スカイマーク再建

小幡 績

経済として必要なことは一つ。

経済全体の効率性を高めることだ。

スカイマークという名前が残ろうが、ANAが力を強めようが、経済全体にとっては、どっちでも良い。

必要なのは、全体の効率性である。

効率性とは、誰が儲ける、損をすると言うことと関係ない。

効率よくサービスを提供できる主体が供給し、サービスを受けたい主体が、サービスの消費量を最大になるように行動するということだ。

このときの利益の配分は関係ない。

利益は移転すれば良い。

となると、ベストの再建案はどうなるか。


簡単である。

もっとも効率的にフライトサービスを提供できる主体が、スカイマークの事業を引き継ぐことである。

スカイマーク自体が最も効率的であり、過大投資の失敗さえなければ、もっとも優れていたのであれば、そのままスカイマークに事業を行わせるのが良い。

しかし、実態は異なる。

ややこしくしているのは、行政の介入だ。

市場の失敗を補うために介入している、という意図かもしれないが、結果的には、日本の航空サービスの効率性を落としてきた。

行政の最大の介入は、羽田を始めとするスロットの配分だ。経済理論的には、オークションにするのが望ましい。もちろん、オークションが非効率性をもたらす場合もある。財務的能力に差がある主体が競争した場合に、将来の独占を狙って、相対的に小さい、新規参入企業を排除するために、高値で入札し、独占し、新規参入者がいなくなったところで、価格を上げてくる、という、ダイナミックな独占戦略で望む場合などだ。

かつての日本でも、輸入代替産業を育てるために、幼稚産業保護ということが唱えられたが、その場合でも、現在幼稚な産業、あるいは企業が成長した暁には、現在の既存企業よりも、効率的な企業に進化していることが必要である。

ただし、進化しなくとも、もう一つの効果があり、それは競争を促進することにより、既存企業の生産性向上も促すことである。あるいは、独占利潤をむさぼらないことである。

しかし、現実には、これは当てはまらない。日本の航空産業は、JALとANAで熾烈な、異常なまでのライバル意識で競争がなされている。したがって、独占者があぐらをかくと言うことはなく、むしろ、目に見える1対1の競争であるが故に、最も激しい競争になっている。

これは、経済理論でも1980年頃に既に提唱されていたコンテスタビリティの概念がある。まさに、この理論は、米国の航空産業の競争に対して提示されたもので、経済理論における完全競争という概念は、競争者が無限にいることになっているが、これは無限でも2者でも同じことで、独占でなければ同じである、という理論である。

2者による寡占が生まれるのは、暗黙の結託が行われるからで、この点では、2者では問題があるが、それは3者にしても同じことで、問題は、数ではなく、結託が生じるのを防止すればよいのである。

その意味で、スカイマークという異質な、敵対心をむき出しにした、独立に命をかけた西久保氏がいたことはそれなりに効果があった可能性があるが、現実は、大きく変化し、そのような根性論ではビジネスが成り立たなくなった。

現在は、まず国際競争が激しくなり、国内で複数のエアライン会社があることは、どちらでもよく、あるいは、規模の経済が得られにくく鳴るという意味でマイナスとなった。国際的に競争力のあるところ、つまり、効率性の高いところは、一定の規模の経済、範囲の経済(ネットワークの広さ)が効率性を大きく改善するため、国内の供給者数は多いことはマイナスとなった。そして、競争は、国際的なLCC参入の圧力により高まり、より激しくなったので、国内の供給者が減っても、関係なく、競争が十分に行われるのであれば、規模、範囲の経済により、少数で大規模であることが望ましいため、むしろ、多数の供給者は効率性の点でマイナスとなった。

さらに、空港同士の国際競争も激しくなり、また機体のイノベーション、競争も激しくなり、投資も大規模で必要となり、また、国際線の複雑性、アジア域内での交通量の急増など、すべて、国内の小さな競争を激しくする、国内供給者数の確保はむしろマイナスであり、国内の過当競争を減らし、国際的に激しい競争を行える体力を確保することが、国内消費者にとっても、国内供給者が体力があり、価格を下げられる力がある方が望ましくなった。

このようなことから、スカイマークは、ANAまたはJALあるいは海外の供給者に吸収されるのが、効率性からいくと望ましい。

しかし、行政は、プライドなのか、考えが古いのか、国内第三極の維持を最優先にする、という過ちを犯している。また、JALに出資を禁止したのも、意味がある判断とは言えず、さらに愚かなことに、ANAに出資は認めるが、再建が終われば撤退するという条件での出資しか認めない、というちぐはぐな最悪の方針になっている。そんなことなら、出資しても効率性の改善に全力を果たさないことは確実であり、ANAの独占力を排除しようということだけである。国民としては、ANAに独占させても良く、そこから、価格規制あるいは独占価格を徹底的に監視して、価格を引き下げさせればいいだけのことである。そこをサボって、市場の競争、という安易な道に逃げるから、無駄な企業が残り、二重投資となり、効率性は低下するのである。

価格監視の徹底が難しければ、そこは法人税を大きく課税するか、羽田のスロットを行政による配分とせずにオークションとし、その収入を最大化し、国庫に納付すれば、広く薄くではあるが、減税に貢献できる。

スカイマーク再建が迷走するのは、行政の過ちと、スカイマーク側の独立に拘る維持によるものであり、経済原則を貫くべきで、ファンドも高く売ればいいのであるから、歪みを広げずに、いち早く事業者へ経営権を移すべきである。