コンピューターに振り回される産業界と人間社会

岡本 裕明

最近、カリフォルニアのシリコンバレーは以前とは一味違う活気があるようです。ドットコム時代のシリコンバレーとは正にコンピューターというディバイスとそのソフトウェアに集中していました。ところが、コンピューターが世界中の多くの人々に端末としていきわたるようになり、そのディバイスがデスクトップ、ラップトップ、スマホと進化し、人間生活の中で一種の血液のような役割を果たし始めるとその血液をもっと重要な地点と結びつけようとします。


アップルのティムクックCEOは2013年に同社の将来のプラットフォームとして健康、住宅、自動車を上げています。それら生活に密着したものをコンピューターのディバイスを通じて結びつけ、現代社会においてアップルがなくては生きていけない仕組みを作ることを目論んでいるとも言えそうです。

事実、健康に関してはリスト型ディバイスで消費カロリーや運動の記録のみならず、睡眠の状況まで簡単に分かるようになってきています。多分、近いうちに睡眠時無呼吸症候群もわかるようになるのでしょう。そうなってくるとおしゃれなスイス時計よりも健康管理用のこのリスト型ウォッチが手放せなくなってしまうような気がします。

住宅については家電やお風呂、セキュリティを全てネットで繋ぎスマホを持つ家主がその状況を完全把握することができる時代はもうすぐそこに来ています。(ただ、冷蔵庫が開きっぱなしになっていると知らされてもそれを閉める算段がないと意味がない気もしますが。)

では自動車。1月にラスベガスで開催されたコンシューマーエレクトリックショー。その存在感は電機メーカーというより自動車メーカーが圧倒していたのが2015年でありました。そして自動車が巨大なるエレクトロニクスの塊となり、最新のテクノロジーを持つ高度な電子頭脳となりつつあったことをニュースを見た方は感じ取られているでしょう。

ではアップルがどこまで自動車に対して積極攻勢に出るのか、ここが最近の話題となりつつあります。グーグルが自動運転の車の開発にいそしんでいる間、アップルが指をくわえていたわけではありません。2013年に車搭載用のiOSを開発、2014年にフェラーリに搭載し、今後、ベンツ、ボルボ、VWにも搭載される計画となっています。ただ、Siriや地図など限定的内容ですが、今後、どういう展開をしていくのか、期待が持てるでしょう。

グーグルが2020年を目途に自動運転の車を開発するのに対してアップルは同年までに電気自動車で対抗するのではないかと見る向きも多いようです。電気自動車ならば部品は少なく、その開発は可能ではないかとする業界内の意見もありますし、自動車メーカーなどから引き抜いた人たちがシリコンバレーの全く別の場所で研究しているようであります。

アップルが自動車を作るのかどうかは別として明らかに言えることは業界の垣根はもはやないという事であります。上述の通り、電機ショーに自動車メーカーが主役となる時代と思いきや、自動車メーカーはアップルやグーグルとの連携を探るという関係に産業界の仕切りがどんどん下がっていくことは必至であります。

つまり、今後5年ぐらいの間に起きるであろう新たなる革命とはすべての業種が複雑怪奇に絡まり合い、情報とそれを送受信するディバイスが全身に流れ込む血液のような役割となることでしょう。自動車でも住宅でも健康産業でもそれらは手、足、頭といった部位に転じながらも一体感を作り上げていきそうです。今までバラバラだったものが繋がるという意味では大きな期待が高まる半面、今までの業界の固定概念にとらわれていると足元をすくわれることにもなりかねない時代となります。

IoT(インターネットオブシングス)が2015年のテーマとこのブログで年初に申し上げたと思いますが、その進化は我々の想像をはるかに超えたスピードでその生活観を変えていくことになりそうです。その時、我々人間はコンピューターに使われるのか、コンピューターを利用し、自らの成長に役立てるのかその違いを明白にしないと無能者、落ちこぼれが出る社会問題との戦いが待っているような気もいたします。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人  3月5日付より