いま世界中の◯◯が仙台に集まってる

本山 勝寛

あの311から4年が経った。復興はまだまだ途上であるが、私たちの意識と記憶は時間とともに薄れがちになってしまう。そんな折、東日本大震災の経験と教訓を広く国際社会と共有する大きな機会が訪れる。3月14日から18日、仙台市で第3回国連防災世界会議が開催されるのだ。10年に1度の大規模な会議で、各国の首脳や大臣をはじめとした政府代表、各国連機関、NGOの代表らが参加し、各国の防災に関する国際的な枠組を採択する。国連本会議だけでなく、自治体やNGO、企業らが主催する300以上の関連イベントも催される。


いま、日本中の◯◯が仙台に集まっていると言われている。たとえば、日英の同時通訳者。英語だけでなく、国連公用語であるフランス語、スペイン語、中国語、アラビア語通訳などもそうだ。ほかにも、同時通訳を聴くためのヘッドフォンも日本中からかき集められているとまことしやかに語られている。おそらく観光会社、旅行代理店のスタッフやバスなども仙台に集結しているはずだ。

こういった大きな国際会議を誘致し開催できるキャパシティを持つことは、日本が世界への発信力をつけていくよい経験値になる。また、東京や横浜だけでなく、仙台のような地方拠点都市が世界の都市と直接つながることは意義深い。

今回の国連防災世界会議で、もう一つ、仙台に集結するものがある。それは世界各国からの障害者団体の代表者たちであり、その参加を可能とする手話通訳や車椅子用のリフトバスなどだ。これまで防災のなかで見落とされてきたテーマである「障害者と防災」について、本会議の公式セッションとして初めて討議されることになったのだ。

私は、311以来、勤め先の日本財団で、防災に障害者の視点を盛り込むための働きかけを国内外で行ってきた。先般、産経エクスプレスに”「障害者と防災」テーマに初討議 第3回国連防災世界会議」という記事を寄稿した。その一部を抜粋して紹介する

東日本大震災で犠牲となった障害者は1600人以上で、死亡率は全体の約2倍にのぼった。体が不自由なため逃げ遅れた人、避難警報が聞こえなかった人、視覚障害のため高台にたどり着けなかった人、人工呼吸器の電源を喪失し息を引き取った人…。普段からの備えと周囲の支えがあれば、助かっていたかもしれない命だ。避難所生活でも、周囲の無理解ゆえに避難所を去り、がれきに埋もれた自宅や車の中での生活を余儀なくされた人も少なくない。

防災に障害者の視点が欠けているのは、日本だけではない。2005年から15年までの国際的な防災指針「兵庫行動枠組」には、障害者についての記述がほとんどなかった。日本財団が、国連国際防災戦略事務局にこの問題を提起したときも、これまで障害者をテーマに扱ったことも、障害のある人が会議に参加したこともなかったという。

そこで日本財団は、防災の取り組みに障害者の視点を取り入れることの重要性を国内外で訴えることにした。12年の東京を皮切りに、韓国・仁川、スイス・ジュネーブ、米国・ニューヨーク、岩手県陸前高田市、仙台市、タイ・バンコクと世界各国で障害者と防災をテーマに国際会議を開催し、国連機関や各国政府、NGOらに働きかけてきた。

その参加者の一人である世界盲ろう者連盟事務局長の福田暁子さんは目や耳に障害があり、人工呼吸器を利用している。昨年12月、ニューヨークの国連本部で、「目も見えず耳も聞こえない状態で大地震や大津波が迫ってきたら一体どうすればよいのでしょうか。技術の発展により障害者も多くのことが可能になりましたが、それでも十分ではありません。人と人とのつながり、孤立せず互いが気にかけ合っていることが大切です」と訴えた。

しかし、すぐに状況が変わるわけではない。第3回国連防災世界会議の公式セッションで「障害者と防災」をテーマとして扱ってほしいと訴えてきたが、当初の予定では時間は用意されていなかった。これまでのやり方が踏襲され、障害者と防災は主要なテーマとみなされなかったのだ。そこで、ジュネーブの国連防災世界会議準備会合に足しげく通い、国連事務総長にも書簡を送り、日本政府からも働きかけを行った。長い交渉の末、ようやく1時間半のセッションが設けられた。

また障害者がしっかりと議論に参加できるようにするため、国連防災世界会議全体を誰もが参加できるよう配慮した「アクセシブル会議」とすることも提案。日本財団の支援で、手話通訳や要約筆記の提供、会場や宿泊施設、交通手段におけるバリアフリーの徹底、公式文書のアクセシブル形式による発行などが初めて実施される。

障害のある人も会議に参加し発言することで、その視点を全体の防災の取り組みに反映させられる。その結果は障害者にとってだけでなく、高齢者や子供も含む全ての人にとって好ましい防災となるはずだ。障害者が、単に災害時に援護を受けるべき弱者としてではなく、防災計画の策定や避難訓練などあらゆる段階で参加し主体的な役割を果たすことで、災害に強い街づくりに貢献できるという観点が重要だ。今回、採択される新しい行動枠組には、そういった観点が盛り込まれるべきだ。

日本でも海外でも、大災害はいつかやってくる。そのとき、障害の有無にかかわらず一人でも尊い命を守るために、障害者も参加する防災が世界各国で推進されることを期待したい。(日本財団ソーシャルイノベーション本部 BHNチーム リーダー 本山勝寛/SANKEI EXPRESS)

関連記事
障害者は防災とまちづくりのイノベーター
人はみな障害者になり、被災者になりうる
阪神から20年、3月には国連防災会議が仙台で

学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『16倍速英語勉強法』「朝日新聞出版』、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。