プライベートエクイティの利益源泉

2015年03月31日 11:30

ある企業が、事業再編を決断し、子会社を売却するとしよう。そして、その事業価値を客観的に評価したとき、100億円程度に見積もられるとしよう。


売却は相手あってのことだ。時間をかけて、じっくりと売却先を探せば、100億円以上で売ることも可能かもしれない。しかし、そのような時間をかけること、経営のコストをかけることは、この企業再編という局面では、許されない。決断済みのことに、更に時間をかけることは、結局は、撤退しないのと同じことである。

時間をかけても、その間、事業価値を高めるような努力は、もちろん、払われ得ない。しかも、こういう不安定な状況のもとで、子会社の経営陣や従業員に対して、意欲を維持するよう求めることはできない。多くの場合、事業価値は低下に向かうのが関の山である。

もう一つ重要な論点は、100億円という売却代金の回収である。当然のことだが、この資金、事業再編計画のなかに、資金源として織り込まれているはずである。その資金回収の時間的目処が立たなくては、経営計画に支障をきたす。

故に、プライベートエクイティが利用されるのである。プライベートエクイティのファンドは、こういう状況もとで、売り手に、時間の節約と金額の確定という大きな価値を提供することができるのである。ただし、価値に対しては、対価を要求する。それがプライベートエクイティの収益源泉である。

要は、プライベートエクイティの運用者は、事業価値よりも低い値段で、その子会社の株式を取得できるということである。

100億円という事業価値は承知の上でも、時間の不確実性を取り除き、経営コストを削減できるならば、例えば、三割安い水準の70億円で売却したとしても、十分に合理的な経営行動になるはずである。しかも、この70億円は、一定時間内に確実に入手できる。だから、経営計画のなかに予測可能性をもって、きちんと組み込むことができるのである。このことの利益は、事業再編を急ぐ企業にとっては、非常に大きい。

つまり、企業再編を急ぐ企業に対して、時間という利益を供与することで、その利益がプライベートエクイティの側の収益として転化してくる、これが、プライベートエクイティの投資価値である。

そう考えると、プライベートエクイティの運用者に求められる役割期待というものも、はっきりしてくる。要は、取得した子会社の事業価値を維持しながら、適切な買い手を捜すということに帰着する。ここで注意すべきは、価値を維持しながら、ということと、買い手を捜すのに要する時間、この二つの問題である。

プライベートエクイティの世界では、バリューアップ(価値の増大)というが、実業の専門家ではないプライベートエクイティの運用者にできることには、限界がある。経営者の意欲を高めるような報酬制度の設計など、運用者のそれぞれが、冷静に自己の能力をわきまえて、経営者を支援するような黒子の役割に徹し、とにかく事業価値を維持することが重要なのである。

また、時間と売却価格との関係も、よく知られた論点である。投資採算をはじくのに使われる内部収益率の計算方法によれば、価格を二倍にすることと、時間を半分にすることは、同じ効果をもつ。状況により、時間と価格との相反を適切に判断することは、運用者の重要な能力なのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
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