中国は安定的であり続けるのか?

岡本 裕明

中国の年一度の最高権力会議、全国人民代表会議が15日に閉幕しましたが経済の巡航速度を7%に落とすほか、国防費を前年度比1割増やすこと、反腐敗運動を更に推し進める方針が見て取れます。


表面的にはバブル後遺症の後始末に時間がかかって経済成長率が浮上しない中、人件費が上昇し、外資も国内外の経済環境の変化を受けてかつての中国進出の勢いは見られません。大きな中国は都市部と農村部に分かれ、人口の6%以上に当たる8500万人以上の権力を持つ共産党員が力を持ち、その共産党内部も派閥に分かれ習近平国家主席率いる太子党が足場をしっかり固めつつあるという複雑な構図があります。

中国大陸の歴史では国家論そのものを謳うケースよりも個人の名声や富を求めるケースが多くなっています。清帝国滅亡のあとも全体論より個人名がその国家の動静を左右した歴史を見れば一目瞭然であります。袁世凱、段祺瑞、孫文、蒋介石、毛沢東、四人組、鄧小平…と歴史を紐解けばその時、その時で政策はぐっと変化しています。これをみると今日の共産党員の腐敗は権力闘争の賜物であるともいえそうです。それを封じるために習近平国家主席が採った作戦は文化大革命の時と同じ大衆の扇動作戦であります。但し、今のところ、66年の紅衛兵のような動きではなく習近平氏にとって邪魔になるかもしれないフロストを潰すことに専念しているようですが。

人事権を握れは13億の民を擁する国家は習近平氏のタクトの振り方次第でどのようにもなるわけですが、5年後、10年後も同じ方向で走っているのか、その約束は何処にもないことも多くの中国人は口にこそ出さなくてもわかっています。それが結果として自分の身は自分で守るというスタンスに移ってきているのかもしれません。

中国人の消費が伸びず、貯蓄傾向が高いという事はよく言われています。その中国人が爆買いする理由は購入した炊飯器や魔法瓶を転売して稼ぐに他ならず、そこには「普通の人のアングラ経済」が見て取れます。年収50万円の人がなぜ爆買い、というのはその年収が税金を払った公的な水面上のお金であって実態を表していないからでありましょう。今から5-6年前、中国に年収1千万円の人が1億人いると聞いたことがあります。私はまんざら嘘ではないだろうな、と思ったのは当時で共産党委員が7000万人水準だったと思いますのでその方々の「様々な所得」を合算すればそれなりの金額になるし、上位にいる人からの権力のおこぼれもあるだろう、と考えたのです。

ニューノーマルと称する7%の経済成長率しか維持できないのはこの10年の中国の経済運営の中で無理がたたった結果であるともいえます。本来であれば都市層から農村への所得移転がなくてはいけないのですが、その敷居が防波堤のようになっている国においてマネーのフローが塞がれてしまい、都市層内での還流が起きたこともあるでしょう。13億の民の経済は約3億の都市市民の中間層が主導するものの残り10億人がまだ十分に刺激されていないとも言えなくはないでしょうか?

日本が東南アジア諸国に企業の進出先をシフトする数ある理由の中で中国の人口は実数が13億であれど経済を主導する数3億人となってしまい、東南アジア諸国と人口的に競合関係にあるとも考えれます。

その上、反腐敗運動は中国の富裕層のお金の使い方を明らかに緩慢にしています。マカオのカジノがこれほど不振になることをどの中国人が予想したでしょうか?ブランドものの店でブランドのロゴマークが見えにくい商品が売れるのは名声を欲する中国人にとって忍耐であり、辻褄が合わない気がします。

抑圧された民はどこかで逆流することがあります。習近平国家主席の不正取り締まりの政策は大いに効果をもたらすでしょうが、経済成長率が低迷し、ボディブローのように効いてくる覚悟も必要です。中国人は本来であれば自由経済の下、儲けることを自由にやらせた方が伸びる人種であります。それを抑制してくれているのですから習近平主席の政策は日本経済にとっては非常にありがたいとも言えそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 3月17日付より