ギリシャの「要求」とドイツの「対応」 --- 長谷川 良

2015年04月09日 13:04

2787億ユーロ(約36兆2448億円)……この膨大な金額はギリシャ政府が6日、議会で初めて公表したナチス・ドイツ軍のギリシャ占領時代(1941~44年)に対する戦時賠償金総額だ。国際通貨基金(IMF)とユーロ圏財務相会合(ユーログループ)が2010年以来、第2次支援の枠組みに基づいてギリシャに供与した融資総額は約2270億ユーロだから、戦時賠償金総額はそれをも上回っている。


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▲「ギリシャ中央銀行」の看板(2012年5月 撮影)

独週刊誌シュピーゲル電子版によると、ギリシャのディミトリス・マルダス財務副大臣(Dimitris Mardas)は国家の債務が膨れ上がった背景を調査する議会委員会で初めて明らかにした。財務副大臣によると、「103億ユーロはナチス・ドイツに強いられてわが国が供与した資金であり、残りは占領時代の被害総額、犠牲者への補償、インフラ破壊などが含まれている」という。

マルダス財務副大臣によると、「関連文書は全て整っている。戦時賠償金総額は6人の専門家が5万を超える関連文書を慎重に検証した結果だ」という。ドイツに対する一方的なプロパガンダでも嫌がらせでもないというのだ。

一方、巨額な請求書を突きつけられたドイツ側はギリシャ政府の戦時賠償金について、これまで公式には何も返答していない。なぜならば、戦時賠償問題は、「法的に解決済みであり、一切の義務はない」という立場がドイツ側の公式見解だからだ。

具体的には、1960年、ドイツ政府は当時、ギリシャに対し1憶1500万マルクを支払い済みだ。その上、1990年の東西ドイツ統一に関する「2プラス4協定」で「戦時賠償問題は終わった」と記述されているからだ。

ただし、ドイツの野党左翼党は、「ドイツには道徳的義務がある」という。「ギリシャ側が提示した賠償要求全てを受け入れることは難しいが、その一部でも実施すべきだ」という考えだ。それに対し、ドイツ政府は、「そのような中途半端な対応は法的に問題が生じるだけだ。国際法上で解決済みの問題を再考する余地などはない。賠償額の問題ではない」と主張してきた。ドイツ側が恐れていることは、対ギリシャ戦時賠償問題で譲歩すれば、ナチス・ドイツ軍に占領された他の欧州諸国からも同じ要求が出てくるのではないかということだ。

法律専門家の中には、「対ギリシャ戦時賠償問題は国際法からみても再考や譲歩の余地はないが、ヒトラーのドイツが1942年、ギリシャ中央銀行から4億7600万マルク(当時)の資金を強制的に借り入れた問題(現在価格では80億から110億ユーロ相当)は再考の余地はあるかもしれない」という意見がある。また、「ギリシャ支援基金」を設置してアテネを支援すればいい、という現実的な案も出ている、といった具合だ。

ギリシャ側の執拗な戦時賠償請求に対し、ドイツ国民の中には、「それではヴィルヘルム1世時代(1861~88年)、わが国はギリシャに120万グルデンを供与したことがあるが、いまだもって返済されていない。アテネは利子分を含めて即返済すべきだ」といった感情的な意見も飛び出している。

IMFやユーログループから金融支援がなければ、ギリシャは数週間で破産する。アテネのチプラス政権が財政問題で本格的な改革案を提示せずにユーログループと交渉している背景には、「ギリシャは、いざとなれば、ドイツから巨額の戦時賠償金を受け取るつもりでいるのではないか」といった憶測すら聞かれる。

なお、ギリシャのチプラス首相は8日、2日間の日程でモスクワを訪問し、プーチン大統領らと会談する。欧州連合(EU)は、「ウクライナ問題で対ロシア制裁を実施中の時、(EU加盟国の)ギリシャの首相がモスクワを訪問することは、時期的に見て好ましくない」と不快を表明する一方、ギリシャが財政問題の解決のためにロシアに急接近するのではないかと警戒を強めている。シュルツ欧州議会議長は、「ギリシャはEUを分断すべきではない」と警告を発しているほどだ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年4月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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