独債のショート「人生にまたとない投資機会」は本当? --- 安田 佐和子

2015年05月03日 10:38

150420_INV_GermanBund

バロンズ誌、今週号のテーマは長期的な中国株投資です。中国本土の上海株は過去1年間で119%、深セン株は121%も急騰し、出遅れた香港株も4月に13%の上昇を遂げました。約7年ぶり高値をつける中国株に対し、成長率が5年前の12%から7%へ失速中。では、長期的に中国へ投資するべき銘柄として何を選べばいいのか。詳細は、本誌をご覧下さい。


当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリート、テーマは独債です。春はワーズワースのような詩人にとって牧歌的な季節である一方、T. S. エリオットが「4月は残酷な季節」と表現した月。いまの独債相場にこそ当てはまる言葉で、独10年債利回りは4月17日に0.033%とゼロ割れに接近した後、4月30日と5月1日のわずか2日間で20bpも急伸してしまいました。

独債利回り低下の持続性をめぐっては、あちこちで取り沙汰されていたものです。PIMCOからジャナス・キャピタルに移籍した債券王ビル・グロス氏が「独10年債は人生にまたとないショートの機会(the short of a lifetime)」と発言。あまつさえ、新債券王の呼び声高いダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック氏まで独債に空売り推奨で追随したとあっては、尚更です。

ガンドラック氏はブルームバーグTVで利回りがマイナス0.2%の独2年債でショート戦略を採用しており、100倍のレバレッジを掛けていると明かしました。高い格付けの短期物のポジションとしては珍しくなく、リターンは20%に達すると見込んでいます。独2年債が償還を迎えるまでに下落する公算は大きく、確実な戦略と言えるかもしれません。

独10年債利回り、4月末にかけ急伸。
bunds
(出所:Stockcharts)

いま我々が住む世界を正常とすれば、確実な戦略と言えるでしょう。では、正常でなくなければどうなるのか。米国債、英国債、日本国債の投資家はそれぞれドル、ポンド、円で償還されるものですよね。しかしBCAリサーチは「ユーロ圏の長期国債が、必ずしもユーロで償還されるかは不透明」と疑問を投げかけます。その上で、2020年までに「ユーロ圏が崩壊する確率は未だ小さいとはいえ、20%と見過ごせない」と主張。つまり、1年に換算すれば4%の可能性があるというわけです。さらに、ドイツ・マルクが復活したとしてファンダメンタルズと高い生産性を踏まえれば、10%割高に設定されると予想。逆にイタリアのリラなら、10%割安になると見通しです。

つまり欧州中央銀行(ECB)が長きにわたり低金利を維持する見通しのなか、4%のユーロ崩壊リスクに10%のマルク高余地を踏まえれば、独10年債利回りは足元より0.4%低い水準で取引されるべきと考えられる。伊10年債利回りなら、0.4%低い水準で取引されるのが妥当と解釈できます。従って、独債ショートは「人生にまたとない機会」と言い切れるかは疑問が残る。映画”フォレスト・ガンプ”の言葉を借りれば、チョコレートの箱を開けるまで何が入っているかは分かりませんよね。

ギリシャ救済から5年。同国政府はあらためて債務不履行(デフォルト)の危機に直面しており、ドイツ率いる欧州連合(EU)は支援の見返りに構造改革を求め、ギリシャ政府は不景気に喘ぐ状況に変わりありません。ECBのマリオ・ドラギ総裁はユーロを死守するため「あらゆる手段を講じる」と確約するものの、ギリシャは通貨引き下げという経済的苦痛の緩和剤を投入できない。ユーロ圏の残留は、起死回生の策を捨てたも同然なのです。

独債利回り急伸の陰で、米国債利回りも上振れしました。iシェアーズ 米国債20年超 ETF(TLT)は3.9%下落、ダウ平均に換算すれば700ドルもの下落を示しました。結果、米10年債利回りと独債10年債利回りのスプレッドは170~180bpで安定したままです。

米国がQEを終了した分を日欧が補うかたちとなり、米債をはじめ金融市場は落ち着いたように見えました。しかし足元で確実に変化が訪れており、特に産油国で著しい。サウジアラビアの外貨準備高は2~3月のたった2ヵ月間で360億ドル減少し過去最大を記録、2014年10月からの減少幅は470億ドルに達しました。原油先物が3月の安値から急速に切り返しドル高に歯止めが掛かるなか、ロシアも利下げを続けつつ外貨準備高を取り崩しているもようです。ロシア中央銀行のデータでは4月24日時点で外貨準備高は3535億ドルと、2014年4月末の4228億ドルから約25%減少していました。

原油先物の上昇でインフレの芽吹きを意識し、米10年債利回りと10年物・物価連動国債10年物(TIPS)利回り格差であるTIPSスプレッドは年初の154bpから5月1日には195bp(米10年債利回り2.11%、TIPS0.16%)にまで拡大しています。

一方で、ドル売りに合わせ金属をはじめとするコモディティが上昇。バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのレポートでは、銅先物のショートカバーと指摘しています。4月に預金準備率引き下げを行ったばかりの中国が追加支援策としてQEを実施するとの観測も浮上、鉄鉱石の価格の急伸を促しした。

翻って米株は、方向感を失ったままです。ルイーズ・ヤマダ・テクニカル・リサーチ・アドバイザーズのルイーズ・ヤマダ氏は約2ヵ月前からディフェンシブ銘柄を取得したと明かしつつ、足元で調整のサインが点灯中と指摘。S&P500で50日移動平均線を下回った銘柄が50%に達しただけでなく、上昇をけん引するセクターにも力不足感は否めないと論じます。

長期ブル相場が終焉に近づきつつあるサインは、他にも現れています。4月30日に約1%下落したことこそ5月1日に打ち消したとはいえ、終わりの始まりを意味するのかもしれません。ソーシャルメディア銘柄の下落にも、注目。ツイッターリンクトインイェルプは決算後に20%以上もの急落を演じました。アップルは決算発表後に記録したピーク時から、7%落ち込んでいます。

こうした株価の動きは、「5月に売り逃げろ」の投資格言を彷彿させます。決算シーズンが終了に近づくなか、地政学的リスクや経済指標の発表の影響が一段とマーケットに反映されることでしょう。ギリシャ支援協議は妥結しておらず、米国のギリシャと言えるプエルトリコは前週に予算拡大を目指し税制改革案の縮小で合意し債券価格は最安値を更新。英国では5月7日に総選挙を控えます。米国内では、8日に4月雇用統計を予定。エバーコア・ISIのスタン・シップリー氏は、米4月雇用統計・非農業部門就労者数(NFP)を24.5万人増と予想しており、そうなれば下半期の利上げへの地固めとなりうる。6月利上げの可能性は、米1-3月期国内総生産(GDP)速報値がゼロ近くまで急低下しており難しいでしょう。厳しい冬の後は心躍る春が到来するものですが、今年はかく乱要因を残します。

S&P500、一目均衡表の雲の上限で持ち堪えてきた短期トレンドは継続するのか。
sp
(出所:Stockcharts)

ストリートワイズは、米国で花開く合併・買収(M&A)ブームを取り上げます。企業は金融危機後、うず高く積み上がるキャッシュを元手にM&Aを繰り返す状況。ただ、過去2週間に米当局がコムキャストとタイム・ワーナー・ケーブル(TWC)、アプライド・マテリアルズと東京エレクトロンの大型買収案件を却下しており、こうした流れに水を差すリスクが浮上してきました。

ストラテガス・リサーチ・パートナーズのダン・クリフトン氏は、2番手と3番手の企業のM&Aケースに注意が必要と説きます。例えばハリバートンとベーカー・ヒューズ、ロリアドとレイノルズ・アメリカンなどで、米当局の動向を読み解くカギと指摘。仮に米当局が承認しない場合は、買収側の株価上昇はく落あるいは共倒れになりかねません。

もっとも、シティグループのアナリストであるジェイソン・バジネット氏は「それでも、M&Aを止められない企業が存在する」と主張します。例えばコムキャストと破談に終わったTWCをはじめ、ケーブル会社の株価は次のケースを待っているかのようだと分析。TWCで33ドル、チャーター・コミュニケーションズで35ドル、ケーブルビジョン・システムズで4ドル上乗せされていると論じています。実際、チャーターとTWCの間で合併話が届いており、バジネット氏は成功確率を80%と見込んでいました。

豊富なキャッシュも、M&Aの追い風になること必至。クレディ・スイスのストラテジストであるアンドリュー・ガースウェイト氏によると、潜在的にM&Aに振り向けられる金額は企業とプライベート・エクィティのバランスシートを踏まえ世界全体で4.3兆ドル(約515兆円)、株式相場の時価総額10%に相当します。ウェルズ・ファーゴのジーナ・マーティン・アダムス氏によると、M&Aを手掛けた企業の株式はS&P500のリターンを1.4%上回るといい、企業がM&Aに消極的になる余地は限られています。

——アップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは再び弱気に転じました。「5月に売り逃げろ」の信ぴょう性を否定するコメントを引用していた前回と、すっかり論調が変わっています。代わってストリートワイズは、強気スタンス。名物コラムの強気・弱気スプレッドは気迷い相場を表すように、いつものパターンへ戻って参りました。

(カバー写真:Ralph Orlowski/Bloomberg)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年5月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。


アゴラの最新ニュース情報を、いいねしてチェックしよう!

アクセスランキング

  • 24時間
  • 週間
  • 月間

過去の記事

ページの先頭に戻る↑