JR九州は真面目に鉄道事業に取り組め

2015年02月20日 11:02

JR九州の在来線のうち、黒字路線は福岡近郊路線の篠栗線だけだ、ということが報道された。逆にこの路線以外は全て赤字だ、ということである。

主要路線である鹿児島本線や長崎本線まで赤字なのは、どういうことなのかについて、分析してみたい。


JR九州の本業は鉄道事業ではなく不動産業だ、と揶揄する人は多い。実際、いくら会社として黒字になったといっても、鉄道事業は赤字であり、その穴を不動産業の黒字で埋めている。

鉄道事業は、過疎路線が多いため経営条件が悪い、という理由はわかる。しかし長崎在住の筆者から見ると、鉄道事業が赤字になるのは当たり前だから、そもそも最初から黒字にしようという気がない、というようにしか思えないことが多々ある。

それが端的に現れているのが、鹿児島本線と長崎本線まで赤字になった、という事実である。この2路線が赤字なのは、JR九州に鉄道事業の経営能力がない、としか言いようがない。その理由を述べる。

まず鹿児島本線。ここは九州新幹線の開通により赤字が拡大していると説明されている。しかし、その理由で赤字を出すことが正当化されるのはおかしい。

新幹線開通により並行在来線を経営分離することは認められている。もし新幹線開通で在来線が赤字になると予想されるのであれば、その路線は経営分離するのが営利企業としては正しい選択である。JR九州が、並行在来線区間で赤字額が大きいと思われる久留米熊本間を経営分離しなかったのは、新幹線開業後も黒字になると予想したか、赤字でも路線を維持すべきだと考えたから、のどちらかである。前者であれば鉄道事業者としての経営能力の低さを意味し、後者であれば、上場を目指す民間企業としては感心できない経営行動である。

そもそも新幹線開業後の博多熊本間の運営について、筆者はJR九州の経営能力に疑問を持っている。

この区間の並行在来線を経営分離しなかったことから、在来線特急も残すものだと思っていた。新幹線では拾いきれない需要が存在し、その需要を他社に取られないためにも、在来線特急は必要だったからだ。具体的には熊本市内の豊肥線沿線区間からの乗客が挙げられる。この区間は元々非電化だったのに、機関車牽引で特急電車を乗り入れさせたという経緯があり、その後電化されて現在に至る。この区間を走る1時間1本の在来線特急は残すだろうと思っていた。

ところが新幹線開業後、日中の在来線特急は全廃した。その結果どうなったか。新幹線で拾いきれない需要を根こそぎ高速バスに取られた。新幹線開業後に高速バスの乗客は増え、途中バス停からバスに乗客が乗りきれない状況が頻発し、高速バスが増発されるという事態にまでなった。新幹線が開業して、並行する高速バスの乗客が増えるという事例は前代未聞である。

続いて長崎本線。ここは全区間を1時間1~2本の頻度で特急列車が走破しているのに、赤字転落である。

地方路線だから赤字になるのは仕方がない、という理屈は、ここでは通らない。同じように全国的に赤字が問題になっている第三セクター鉄道でも、JRの直通特急が全線を通過する鉄道会社は黒字である。長崎本線のように、定期列車だけで1日50本の特急列車が全線を走る路線が赤字になるというのは(今は長崎ランタンフェスティバルが開催中なので、さらに数本の臨時列車が全線を走っている)、もう鉄道会社としての経営能力がJR九州にはない、と断言していいのではないだろうか。

筆者は長崎市民としてこの長崎本線の状況を見ているが、最初からJR九州はこの路線を黒字にしようという気がないとしか思えない。

長崎博多間の特急の値段は、各種の割引があり、それを使って片道2600円程度で安定している。そもそも物の値段は市場で決まる。この区間の運賃も高速バスとの競合で市場価格が形成され、それが現在の割引運賃の価格だと判断できよう。鉄道事業者が収益をあげるには、この価格のもとで乗客を増やすかコストを下げる、というのが経済学的な考え方である。

ところがJR九州はコストを下げるという努力をしているように見えない。

最近になって株式上場を目指した鉄道事業黒字化のために、長崎本線の特急「かもめ」でも客室乗務員廃止の方向性を打ち出した。

そもそもJR九州の客室乗務員は、直接雇用をすることにより接客サービスを向上させ、乗客を増やし鉄道の利用者を増やすという目的があったはずだ。客室乗務員を廃止するのであれば、この目論みは間違いで失敗だったということになる。

地元の乗客の立場からすると、「ゆふいんの森」のような観光列車ならさておき、「かもめ」に客室乗務員が乗っていることは、ほぼ乗客増に結びついていないと思う。私は客室乗務員による車内販売をよく利用する方であるが、見る限りあまり売れていないし、かなりの赤字なんだろうと想像できる。私自身、客室乗務員がいるから鉄道を利用する訳ではないし、そもそも早朝夜間の便には最初から客室乗務員は乗務していない。ついでに言えば、夜に長崎駅直結のスーパーで買物をしている客室乗務員をよく見かけるが、車内販売でたいした売上もないだろうに、毎日長崎に泊まりという客室乗務員の勤務体系を組むJR九州は、どういうコスト意識をしているんだろうか、と思っていた。

それ以上に大きな問題は、車両にかかるコストが高すぎると思われることだ。

JR九州の車両は、デザイン重視で、乗客に優しくない。最大の問題は、1両あたりの定員が少なく、結果として運行コストが高くなることだ。

まずデザイン重視の問題。「かもめ」の主力車両である885系は、革張りで座り心地が悪く、テーブルが小さいためノートパソコンが使いにくい。さらに振り子式でよく揺れる。これはビジネス客に乗るなと言っているようなものである。

魅力的なデザインの車両を走らせ、それを目的に来る乗客を増やして収益を上げよう、という考え方自体は間違っていない。しかし、観光路線ならさておき、定期列車だけで1日50本も走っているビジネス路線まで同じ方向性で運営することが、鉄道事業者として正しいのかは疑問である。

乗り心地が悪いことは競合他社に客が流れる原因になる。競合する高速バスは所要時間2時間程度の路線であるにも関わらず3列シートで居住性の高さをアピールしていた。しかし最近のバス車両は4列シートにして定員増を図っている。これも「かもめ」の乗り心地の悪さがあってからこそできた改悪であろう。

続いて車両定員の問題。定員を減らして居住性を良くするのならまだ理解できるが、前述した通り、JR九州の車両は定員が少ない上に乗り心地が悪いので、定員の少なさはコスト高による経営悪化の要因にしかならない。

特急「かもめ」のもう1つの車両である787系は、1号車の定員が21人しかない。個室が1室あるので、座席は17席だ。この個室と3席あるDXグリーン席は宣伝不足もあって、ほとんど乗客がいない。指定席が満席になっていても、実際に1号車に客が乗っているのは14人まで、ということが多々ある。JR東海の関係者がこの事実を見ると、どう思うのか個人的に知りたい所ではある。

そして1両の座席定員が少ないから多客期には増結する必要が生まれる。定員に比べて編成が長くなるから、その分運行コストが高くなる。

またデザイン重視のため、通常の鉄道車両にある荷物棚ではなく、飛行機のようなふた付きの荷物入れになっている。この荷物入れが小さく、ちょっと大きなカバンは入らない。その結果、885系ではただでさえ座席定員が少ないのに、さらに座席を外して荷物置き場にする改造をしている。悪循環である。

さらに、こういう状況を考えれば、大きい荷物を持って旅行をする時は高速バスの方が楽だ、という結論になる。少なくとも長崎から福岡空港の国際線ターミナルを目指す人は、高速バスが国際線ターミナル直通だということもあり、ほとんどの人が高速バスを利用する。観光客を集めるための車両デザインが、観光客を手放すという結果になっていることを、JR九州の経営陣はどう考えるのだろうか。

JR九州が本気で鉄道事業の黒字化を目指すのであれば、ビジネス路線と大都市近郊路線に関しては、特定のデザイナーに多額の報酬を支払うということをやめるべきである。逆にいえば、この分野で特定のデザイナーを見切ることができれば、JR九州の鉄道事業に向ける本気度を外に示すことができる。

とにかく、鉄道事業の黒字化に向けてJR九州が本気で取り組むのであれば、現状を考えると地元利用者の利便性向上にもつながるので、不動産業にばかり注力するのではなく、ビジネス路線にも真剣に取り組んで頂きたい。

前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師

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