ピケティ狂想曲を俯瞰的に眺めてみよう --- 城 繁幸

2015年02月11日 20:45

今週のメルマガの前半部の紹介です。

「21世紀の資本」において格差の拡大と固定化に警鐘を鳴らしたフランスの経済学者、トマ・ピケティが来日し、注目を集めています。おそらく誰でも一度くらいは氏のインタビューや講演情報を目にしたはず。やはり日本人も格差というキーワードに敏感になっているのでしょう。


とはいえ、ピケティというめったに釣れない超高級魚のさばき方をみていると、日本社会のリアルな実像が垣間見られてなかなか興味深いものがあります。というわけで、今回はピケティを通して見えてくる日本社会について考察していきたいと思います。

ピケティという鏡に自分の見たいモノを見い出す人たち

今の日本で多少なりとも政策に関心のある人は、だいたい以下の3種類に分類できます。

1.現状維持してほしい人々

既に一定の既得権を持っていて、できるだけ改革はやらずに今のままずるずる行ってほしいと願う人たちです。具体的に言うと、大企業の中高年正社員からなる連合、農協や日本医師会といった方々、メディアでいうと朝日新聞なんかが該当します。政党では連合べったりの民主党と、社民、共産といった左派政党が該当します。

というと「左派は体制変更して大企業国有化や過激な再分配政策を実現したいんじゃないの?」と思う人もいるかもしれませんが、そういう筋金入りの左翼というのはごく一部で、ほとんどの左派が目指しているのは現状維持、持てる者の既得権死守ですね。共産党が日本医師会と組んでTPP反対したり政府の農協改革に反対したりしてるのが典型ですね。労働者の利益より生産者の都合優先って、マルクスも草葉の陰で泣いてるはずです。

あと、先日はJAL倒産時に解雇された元社員の決起集会で社民党の福島みずほセンセイが挨拶してましたけど、JALという超ホワイト企業の元社員と組んで(公的資金の出し手である)国民相手に階級闘争やってるようなもんですね。

最近たまに「共産党は弱者の味方だ」と信じてる若い子もいますが、社民や共産と言った革新政党は70年代から大企業労組や公務員労組を主な支持基盤としてきたという歴史はおぼえておくべきでしょう。

2.お上になんとかしてほしい人々

また、経済成長を自由自在にコントロールできる魔法のスイッチが政府内に実在していると信じているグループもいます。「公共事業で経済成長」とか「政府の借金は国民の資産」とか言っちゃってるバラマキ派の人たちが典型ですね。

裏を返せばこの人たちは「自分の能力では豊かになれそうもない」とわかっているわけで、知能の低い人が多いですが、民主主義では同じ一票を持っているのでバカにはできません。自民党のセンセイには、本音では彼らをバカにしつつ、実にその心をくすぐるのが上手い人もいますね(誰とはいいませんが)。

また、お上助けてというスタンスは一緒ですが、魔法のスイッチが日本銀行内部にあると信じている人たちも少数ですが存在します。いわゆるリフレ派と呼ばれる方々ですね。

昨年に、バラマキ派のドンである藤井聡・京大教授(工学部!)とリフレ派の原田泰・コスモ大学教授(現・日銀審議委員)の間で一連の論争※1が勃発してましたが、筆者からすると別に日銀がいくら国債買ってもバランスシート的に問題ないんだったら200兆くらいポンっと買ってやって貧乏なバラマキ派に恵んでやれよと思うんですけど、要するに「お上助けて派」内の信者獲得を巡る内部抗争だと考えると理解できますね。

3.もっと規制緩和してほしい人々

最後のグループは、経済成長は規制緩和による自由競争の結果実現できると考えるグループで、いわゆる構造改革派と呼ばれる人たちが中心です。ビジネスパーソンや政策通と言われる政治家はたいていこのグループですね。もちろん筆者自身もここに属します。

メディアなんかではしばしば「小さな政府」と紹介されたりもしますが、必ずしもそういうわけではなく、規制緩和して自由競争はさせるけれども、その後のケアをどこまでするかは個人間で相当なギャップがありますね。あくまで個人的な意見ですが、自由競争やって後はアメリカ並みにほっておけ的な人は実はほとんどおらず、どちらかというと「北欧的な自由競争はするけど社会保障もそれなりに維持」的な人が大多数のように感じます。

さて、このうち1番と2番の人たちは、なぜだかわかりませんが、それぞれピケティにからめて自派の主張を布教するのに熱心です。だいたい以下のような主張が散見されます。※2

・現状維持派
「やはり格差拡大は問題だから、規制緩和も自由競争もダメだ!」
「消費税より、累進課税強化を!」

たとえば、筆者の宿敵である朝日新聞OBの竹信さんがさっそくピケティ本を出してたのには笑いましたね。朝日新聞論説委員として2000万円くらい貰いつつ雇用流動化を含むあらゆる規制緩和に反対、でも処方箋は一切示さないという記者時代の姿勢は今回も貫徹してます。定年後もピケティで一旗揚げようという商魂は見上げたもんだと思います。

それからもう一点。このグループの人たちはなぜか消費税アレルギーが強く、逆に所得税の累進課税強化が大好きな人が目につきます。筆者からすると、累進課税といっても日本には超高給取りなんてわずかだし、アウトローな方々や高齢者からも徴収できる消費税の方がマシだろうと思うのですが、彼らはなぜか所得税の累進課税に固執します。

理由は、彼らは確かに既得権は持っていますが、単年度で言うと別に超高給取りというわけでもないからです。たとえば民間最高給といわれるフジテレビにしても、平均年収は1500万円ほど。他の大企業や官庁なんて一千万円すら届きません。もちろん65歳まで生活が保障されるとか福利厚生が手厚いとか、何かあっても税金突っ込んでもらえるといった年収にあらわれないメリットはたくさんありますが、年収ウン千万円の経営者とか開業医なんかと比べれば、けして超大金持ちというわけではないのです。

消費税だと、生涯にわたってそれなりのお金を使う彼ら自身もがっちりターゲットとして捕捉されてしまいます。でも所得税の累進課税強化なら、彼らの多くは上手くすり抜けられるステルス機能を有しているわけです。

・お上助けて派
「やはりグローバリズムは悪だ」
「再分配の手段として、公共事業はとても有益だ」

ネットではまだ割と見かけるバラマキ派の面々は、ピケティの指摘する「資本収益率の方が経済成長より高いから、格差は拡大し固定化する」という一点から跳躍して「だからグローバリズムは悪、TPPとか規制緩和は反対」というロジックを垂れ流しているのが目につきます。

一方、アベノミクス開始から2年でめっきり数の減ったリフレ派の方々は、当初は氏の以下の発言で勇気百倍!アンパンマン!ばりに活気づいていました。
「国の債務削減には増税よりインフレが望ましい」

が、その後の朝日新聞のインタビューで梯子を外された格好となりました。1番のグループの中で反自民的なスタンスの面々も、これをもってアベノミクス批判の格好の材料としていますし、上のバラマキ派の中にも「やっぱり金融政策より公共事業だ」と言って喜んでいる人たちもいます。

「グローバル経済の中でできるかどうか。円やユーロをどんどん刷って、不動産や株の値をつり上げてバブルをつくる。それはよい方向とは思えません。特定のグループを大もうけさせることにはなっても、それが必ずしもよいグループではないからです」

まとめると、筆者の目には、少なくとも4人のピケティが同時に来日し、あれこれ講演やインタビューにいそしんでいるように見えます。

格差に警鐘を鳴らし、自由競争や規制緩和を否定するピケティ1。

グローバリズムを否定し、ブロック経済やバラマキをたたえるピケティ2。

人為的にインフレを起こそうとするアベノミクスを評価するピケティ3。

人為的にインフレは特定の富裕層だけが儲かって格差拡大するから否定的なピケティ4。

いったい、どれが本物のピケティなんでしょうか。

答えは「自分でご本人の著作を読んで自分の頭で判断するしかない」ということです。※3

インタビューというものは、聞き手のニュアンスや文脈の流れ次第でどうとでも色付け出来るものです。まして、初めて訪れた異国の社会情勢についていきなりコメントを求められたって、せいぜい外から見た印象か一般論くらいしか言えないはず。

基本的に、我が国の経済専門の研究者でもない人に政策を語らせて一喜一憂するのは愚かな話です。なにより、専門的に研究している国内の研究者に失礼でしょう。

※1

別に奨めませんが興味のある人はこちらから。

ついに暴かれたエコノミストの「虚偽」〔1〕

日本のGDPは公共投資が減っても増加している

アベノミクス「第二の矢」でデフレ不況を打ち抜け

アベノミクス「第一の矢」でデフレ不況を打ち抜け

※2

3番は後述するようにどちらかというとピケティとは距離を取りたがっている人が多く、積極的な発言は少ないようです。

※3

まあピケティは処方箋として資本を含めた累進課税をグローバルで実現しろと言っているわけで、別にグローバリゼーション否定なんてしてないしまして計画経済なんて説いてないわけで、ピケティ2は明確に間違いと言えますが。

以降、

日本人にピケティは響かない

日本は一国で再分配が実現できる稀有な国

※詳細はメルマガにて(ビジスパ夜間飛行BLOGS


編集部より:この記事は城繁幸氏のブログ「Joe’s Labo」2015年2月11日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった城氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はJoe’s Laboをご覧ください。

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