基準地震動は「あってはならない地震動」ではない

池田 信夫

朝日新聞に高浜原発の仮処分決定の要旨が出ているので、その重大な事実誤認を指摘しておく。決定では次のように書いている。

基準地震動を超える地震はあってはならないはずである。[しかし]活断層の状況から地震動の強さを推定する方式の提言者である入倉孝次郎教授は、新聞記者の取材に応じて、「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない」「平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」と答えている。


まず入倉氏は法廷で証言していないので、この新聞記者の伝聞には証拠能力がない。毎日新聞によれば、入倉氏は「新聞記事の内容が曲解され一部だけが引用されている。基準地震動は、私の考案した方法で算出した地震動に余裕を持たせて想定されるもので、裁判所は正しく理解していないのではないか」とコメントしている。

入倉氏の論文では、基準地震動とは「施設の寿命中に極めてまれではあるが発生する可能性のある限界的地震動」であり、「このような限界的地震動に対する安全性を達成しても、なおかつ地震によるリスクは残存する可能性があることを踏まえ、この残余のリスクを考慮して」耐震設計は行なわれる。

つまり基準地震動とは「あってはならない地震動」ではなく、それが起こっても十分な残余リスクに耐えられるように原発は設計されているのだ。事実、仮処分決定もいうようにこれまで「四つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が2005年以後10年足らずの間に到来している」が、それによって破壊された原発は1基もない。福島第一も、基準地震動をはるかに超える地震動に耐えて停止したのだ(事故の原因は津波)。

このように今回の仮処分は、樋口裁判官が4月に異動するため、新聞記事をもとにしてでっち上げた決定であり、関電は「訴訟指揮が常軌を逸している」として裁判官忌避を申し立てたが、却下された。これはあくまでも仮処分であり、このような事実誤認にもとづく決定は今後の審理で取り消されるだろう。