アメリカ経済の本物度

岡本 裕明

北米時間の明日、アメリカでは3月度のFOMCが終了し、その内容が公開されます。市場関係者が固唾をのんで見守るのは「patient (忍耐づよく)」という言葉が削除されるかどうか、でありますが、それは今日、明日の市況に振り回される短期筋であって、アメリカ人の90%の人にとってはそれが何を意味するのか、それがどれだけ自分たちの生活に影響があるのか知ったことではありません。


利上げが6月だろうが9月だろうが今年中だろうが、来年だろうがこの2年ぐらいずっと言われて続けてきた量的緩和の終了から利上げのプロセスはゆっくりと、しかし確実に歩を進めていることは認めていますが、もういい加減に聞き飽きてきました。

本来であれば「アメリカ経済回復の本物度」という内容は明日のFOMCの結果を見て書けば良いことなのですが、私にとってはpaientにそれを待っていられないので大局的なアメリカ経済について考えてみたいと思います。

アメリカ経済を総括すると一時的なピーク、ないし踊り場に差し掛かっているように見えます。この先、更に上昇させるには今の世界経済の状態では力不足であって間近な利上げの状況にはないと思っています。

先ず、昔からイエレン議長が満足しない指標の一つが住宅市場。リーマン・ショックから一時的には立ち直ったもののその後の回復は今一つです。本日発表されたアメリカ2月度住宅着工件数は衝撃的な89万7千軒(年換算)でアナリスト予想の104万軒に全く届かないばかりか前月比で17%下落しています。特に北東部では前月比半分以下になるなど気象条件の悪化もありましたが市場の弱さを見せつけました。

小売販売も不振ですし、原油価格もここにきて再び下落傾向が増してきました。

原因ですが、内需の掘り起こしも一巡したことと賃金伸び率がせいぜい年率2%で庶民が消費を伸ばせる範囲が限られることが考えられます。2%の賃金上昇ではせいぜい自動車を低利ローンで購入するぐらいが精いっぱいの大型消費で2000年代半ばのようなバブルとは全く違う空模様ではないでしょうか?生活は明らかに堅実になりふわついた感じが無くなったように見えます。

もう一つはオバマ大統領が当初目指していた輸出大国アメリカの復権の誤算であります。石油は有り余るほどストックされているのに売り惜しみ、為替はドルの独歩高で世界を見れば先進国から新興国まで利下げのオンパレードであります。昨日トロントのディーラーと話していたら「カナダはそれでもまだ利下げする可能性が高い」と。またオーストラリアも利下げ催促相場になっています。韓国もタイもロシアも利下げしました。

私には金融緩和で有り余る日欧米のマネーが世界経済の「うわずみ」となりかつての経済理論に基づく予想とコントロールが困難になってきているように思えます。イエレン議長と言えども株式市場の動きを無視することは出来ず、そのやり方を一歩間違えば想像を絶するしっぺ返しがくることも容易に想像できます。

更に不都合なことにレームダックした大統領下の国家運営で機敏な政策を出せるのはもはやFRBだけであります。しかし、世界を見れば不和があちらこちらにあり、いわゆるトラブルの芽が春の息吹の様になっていてそれが経済にどう影響するかまではいくらイエレン議長も読み切れず、氏の範疇を超えています。ドルが基軸通貨であるがゆえに日本円やユーロの様とは違い世界情勢と展望にも一歩踏み込まざるを得ないことがコトを複雑にしています。

個人的には利率とは時間軸に対する期待利益に安全ファクターを掛けたものという単純化したモデルがベースだと思っています。その中で成熟国は安全ファクターが高く、時間に対する成長性は当然落ちているので金利は昔のように上がらなくなると私はもう20年も言い続けています。仮にアメリカがいつか利上げするとしてもかつての様に5%にもなることは戦争でもない限りあり得ないと思っています。ですからアメリカ人の90%が「patientが何?」と思うように私も「多少利上げがあっても国民生活にさほど影響なし」と考えています。多くの人は利上げ=5%の金利時代の再到来と勘違いしているような気がします。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 3月18日付より