バロンズ誌:通貨戦争の副産物は、世界GDPの縮小か --- 安田 佐和子

2015年02月16日 10:33

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バロンズ誌、今週の特集は運用者からみた現状の原油安動向です。2014年の最大のサプライズは、同年6月のピークから約60%も下落した原油先物。足元で下げ止まりを示すなかフィデリティ、ウェスタン・アセット・マネジメント、スワンク・キャピタル、ジェニソン・アソシエーツなどのファンドマネージャーが原油相場、生き残るエネルギー会社などを分析しております。詳細は、本誌でご覧下さい。


当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、通貨戦争がテーマ。金融危機後の低金利政策を通じた債務拡大と内需抑制という顛末を経て、世界各国は1930年代の近隣窮乏化政策へ逆戻りしています。

1929年に世界恐慌に陥ってから、英国は賃下げと為替レート維持に払った犠牲の後で1931年に金本位制を放棄。他国も追随したものです。第2次世界大戦で管理為替相場ヘ移行しつつ、米国ではニクソン米大統領が1971年8月にドルと金の兌換停止を発表。1973年には固定為替相場が廃止され変動相場制へ移り、潮の満ち引きのように各国の通貨が上下していくことになります。自然の成り行きというよりは、人的な政策決定の影響下で変動してきたわけですが。

中銀こそ、債務負担を抱える経済を刺激するため変動相場制を有効活用してきました。モルガン・スタンレー(MS)によると、世界的な金融緩和ラッシュにより12の中央銀行が緩和策を行い、スウェーデンが最新例となっています。エバーコアISIの分析では、世界各国の中銀は過去3年間で中銀は514bpもの利下げを断行。経済面では1930年代に金本位制を放棄した国の回復が早かったように、MSいわく早期の段階で緩和策を講じた国がより強い恩恵を受けたといいます。

最初に緩和策に着手した国といえば、米国ですよね。2010年に量的緩和第2弾(QE2)を導入した際には、ブラジルのマンテガ財務相(当時)が初めて「米国こそドル安誘導を通じ通貨戦争を引き起こしている」と糾弾し、”通貨戦争”の口火を切ったものです。ブラジル・レアルは金利低下によるドル安の煽りを喰らい、輸出競争力を失いましたからね。

その米国は、今やデフレの輸入国となりました。年内の利上げが視野に入りドル高が加速した結果、米1月輸入物価指数は2008年12月以来で原油安もあって最大の低下を示しています。世界全体が景気刺激を狙いフルギアで緩和策のアクセルを踏む上で、今後はドルの上昇幅がますます拡大すること必至。ドル高の打撃をダイレクトに受け止めるものこそ、世界の国内総生産(GDP)と考えられます。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのグローバル・エコノミストであるイーサン・ハリス氏とグスタホ・レイス氏は、ドル高により世界のGDPは名目ベースで2.3兆ドル相当失われると分析していました。実質ベースでは2014年の3.3%を上回る3.5%となる見通しですが、ドル・ベースではブラジル、英国のGDPに匹敵するほどの金額が吹き飛ぶ計算なんですね。

強いドル、名目ベースで世界経済を押し下げ。
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(出所:2tradersclub)

中国も米国と同じく、海外からのデフレに直面する状況。人民元がドル・ペッグしているためで、欧州中央銀行(ECB)や日銀、その他が次々に緩和策に打って出るなか2014年4-6月期からの上昇は2005年以来で最大を示現する有様です。緩和策を行使するにあたって他中銀に出遅れた人民銀行は、国内のデフレ圧力も重なり通貨戦争に参戦するのでしょうか。BOAメリルリンチは大胆な人民元切り下げはないと予想していますが、断行すればテール・リスクは免れないとも付け加えていました。

世界的な金融緩和ラッシュが渦を巻き金融市場の流れが変わるなかで、S&P500は終値ベースで過去最高値を更新しました。原油先物の下落一服でエネルギー関連が買い戻され、相場に寄与。ウクライナの停戦合意やギリシャの支援プログラム協議も追い風となったことでしょう。米株相場はS&P500のほか、ウィルシャー5000も過去最高値を更新して引け。ウィルシャー5000はFedの緩和策をバネに成長を続け、2010年8月26日にQE2実施を表明した当時から指数は2倍、時価総額は12.8兆ドルも膨れ上がっています。QE3を発表した2012年9月12日からでは、8兆ドルも拡大してきました。

米株が再びブル相場に突入するなか、決算はというと芳しくありません。ビアンコ・リサーチのジム・ビアンコ氏いわく、S&P500構成銘柄の1株当たり利益伸び率は前年同期比4.1%とはいえアップルの寄与度が高く、アップルを除いた場合は2%以下にとどまります。

目下の注目は、イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長が24-25日に行う旧ハンフリー・ホーキンス証言。国内要因は、世界的なデフレ圧力より重視されるのでしょうか。Fedが年内に利上げすれば、少なくとも通貨戦争の裏の側面が顕著となりえます。ドル高の下押し効果が、いつまでもFedの手の届く範囲内にとどまるとは言い切れませんから。

——要は通貨戦争をバネに上昇した米株高に慎重、中国が懸念材料という論調です。執筆者のランダル・フォーサイス氏は、ブレないですねぇ。

ストリートワイズは、グロース投資とバリュー投資。2012年以降、株価リターンのばらつきが縮小するなか、アクティブ運用者はアンダーウェイトあるいはオーバーウェイトされている銘柄を見極めるのが困難であり、両者の境界線は、どんどん薄まりつつあります。そもそも1979年に産声を上げたラッセル1000・バリュー・インデックスの年間リターンは12.37%で、グロース型の指数も11.13%。直近5年間ではグロース指数のリターンがバリュー指数を上回った回数が3回であり、大差があるようにはみえません。ノムラ・インターナショナルのクォンツ・ストラテジー・ヘッドであるジョセフ・メズリック氏が「米株に関する限りインデックス運用者やアクティブ運用者にとって、グロース型とバリュー型でリターンの違いに注目するのに、価値はない」と言い切るはずです。

——基本はブル調な同コラム、米株高に言及しないのは過去数回の弱気シナリオ提示が仇となったのでしょうか。薄商いの間隙を突いてトントンと調子良く上がってきただけに、米株の足場が崩れた時を考えると強気に振り切れない点は否めません。

(カバー写真:Young adult money)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年2月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。

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