物価は日銀の思惑通りに上がるだろうか?

岡本 裕明

日銀の黒田総裁の物価との戦いは長く、果てしないものになるのでしょうか?

1月時点の日銀が予想する2015年度の物価上昇率は1.0%(消費税影響分と生鮮品を除く)となっていますが、実勢はほぼゼロです。多くのエコノミストは2015年央をボトムに少しずつ回復し、ある程度の物価上昇率になるとみてるようですが、それでも0.4%です。物価を定義するアイテムの価格が技術革新、競争により下がっていることが主因だと思いますが、それを金融政策だけで振り回そうとするのもいかがなものかという気がします。


物価が上がるかどうかのキーは日本国内よりも、アメリカと中国が握っているように感じます。

まず、アメリカ。懐疑的なアメリカ経済で最近、悪役になっているのが米ドル独歩高であります。3月17-18日のFOMC議事録からも「幾人かの参加者は、ドルの一段の上昇は米国の純輸出と経済成長を当面の間、抑制する可能性が高いと指摘した」(ブルームバーグ)とあり、ドル高に対する一定の懸念が議論されていたことが判明しています。

何故ドル高になったかといえば堅調なアメリカ経済と金融政策の正常化への移行に伴うドルへの信任が一気に高まったことでしょう。為替のシーソーという点で見てもユーロはまだ力強さを欠き、新興国も経済が相当低迷しています。仮にアメリカ経済が思ったほど回復せず、1-3月の四半期決算から企業業績が思ったほど回復しなければ利上げムードは更に遠のくかもしれません。決算開示の口火を切ったアルミニウムの巨大企業、アルコアは利益は市場予想を上回ったもののアルミの供給過剰に予想変更し、売り上げ見込みが厳しくしたことから株価は下落しています。

利上げムードが沈静化すればドル安他通貨高の傾向が強まるわけで事実、カナダドルは対米ドルで締まってきています。当然、円ドルにも影響するはずで円安のバイアスがやや後退するかもしれません。

もう一つは中国。世界の工場ではなく、世界が注目する大消費国として同国がインフラ整備や不動産を主導とする景気回復路線を再度描けるのならば資源、素材の価格が大きく跳ね上がり、日本の物価は否が応でも上昇します。では、そのシナリオは描けるのか、でありますが、今のところその兆候はないように思えます。

不気味なのは上海株式市場であります。52週の安値が2000ポイントそれが今はほぼ4000ポイントと一年で倍加しています。日本の株式市場が活況と言われているどころではないのです。特に昨年11月ごろから騰勢を強めており、正にバブルに湧いていると言うのが正しい状況です。この株価上昇に経済環境が回復したという確固たる理由があるわけではないところにババ抜きゲームの様相すら見せるかもしれません。

まとめると、アメリカは利上げ時期が後ずれし、ドル高のバイアスは後退。よって円安バイアスも弱まれば輸入価格の上昇に一定の歯止めはかかります。中国で目先不動産市況が大きく回復し、インフラ整備を含めた投資が直ちに膨らむと予想するのは困難で中国発の資源、素材価格上昇圧力も期待しにくいとみられます。よって、日本が外圧として物価上昇の作用を受けることは考えにくくなります。

そうすれば日銀やエコノミストが想定する一定の物価上昇をドライブさせるには国内経済が主導する以外理由がありません。その際、ベースアップが3月末時点で0.7%と昨年の0.4%を上回っていることで「むしろしっかり」(黒田総裁)と回復基調にあると考えているのでしょう。

但し、日本人の貯蓄率が下がっており、高齢者に至っては当然ながらマイナスの貯蓄率であります。1%にも満たないベースアップは消費に転嫁されるより貯蓄に回ると見た方が良いのではないでしょうか?

となれば、最後は企業側の投資に期待するしかありません。日本企業の決算は引き続き良好で2016年度予想についてはやや厳しいものを想定していますが、2020年のオリンピックに向けて基調が非常にしっかりしている点は変りません。企業の景気観測が良化すると日本全体が明るくなりますのでそのあたりに「しっかり」した物価上昇の期待を託してみたいというところでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 4月9日付より