ビリギャルもいいけど、貧乏劣等生が1年で東大合格した話



「ビルギャル」こと『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』が話題になっている。本は65万部を超えるベストセラーで昨年の総合4位、最近上映が始まった映画は興行ランキングで早速4位に入ったとのこと。「ドラゴン桜」のときもそうだったが、こういう受験に勇気を与える映画や本がブームになるのは大変よいことだと思う。


ところで、その「ビリギャル」が、有名私立中高一貫校の「お嬢様学校」出身で、個別指導塾に週4回通い、慶應義塾大学に入学したということで、経済的に恵まれていたから慶応に行けたんだというような指摘も出回っているようだ。そんなこと言い出したら身も蓋もない気がするが、“ビリギャルの「努力」と駅前トイレで寝泊まりするトリプルワークの女子高生の「努力」する前提すらない貧困”といった記事のように、「ビリギャル」を経済教育格差の観点から論ずる言説も多いようなので一言書き添えておきたい。

同記事では以下のような指摘が挙げられている。

「中学校と高等学校の合計で335.2万円」「2年間の学習塾240万円」「慶応大学の学費548.5万円」で、ビリギャルの中学から大学までの学費と塾費用の合計は1,235万7千円になります。
(中略)ビリギャルの「2年間の学習塾240万円」というのも貧困状態にある世帯ではとても負担できるものではありませんが、そもそも私立の学費自体も貧困世帯では負担できません。

たしかに、経済格差が教育格差を生み、貧困の連鎖、格差の固定化を生んでいる大きな要因になっていることは周知の事実だ。ビリギャルのケースはこういった観点からみると、経済的には恵まれていた女子高生が、お金をかけて塾に通いながら本人も諦めずに頑張って、お金のかかる私立大学に合格した話、になるのかもしれない。

しかし、だからといって、お金がなければやっぱり有名大学には行けないのか、低所得家庭は大学進学を諦めざるを得ないのか、と言ったらそうではない。私の場合は、タイトルに記したように、親が家にいないなか、収入が育英会から借りていた奨学金1万数千円以外はゼロだったうえ、受験1年前の成績は学年で中の下くらいで、「合格可能性なし」の劣等生だったが、塾や家庭教師にも通えず、参考書・問題集も十分に買うお金がなかったので絞りに絞って購入し、1年間独学で1日14時間勉強し続けて、東京大学に現役合格した。


スポーツや芸術と違って、生まれつきの才能や幼少期からのお金をかけた英才教育がなくても、勉強は努力を裏切らない傾向にある。私のケースはちょっと例外のようにも見えるが、前の記事「東大生の1割は貧乏家庭、教育格差に絶望はない」でも書いたように、実際に東大に合格している8.7%、1割近くは世帯年収が350万円未満と低所得家庭の出身だ。1割というと少なく感じるかもしれないが、世帯年収350万円未満でも毎年300人近くが東大に合格している計算になる。さらに平均的な所得の家庭も含めると4割近くにのぼる。東大をはじめ国立大学には授業料免除の制度もあるので、家庭の所得が低ければタダで通えるし、貸与奨学金を借りてバイトもすれば、親からの仕送りなしでも大学に通うことは十分できる。

かといって、教育格差を是正する努力は怠るべきではないし、政府も民間もそのための対策を優先的に実施すべきであることは当然のことだ。私自身も、日本のみならず世界中で取り組み続けていきたいテーマだ。

そのうえで、やはり言っておきたい。

家が貧しくとも、環境が整っていなくても、夢を捨てずに、あきらめずにがんばれ!
あきらめたら、そこで試合終了だよ。(by安西先生)
学年ビリでも、ギャルでも、不良でも、お金がなくても、親がいなくても、いじめられていても、塾に通えなくても、偏差値30でも、E判定でも、志を抱いてがんばり続ければ、東大だって、ハーバードだっていける。

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学びのエバンジェリスト
本山勝寛
http://d.hatena.ne.jp/theternal/
「学びの革命」をテーマに著作多数。国内外で社会変革を手掛けるアジア最大級のNGO日本財団で国際協力に従事、世界中を駆け回っている。ハーバード大学院国際教育政策専攻修士過程修了、東京大学工学部システム創成学科卒。1男2女のイクメン父として、独自の子育て論も展開。アゴラ/BLOGOSブロガー(月間20万PV)。著書『16倍速勉強法』『16倍速仕事術』(光文社)、『16倍速英語勉強法』(朝日新聞出版)、『マンガ勉強法』(ソフトバンク)、『YouTube英語勉強法』(サンマーク出版)、『お金がなくても東大合格、英語がダメでもハーバード留学、僕の独学戦記』(ダイヤモンド社)など。