中国経済の力量

岡本 裕明

中国経済の成長率が徐々に高度を下げてきています。第一四半期が7.0%成長だったことに対して市場は「想定通り」と受け止めていますが、想定の前提にある成長の鈍化に対する十分な説明がなされているとは思いません。成長の鈍化をもっともな理由をつけたうえで正当化しているのか、数字ありきの計画上の鈍化なのか、この点はもう少し究明するする必要があると思います。


旧ソ連。社会主義システムがワークし、あの30年代の世界大不況の際にも唯一、どこ吹く風で経済成長を達成したことでそのシステムが一時期見直されたこともありました。5か年ごとの計画経済は設定目標に対して何が何でも到達することが国策としての使命でありました。そのためにはどんなことをしてでもそれを達成させたのです。搾取や見せかけ、数字の改ざん、二枚舌あらゆるインチキがそこに内包されています。勿論、シベリアなどの極寒地での厳しい労働による人権問題もあったわけですが、当時のソ連にそれを聞く耳があるわけがなく、社会システムとして「盛られた」経済そのものは今ではその実態と本当の数字を知ることは不可能であります。

計画経済の場合、計画を上回る必要もなく、下回るわけにもいかない管理経済でありますが、一般的には経済が黎明期の場合には底上げという意味でワークすると考えられています。ところがある程度の水準になると民の生活水準が上がり、より高い欲求を欲することになります。マズローの欲求5段階説にみられるように欲求は社会システムには無関係なのでしょう。それが政府の方針で押さえつけられている限りにおいてその欲求不満のはけ口を別のところに持って行きます。ソ連の場合にはウォッカだったわけです。

国家はその矛盾と民のボイスをコントロールすることに高いエネルギーを使わざるを得ず、国家の取り締まりはより暴力的で、厳しいものとなります。

今、習近平体制が確固たるものになりつつありますが、その取り締まりは腐敗という名を借りた一種の国家体制の強化であります。言い換えれば厳しさを増せば増すほどその内情は反比例しているのではないでしょうか?

さて、中国の中央銀行、中国人民銀行が預金準備率を1%下げたと報道されています。預金準備率は市中銀行が中央銀行に一定割合預ける預託比率でこれを下げるという事は貸し出しを緩和するという事であります。そのノッチが今まで0.5%刻みだったものを一気に1%にしたことが注目されています。海外からの流入資金も逆流し始めた点を気にしているようです。

一方で加熱していた中国株式市場において貸し株を17日に解禁しました。これは空売りができることであり、売り手と買い手の純粋な意味での正しい市場形成には役立つことになるでしょう。ただ、カラ売りが行き過ぎれば市場の過度のボラタリティを抑制する意味で空売り規制が日本同様簡単に敷かれることになるでしょうからこれが市場の成熟化のステップとまでは言えないかもしれません。

また、不動産市場の価格下落は止まらず、3月の新築市場では70都市のうち50都市で価格下落となりました。一部ではマンションが一軒の価格で二軒買えるというクリスマスショッピングのような状況にもなっていますが、それでも買い手側は過熱していないとされています。

リーマン・ショックの2008年クリスマス、北米で車が一台の値段で二台買えるというセールがありました。しかし、マンション開発会社の半額セールとはかつて聞いたことがなく、ここに至ってはキャッシュがどうにも廻らないことの証であり、官と民の我慢比べがいつまで続くかであります。

私が見る中国は実情、相当の我慢の経済ではないかと思います。行き過ぎた官主導の内需促進を何年もかけて軟着陸すべく慎重にコントロールしているように見えます。旧ソ連の過ちを研究しながら官と民の温度差を少しずつ修正しているという事でしょうか。

また、習体制は永遠ではなく、新たなる派閥闘争と過去の一掃は再び繰り返されるかもしれません。その中で国民は個人ベースの富をいかに安全に保ち、更に増やすか、また、海外居住のアクセスを持ち、リースではなく本当の所有する楽しみを求めるといった個人主義が強くなっていくのでしょうか?私には13億の民がいるのにその総力が発揮できない国、それが中国の最大の弱みではないかと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 4月22日付より