バロンズ誌:「低金利の背景はファンダメンタルズ」 --- 安田 佐和子

2015年04月06日 18:12

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バロンズ誌、今週のテーマは大手運用会社とその旗艦ファンドのポートフォリオ・マネージャーに密着しています。フィデリティ、PIMCO、T・ロウ・プライス、ジャナス・キャピタル、それぞれを代表する運用者の敏腕ぶりは、本誌でご覧下さい。


当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、今週は中央銀行の役割がテーマ。米連邦準備制度理事会(FRB)が利上げの地ならしを進めるなか、前議長であるベン・バーナンキ氏は在籍するブルッキングス研究所でブログを開設しました。記念すべき第1弾のトピックに低金利を挙げたバーナンキ氏は、「長期金利は中銀の政策ではなくファンダメンタルズ要因によって決定する」との考えを表明。Fedが低金利を誘導したとの考えは正確ではなく、「経済にとって何より重要なのは実質金利だ」と主張します。実質金利こそ「設備投資の決定と関連性が深く、Fedが与える実質長期金利への影響は限定的」と分析。その上で「短期的な場合を除き、実質金利は成長見通しをはじめ経済のあらゆる要因で決定される」とまとめていました。

量的緩和第2弾(QE)を決定した翌日の2010年11月4日付けワシントン・ポスト紙にて、中央銀行こそ量的緩和(QE)を通じ長期金利を押し下げる役割を負うとの主張を展開した寄稿文と一線を画します。事実、ブログにQEへの言及は一切ありませんでした。

WP紙の寄稿では、QE2を決定した理由をとくと説明していました。1兆7250億ドルに及ぶQE1が「長期金利の低下を支え、住宅ローンや社債に影響を与えた」と論じていたものです。また「株価が上昇し長期金利が低下しており、投資家は(QE2を)予想していたと考えられる」とQEを正当化するような認識もにじませていました。

WP紙とブログでの見解の違いをみると、バーナンキ前FRB議長の変わり身は特筆に値します。1月にユーロ圏として初めてQE開始の決断を下した欧州中央銀行(ECB)をはじめ、その他の中銀が日銀やFedに追随し資産買い入れを実施するなかでは、なおさらです。

一方で、4月3日までの週に独10年債利回りは0.19%と1ヵ月前の水準から17bp低下しました。アベノミクスと足並みを揃え開始した黒田バズーカ第2弾により、本邦の長期債利回りもマイナス金利の状況です。こうした現状は、中銀の政策によるところが大きい。しかし、あろうことかQEの旗振り役だったバーナンキ前FRB議長はこれに反旗を翻している。なぜ、今この時期に路線変更を打ち出したのでしょうか。

ルーミス・セイラスの副会長で”Loomis Sayles Bond fund (LSBRX)”の共同マネージャーを務めるダニエル・ファス氏は、中銀には成長、インフレ、銀行システムに対する伝統的な役割以外にもうひとつ大きな使命が加わったと主張。同氏は「中銀は地政学に配慮せざるを得ない」とし、金融政策を決定する過程で海外動向を考慮する必要性を論じます。その上で、米国が2008年12月に導入したゼロ近辺政策に幕を下ろすことは米国内的にあると指摘しつつ、アジア諸国にとって「全く理に適わない」と批判していました。

理由は簡単です。米国の利上げがドル高がを進行させアジア通貨安を招き、深刻な問題を引き起こしかねないからです。思い起こせば1997-98年当時、米景気回復とともに時のクリントン政権が”強いドル政策”を打ち出し、ヘッジファンドがアジア通貨空売りを開始し通貨危機に発展していました。こうした背景から、ファス氏は「FRBと米国務省はもはや点線ではなく太い実線で結ばれている」と指摘。経済危機は、危険な地政学的リスクを招くと注意を促します。

アジア通貨危機もさることながら、外貨準備高の減少リスクにも要注意。
Employees of suspended finance companies carry a banner during a rally in Bangkok in November 1997
(出所:caxsupport.wordpress)

ファス氏は、米国の労働市場も早期利上げを保証しないと主張します。事実、米3月雇用統計は目も当てられない結果となりました。グラスキン・シェフのデビッド・ローゼンバーグ米主席エコノミストは、悪天候だけでなく「ドル高こそ弱含みの一因」と説明。JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミストも、結果を受けて利上げ開始予想を6月から9月に変更していました。

翻ってFF金利先物動向をみると、12月でも0.34%しか織り込んでいません。3月FOMCの中央値0.625%の半分程度となっています。マーケットは少なくとも、年内利上げ観測を大きく巻き戻してきました。カットウォーター・アセット・マネジメントのクリフ・コルーソ最高投資責任者(CIO)はメジャーリーグの開幕を控え、ドル高と企業収益に占める人件費の高まりが「米株相場にとって3本指で投げるナックルボールになる」と説きます。1-3月期のリターンはほぼ横ばいに終わりましたが、4-6月期の米株相場は楽にやり過ごせそうにありません。

ストリートワイズは、変動の激しいマーケットにおけるセクター選びの重要性を説きます。S&P500は1-3月期、”下落→上昇→下落→持ち直し”を経て0.4%の上昇で終わりました。いかにボラタイルだったかというと、期中のうち3分の1は1%を超える変動率を記録。2014年全体で15%だった点を踏まえると、その差は歴然としています。サントラストのストラテジスト、キース・レナー氏はボラ急伸の理由に 1)ドル高、2)原油安、3)Fedの金融政策をめぐる不透明性——を列挙し、今後も綱引き状態が続くと見込みます。

セクター動向での変動は、まちまちです。原油安によりエネルギー関連の急落を招き、利上げ警戒から増配を背景に上昇してきた公益株が年初から6%下落したのは言うまでもありません。そのほか、バリュー銘柄とモメンタム銘柄も激しいボラティリティにさらされました。ノムラ・インターナショナルのクォンツ・ストラテジストのジョゼフ・メズリッチ氏は、バリュー銘柄はデフォルト懸念もあって原油安局面で下落しがちと指摘。チェサピーク・エナジー(CHK)のほか、医療保険のジェンワース・ファイナンシャル(GNW)の例を挙げていました。一方でアップル(AAPL)やセルジーン(CELG)に代表されるモメンタム銘柄は、原油安局面で上昇し原油買い戻し局面で下落していたのです。こうした現象につき、メズリッチ氏は「バリュー投資家は原油買い戻しを期待する半面、モメンタム投資家は原油安局面での追い風を意識している」と分析していました。

ゴールドマン・サックスのストラテジスト、デビッド・コスティン氏はマクロ経済リスクにも注目。公益とエネルギー関連は景気敏感と分析しつつ、裁量消費財とITは影響を受けにくいと主張します。ボラがますます高まりつつある今、セクター選びは一段と重要性を増してくるでしょう。

(カバー写真:Medill DC/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年4月5日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。


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