戦後70年談話の行方

岡本 裕明

安倍首相が今年行う予定の戦後70年談話は有識者会議を設置のうえ、専門家が中心となりその検討を進めています。発表のタイミングは夏とするメディアが多いのですが、それがいつになるかは別にしてその内容がどのようなものになりそうなのか、考えてみたいと思います。


本件に関しては安倍首相をはじめ、政府の要人が時々一言、ふたことコメントを発していますが、今までの流れを大きく変えるものではないといったニュアンスが含まれています。村山談話も河野談話もそれを打ち消したり、根幹を修正することはないだろうとみられています。

中国を訪れていた谷垣幹事長は先週「先の大戦への反省と平和国家としての歩みは不変。中国が心配するような内容にならない」と述べています。また、安倍首相のワシントンポストのインタビューの際、「人身売買」発言のインパクト大きかったため、発言全体のバランスを見失いがちですが、「安倍政権は、村山談話や小泉談話を含む過去の政権の歴史認識に関する立場を維持する」とも強調。慰安婦問題への「おわびと反省」を述べた河野談話についても「見直さないとこれまでも明らかにしてきた」と述べています。

もともと安倍首相は有識者委員会の発起の際、有識者委員会での提言を慎重に受け止めたうえで首相の判断で談話を行うとしていたはずです。つまり、有識者委員会で出てくるであろう文面はその時の政治、外交、社会等を総合的に判断して文言が政権により加筆、削除、修正されます。

では、安倍首相を取り巻く外交を考えてみましょう。2013年に靖国参拝したあの当時の自己顕示の仕方から明らかにマイルドになっています。それはアジア外交のみならず、世界各国を外遊し、国際会議に出席し、外の声を聴いてきた結果のナチュラルな変身であります。それが首相の本質に変化があったかどうかは別として外交という海を泳ぐ以上、そのバランス感覚が磨かれてきたともいえるのかもしれません。

次に日中韓外相会議が開催され、首脳会議を早期に開催することで合意し、コミュニケーションをとっていくスタンスを政府間で見せたことは大きな変化であります。福田康夫元首相が先週、中国海南省で開かれた「博鰲アジアフォーラム」で習近平国家委主席と複数回接触し、AIIBへの理解を示し、福田氏のコメントとして「日中関係は徐々に改善に向かっている」との認識の意味合いは大きいものであります。

安倍首相はリークアンユー元首相の国葬で朴槿恵大統領と立ち話をしていますが、これもトーンとしては双方のもっとも気にする部分をあえて避けながら関係改善を図る努力、つまり、言いたいことをぐっと飲みこんでここは何が重要なのか、を双方がある意味大人の姿勢を見せ始めていることがうかがえます。

安倍首相のモットーは何か、といえば経済回復への尽力のはずです。アベノミクスという言葉はメディアで最近踊らなくなりましたが株価は高値水準で、企業業績は回復鮮明、春闘も良好な回答が続き、賃上げが少しずつ、中小にも浸透しそうな気配が出てきています。農業の構造変化を生みながらTPP交渉も最終章に差し掛かかる中、安倍首相の政治生命の賭けかたは歴史に残る大首相であるはずです。

その中で歴史問題の認識については世界では恐ろしく敵が多いことに気がついたのではないでしょうか?これは安倍首相が一人でボイスアウトするものではなく、何十年もかけて少しずつ理解を深めてもらう意外方法はありません。何か言えば歴史修正主義という頭ごなしの批判の嵐にまっとうな論戦すらできない中で首相として今、すべきことは未来志向であり、ようやく明るさを取り戻しつつある日本の社会や経済基盤をまずは強化し、外交は外交として進める以外にありません。

談話は過去の流れを変えるものにはならないとみています。むしろ、どれくらい踏み込むのか、そちらの方にポイントが移って来るかと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 3月31日付より