イタリア彫刻作家が問いかける現代社会の陰

2015年04月26日 00:10

イタリアについての日本人の持つイメージといえば、やはり「カンターレ、マンジャーレ、アモーレ」でしょうか。もちろん「歌って、食べて、愛して」という享楽的で楽天的な人々ばかりではなく、日本人と同じように現実を真摯に直視し、実は問題意識の高い人々も多いお国柄でもあります。

そんなイタリアから現代彫刻の個性的な作家が彼の代表作とともに来日し、東京と長野で展覧会を開いています。その彫刻家とは、オリヴィエロ・ベルトラーゾ(Oliviero Bertolaso)氏。当方、東京・九段坂にあるイタリア文化会館で開かれている展覧会のレセプションを取材し、ベルトラーゾ氏に簡単なインタビューをしてきました。

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インタビューに応じてくれたオリヴィエロ・ベルトラーゾ氏。「カンターレ、マンジャーレ、アモーレ」とはいえ、ベルトラーゾ氏自身の母親はドイツ人だそうだ。


彼の作風は、大理石やブロンズの素材を活かした具象的なものです。バロック美術の彫刻から影響を受けたそうで、特に「ナポリにあるサン・セヴェーロ教会の礼拝堂の彫刻群から強いインスピレーションを受けた」と言っていました。

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強い存在感を示す「SACRIFICIO」カッラーラ産の白大理石(スタトゥアリオ)、ブロンズ、木、真鍮、布。155×62×135cm

サン・セヴェーロ教会の彫刻と言えば、アントニオ・コッラディーニ(Antonio Corradini)の「ヴェールに包まれた謙譲」(1750年)やジョゼッペ・サンマルティーノ(Giuseppe Sanmartino)の「ヴェールに包まれたキリスト」(1753年)など、大理石の彫刻なのに薄い布の微細で繊細な表現が特徴的なものが多いことでも有名です。こちらは、バロックの後、イタリア・ロココ時代の作品になります。

薄い布の下に透けて見える人の肌の質感などが表現され、サンマルティーノの「ヴェールに包まれたキリスト」にいたっては当時、ナポリからアドリア海のほうへ行ったサン・セヴェーロを治めていたライモンド・ディ・サングロという「錬金術師」公爵によって実物の布が大理石に変えられた、とも言われています。とにかく、リアルで物質の質感表現や人体表現に優れた作品が多い。

ベルトラーゾ氏の作品にも人間の肉体を大理石の布の下に隠すという表現手法があり、サン・セヴェーロ教会の彫刻群との共通性がうかがえます。また、彼が影響を受けたイタリアバロック彫刻といえば、ジャン・ロレンツォ・ベルニーニ(Gian Lorenzo Bernini)が有名。ベルニーニ作品では、ローマのナヴォナ広場にある「四大河の泉」やスペイン広場の「舟の噴水」はよく知られていますが、その父であるピエトロ・ベルニーニ(Pietro Bernini)も偉大な彫刻家だった、とベルトラーゾ氏は言っています。

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テロに明け暮れる今の世界を暗示するような「ESPIAZIONE」カッラーラ産の白大理石(スタトゥアリオ)、木、布。135×65×100cm

15世紀のルネサンス期のイタリア彫刻では、ドナテッロ(Donatello)やミケランジェロ(Michelangelo di Lodovico)などが有名です。しかし、彼らはベネチアやフィレンツェなど北方で活躍しました。一方、南方ナポリから出たベルニーニ父子の系譜が、イタリアバロック彫刻を生み出し、サン・セヴェーロ教会の彫刻群を作った作家たちへ受け継がれた、というわけでしょう。

さらに言えば、ベルニーニからサンマルティーノらバロック期からロココ期の彫刻家たちが、時代を超えてベルトラーゾ氏の作風にも影響を与え、現代イタリアの彫刻に息づいている、ということになります。バロックやロココの時代、王侯貴族や金持ち商人などが芸術家のパトロンとなり、彼らのための芸術作品を盛んに作っていたわけですが、ベルトラーゾ氏は「現代においては逆に社会的な弱者や虐げられている人々のための作品を作っていきたい」と語っています。

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レセプションで挨拶するベルトラーゾ氏。傍らで通訳するのは、イタリアの大理石の産地カッラーラで創作活動をともにした日本人彫刻家、故・大木達美氏の夫人で今回の日本での彫刻展開催を実現させた大木和子さん。展示会場からフォワイエへ降りる階段では、カッラーラの採石場で働く労働者を撮影した歴史写真展も併設されている。

バロックから現代へ時代を超えても「社会の対立や衝突は普遍であり、それを表現していくのが彫刻家としての私の仕事だ」と言うベルトラーゾ氏。彫刻展のタイトルである「太陽の元では新しいものは何もない」は、こうした普遍性を表した言葉でもあり、その強い太陽の逆光の中で時代を超克する革新表現への挑戦する彫刻をしていきたい、という彼自身の宣言でもあるのかもしれません。

イタリア文化会館「太陽の元では新しいものは何もない」オリヴィエロ・ベルトラーゾ彫刻展
会場:イタリア文化会館エキシビションホール 東京都千代田区九段南2-1-30 Tel: 03-3264-6011(代表)
会期:2015年4月25日(土曜日)~5月9日(土曜日)、11時~18時 (5月1日、3日休館)、5月15日(金曜日)~7月4日(土曜日)は蓼科山聖光寺(長野県茅野市蓼科高原4035)
入場料:無料
主催:イタリア文化会館、ヒロ画廊、伊日財団
後援:イタリア外務・国際協力省、ACCU、カッラーラ市
協賛:Calacata Borghini, BLC, Successori Adolfo Corsi, Graziani Marmi, GVM, Vatteroni Lidia, Laboratori Artistici Nicoli, Franchi Umberto Marmi, Gemeg

イタリー イン ジャパン
太陽の元では新しいものは何もない


アゴラ編集部:石田 雅彦

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