持ち(ミリオネア)と大多数のミリオネアではない人々が存在しなければ、現在の経済システムは機能できない。

少し、説明しよう。世界の全ての人々がミリオネアとなったとする。人類が久しく抱いてきたユートピアの世界だ。しかし、そのような世界が実際、実現したら現在の資本主義経済が機能しなくなるのだ。

金持ちが料理人に食事を作らせようとする。しかし、その料理人もミリオネアだ。彼はもはや主人のために料理を作りたくない。ミリオネアが豪邸の庭の掃除を頼もうとすると、その庭師も金持ちだ。他の金持ちの為に庭掃除で汗を流したい気持ちはさらさらない。すなわち、全てがミリオネアになった瞬間、皮肉にも、金の価値がなくなり、誰一人として金を稼ぐために働かなくなるからだ。

しかし、現実の世界には一握りのミリオネアと大多数のミリオネアではない人が生きている。だから資本主義社会は機能できる。生活のため、家族の為に願わない労働をして金を稼がなければならない人々がいるから、ミリオネアは料理人を見つけ、豪邸の庭掃除をする人を簡単に雇うことができるわけだ。家族を養うために8時間、会社で仕事をしなければならない人がいるから、会社は経営できるわけだ。

もう少し、ラジカルに表現するとすれば、現資本主義社会の“貧富の格差”は現システムを維持したいと考えれば、どうしても不可欠だ。経済格差を解決しようとする努力は資本主義社会の終わりをもたらす反社会的行為となるのだ。

それでは、全ての人々がミリオネアになった暁、どのような経済システムが生まれてくるかだ。人はミリオネアとなっても無為無策で日々を過ごすことはないだろう。人は何かを探し、その能力を発揮しようとするからだ。その労働はもはや生活のためではなく、自主的な発露となる。労働観のコペルニクス的転回だ。

多くの人々は自身の能力を他の為に無償で提供し、他の人の為に投入するようになる。その代償は提供された人々の喜ぶ姿だ。金銭の交換は必要ではない。その場合、唯一の原則は人は先ず与えてから、受けるという順序だろうか。どんな貧しい人も与えるものが全くないという人はいないはずだ。

ギリシャは経済危機に対峙し、国民は仕事がないと嘆く。しかし、それは金銭経済システムの幻想から解放されていないからだ。ギリシャは本来、豊かな国力を有している。国民の一人ひとりが他の国民のためにその力、労力を提供すれば、全てのギリシャ国民は豊かに生活できるのだ。

先ず、無償の労働を家庭内で実践し、それを近所隣人に広げ、社会、国家と拡大していけばいいだけだ。もちろん、少しは時間がかかるが、確実に豊かな社会はできる。他者の為にする仕事がなくなるということはないから、失業者はいない。金がないといって悩む必要はない。ましてや、困窮から自殺に追い込まれるといった悲劇は考えられない。

ギリシャは巨額の借金を抱え、金欠症に悩んでいるが、金銭経済哲学を捨てれば、同国は豊かなのだ。一見、矛盾しているようだが、人間の経済活動は本来、金銭のためではなく、他者を喜ばすためにあるからだ。

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以上、経済活動に熟知している読者の皆さんは彼の新経済論をどのように評価されるだろうか。当方は、「全ての人がミリオネアになる日」という前提そのものが非現実的であり、全ての人がどのようにミリオネアとなれるかを彼は十分に説明していないように感じる。これは彼の理論の大きな欠陥だが、不必要な物が大量に生産され、多数の食料が日々捨てられている一方、食べることも着ることも大変な人々が少なくない現代社会の経済システムが理想でないことは誰の目にも明らかだろう。

無視できない点は、“まだミリオネアではない”彼が自身の経済論を実践し、無報酬の活動をしながら、結構幸福そうだということだ。電気・土木の専門家でもある友人は当方宅のバスルームの修理のためにわざわざ足を運び、修理してくれた。当方が失業中の彼に少しお礼を払おうとしたら、上記の新経済論を語り出したのだ。彼は「金の為に働くのではなく、君たちが喜ぶ姿が自分の報酬だ」と述べ、お礼を受け取らず、「何かあったらいつでも電話してくれ」と言い残して帰っていった。彼は自分の経済論を実践する人々の輪をつくるため、出会った人々に“ポスト・マネーの社会”を語るという。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年2月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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