不動産市況の回復は本物だろうか?

岡本 裕明

2015年1月1日現在の公示価格が発表されました。ニュースのヘッドラインは「商業地が7年ぶりに横ばい」あるいは「三大都市圏が2年連続で上昇」などこの数年の不動産価格の回復ぶりを伝えるものが多いようです。私は数年前から回復するだろうと指摘していましたが全体感としてはそれが続いていることになります。


但し、ヘッドラインが商業地や大所高所からの見方に対して住宅地についてはインパクトがないせいか、ニュースの影となっている点に留意が必要です。例えば東京の住宅地は2014年度の0.7%上昇から本年は0.5%に「下落」、三大都市圏の住宅地も昨年の0.5%上昇から0.4%に上げ幅が縮小しているのですが、これは見て見ぬふりです。

全体の回復ぶりにはいくつもの複合要因があります。低金利、外国からの資金、経済回復基調、オリンピック、高齢化社会や相続に伴う不動産の流動化、増え続ける外国人、ビザの緩和などでしょうか。但し、私はこれら要因は必ずしも十分に健全ではないと思っています。あえて言うなら「作られた理由」「消極的理由」であって不動産市況が正しく長期的に上昇する最重要ポイントである人口の増加と不動産の買い替えが促進させなくてはいけないと考えています。

これではオリンピックまで不動産価格上昇が続くか私としては心持てない気がしています。

数年来やり取りしている街の不動産屋と話をすれば「住宅用物件が飛ぶように売れている」と言います。しかし大きな宅地を購入できる個人は限られており、実際には建売業者か法人のアパート投資目的で購入しているようです。区画を2つ、ないし3つに仕切り一階に駐車場付の三階建住宅として5000万円前後で売却するというパタンはおなじみでしょう。

確かに5000万円前後の物件価格はサラリーマンのローン返済を考えれば心地よい数字であります。しかし、誰も声をあげませんが「いや、もうちょっと高いのが買えてもよさそうだ」という40-50歳代の方々の本音もあるはずです。事実、都心の土地付5000万円台の物件は正直、特徴ないスペック住宅のようなもので最低限の基準を満たした第一次取得者層や念願の戸建て願望を満足させているレベルです。

では、マンションに住む中高年がなぜ、戸建てに移り住めないかといえば今持っているマンションを売れば必ず「損失」が発生し、マンションの築年数が深ければ買い手もつかない最悪の事態が生じるからであります。

9割が中古住宅取引のアメリカに対して日本は全市場取引の僅か14%しかない根本的問題は「住処」と称して一生住む住宅というイメージを植え付けさせたこと、そして買い替えがしにくい22年償却問題があります。日本人は農耕民族で欧米のような狩猟民族ではないからそう度々引っ越さないという論理がたつのも確かです。

しかし、マンションライフは土地とのリンケージが薄く、サラリーマンは転勤で居住地が変わることもしばしばです。住宅の買い替えをしやすくする制度ができれば日本の不動産市場は驚くほど変貌します。これらはすべて国交省と財務省と住宅ローンを付保する銀行のスタンス次第ということになります。たしか国交省は空家住宅の問題も含め、22年償却の見直しを進めていたと認識しています。あとはマンション業者の利権絡みで政治家を通じてチャチャが入らなければよいのですが。

不動産価格が上がる理由はそこに人が集まるという理由にほぼ集約されます。サンフランシスコ、シリコンバレーの不動産が高いのは新しい産業が生まれ発展し、人が集まるからです。日本の地方に於いても産業の誘致と共にそれに付随するビジネスを創生し、活性化を図る工夫が必要ではないでしょうか。今の地価公示価格の動静から将来に対して確固たる自信はとても持てそうにありません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ外から見る日本 見られる日本人  3月19日付より