バロンズ誌:米1月雇用統計は、健全な成長を体現したのか --- 安田 佐和子

2015年02月08日 15:00

安田佐和子

バロンズ誌、今週号の特集は2014年に高いリターンを達成した投資信託会社ランキングです。アクティブ運用が軒並みノックアウトされた年、1位にはバンガードが輝きました。詳細は、ぜひ本誌でご覧下さい。


当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、テーマは米1月雇用統計とマーケット動向です。CMEグループは、シカゴ・マーカンタイル取引所およびニューヨーク・マーカンタイル取引所にある大半のピットを7月をもって閉鎖すると発表しました。立ち会い場といえば、映画”大逆転(Trading Places)”でお馴染み、19世紀から脈々と続く大きな身振り手振りでの叫び声が代名詞ですよね。時代が移りコンピューターが取って代わり、今ではオープン・アウトクライ方式の取引が全体のわずか1%まで落ち込んだため、S&P500先物や一部の先物オプションを除き、お役御免となります。

コンピューターへの全面的な取引移行で、具体的にマーケットに変化が起きることはありません。ただ昔を知るED&F・マン・キャピタル・マーケッツのトム・ディ・ガロマ氏は「かつては取引の相手が大物か小物かピットの向こうをみれば分かった。いまでは、完全に何も見えない」と呟いていました。

今年は、固定手数料製が廃止された”メーデー”から40周年を迎えます。あれからテクノロジーの進化、規制緩和を通じ金融取引からコストと人材を縮小させてきました。一方でマーケットの規模は加速度を増して膨れ上がっていき、100年以上の歴史を誇る立ち会い場を凌駕したのも当然の成り行きと言える。発展には、代償がつきものです。

オープン・アウトクライ方式よ、さようなら。
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(出所:Scott Olson/Getty Images)

どのように取引されようが6日までの週、米株はラリーを遂げ原油先物も底値から切り返し続けました。米債は、急速に売りへ反転。米1月雇用統計の後では、なおさらです。

米1月雇用統計といえば、非農業部門就労者数が市場予想を上回り過去分が上方修正され、労働参加率も新たに75万9000人が労働市場に参入したため62.9%へ上昇しました。時間当たり労働賃金も好転。CRTキャピタルのデビッド・エイダー氏は、中間選挙での州民投票で決定した5州のほかニューヨーク州、ニュージャージー州、フロリダ州など「21州で最低賃金の引き上げが決定した」ことを理由に挙げています。

時間当たり賃金の上昇は、2013年7月以来の低下を示した2014年12月と合わせて考えるとインパクトに欠ける点は見逃せません。リシオ・レポートのフィリッパ・ダン氏は、ダグ・ヘンウッド氏と執筆したレポートで時間当たり賃金の3ヵ月平均は前月比0.2%の上昇と2014年平均に沿う数字だったと指摘します。2014全体の上昇率も前年比で2.2%と、2013年の2.1%をわずかに上回るのみでした。

原油安の衝撃が、未だ数字に現れていない点も気掛かり。シュルンベルジェやベーカー・ヒューズ、ウェザーフォールドが千人規模の人員削減計画を発表し、石油メジャーが設備投資計画を縮小するなか、 米1月チャレンジャー人員削減予定数は突如、約2年ぶりの水準へ急増したのと、対照的です。

米国や世界経済がどのような状態であろうと、FF先物は9月16-17日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での第1弾利上げを織り込みつつあり、確率は63%となっています。イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長による24-25日の旧ハンフリー・ホーキンス証言で、利上げへのヒントをちらつかせるのでしょうか。

大西洋の向こう側では、ツィプラス新首相率いるギリシャをめぐりキナ臭いムードが立ち込めています。中国は成長懸念に揺さぶられ預金準備率を引き下げ、世界金融緩和ラッシュに追随しました。

これまで景気回復を足がかりに米株は世界株をアウトパフォームしてきましたが、BCAリサーチのグローバル・ストラテジーはこうしたトレンドの終焉を指摘します。業績の落ち込みが主因であり、原油安やドル高というワン・ツーパンチが打撃となり、S&P500構成銘柄の2015年1株当たり利益は7ドル、6%押し下げられると予想。増益率は、前年比ほぼ横ばいになる見通しだといいます。

今後はFedの出口政策入りとともに米金融市場は引き締めへ向かうため、BCAリサーチは米国にとって逆風になると分析します。その上でユーロ圏、日本、中国株のバスケットに対する米株ショートを推奨していました。かつての立ち会い場での取引とは違い、為替変動は為替ヘッジ付き上場投資信託(ETF)で緩和できるとあって米国投資家も安心して手を出せる?

ストリートワイズも、米1月雇用統計に注目。特に時間当たり賃金の伸びに注目し、Fedがゼロ近辺金利政策と量的緩和(QE)で米企業の利益を支えた恩恵が、ようやくメインストリートの労働者に行き渡ったと伝えます。問題は、これから。Fedが利上げすれば、世界金融緩和ラッシュも重なりドル高がますます加速すること必至ですよね。賃金インフレと重なり、グローバル企業の利益が細る公算が大きい。

足元、ストラテジストは米株に強気スタンスを維持。1月の弱いリターンにも関わらずS&P500の上昇を見込み、2014年の見積もり6.3%以下ながら2015年の増益率を4.2%と予想しています。とはいえ2015年の予想は社債発行を通じた自社株買いでかさ上げされたも同然で、ゴールドマン・サックスによると自社株買い規模は2015年に前年比12%増となる見通し。株主還元策で守りに入り、成長戦略へ舵を切る様子をみせていません。そこへ来て、バリュエーションは上昇中。S&P500の株価収益率(PER)は16.9倍と、5年平均の13.6倍および10年平均の14.1倍を超えています。これでは、米株の上昇余地は狭いと考えられます。

——米経済・米株に慎重なアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートともに、ストリートワイズも歩調を合わせていました。筆者も、米1月雇用統計が健全な成長を証明する決定打とは認識していません。新債券王としてお馴染み、ジェフリー・ガンドラック氏はCNBCに対し「Fedが1937年と同じく時期尚早な利上げに踏み切れば、成長を阻害する」と警鐘を鳴らしていましたが、少なくとも10-12月期および1-3月期の成長率は3%を下回るという試算もあります。根拠なき楽観にリスクが伴う——マーケットのボラティリティが高いのは、そんな言葉が市場参加者の脳裏にちらついているからかもしれません。

(カバー写真:The Atlantic)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年2月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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