「大阪都」を歩くで(その2)--- 山城 良雄

ワシの前の記事が出たころから、都構想の評判がガタ落ちやた。朝毎読の直前世論調査。いずれも反対が45%前後、賛成が35%前後や。各紙で同じような値が出ているし、無党派層を含めて維新以外の政党支持層は全てが反対が優勢。ということは、数字に信頼度があるということや。


構想の内容が周知される(実際はともかく、本人が周知したと思う)につれて、反対が過半数に近づいてきた。態度を明確に決めた有権者がこれだけいる中、新たな賛成票を掘り起こすのは、ほとんど無理や。

というわけで……こらぁ、他の記事をクリックすな、ワレ。読むより書く方がよほど退屈や。頼む、もうちょっとや、つきあってくれぇ。

都構想に明確な拒否が示されたのは今回が最初ではない。2013年9月の堺市長選で、維新の候補が大敗している。今に思えば、この時点で再検討をするべきやったと思う。

堺市抜きの都構想には無理がある。もし、現在の大阪市だけが特別区に分割されると、府(都)内最大の自治体は、政令市の堺市になる。東京都が、神奈川県から川崎市をもらったような状態。どう考えても変やで。

ワシが総理やったら、大阪市が5つに分かれたら、大阪府を都ではなくて県にする法案を提出したる。厚かましい大阪人(お前が言うな)と維新に熱いお灸や。全国の議員が支持する。県庁所在地はもちろん堺市。京都人も喜ぶ。「大阪のどこが都ですねん。難波宮なんて大仏さんが出来たころの話。その後ずっとヤクザの出る汚い空き地。県で十分。府は京都だけどす。」

堺市は都構想の鬼門や。2年前に堺市分割を潰した竹山堺市長が、今回も反対の論陣を張ってはる。「堺市民は堺市を守った。大阪市民はどないしますか?」論理はともかく訴求力がある。

ただ、堺市の損得を考えたら、市長が大阪市の分割の反対に回るのは変や。二重行政の解消と称して、大阪市の権限やお金が府(都)に移管される一方、堺市はそのまま温存。これは美味しすぎる。

竹山堺市長は、「大阪市が分割されたら堺市も巻き添えで分割されかねん」と言う理由で、反対しておるようやが、これも筋の通らん。分割によって大阪市が弱体化するなら、高見の見物。逆に都構想が成功して、特別区が大発展をするなら、後から堺市内で住民投票をやって参加すればええがな。維新府政からも、イヤとは絶対に言われないやろ。

竹山市長としては、「都構想が潰れたら政界引退する(タレントか風俗業界弁護士に戻るんか?)」と言う橋下はんに引導を渡すチャンスは、市民の利益より大事なんやろな。

橋下はんが「背水の陣宣言」をしてから、既成政党の反対運動に熱が入り出した。街頭演説でも、数も多いし元気もええ。都構想と一緒に維新の会も潰してまう気満々や。

堺市問題よりも、さらに困った話が大阪市の区割や。実は初期の段階にあった複数の区割り案が、なぜか大した議論もなく一本化されたようや【特別区設置協定書説明パンフレットより】

大阪人なら、たいてい抱く疑問。

  1. なんで西淀川区が湾岸区なんや?
  2. なんで住之江区を分割するんや?
  3. なんで西成区が中央区なんや?

1)の西淀川区。地理的な条件で大阪市を二つに割るなら、淀川で分けるのが普通や。西日本有数の大河川は生活圏を完全に2分している。特に河口に近くは川幅が広い。西淀川区から此花区へ歩いて渡れる橋は2本の国道だけ。同じ区するのは無理がある。

2)の住之江区の埋め立て地を此花区にひっつけるのも無理筋や。直接結んでいるのは、地下鉄・高速道路と海底トンネル。歩いて行くのほぼ不可能。とても同じ生活圏とは言えん。人口、議員数などの数合わせのために、無理矢理区割りをしている印象がある。

もっと問題なのは、西成区の処遇や。生活圏では湾岸区に含まれる予定の旧大正区や、南区に含まれる予定の旧阿倍野区や旧住之江区との関係が深い住宅地なのに、大商業地難波を含むビジネス街ばかりの中央区に入っている。

書くかどか迷うような話やが、「西成と言えば生活保護とホームレス、EUで言えばギリシャ」、実態はともかく多くの大阪人はそう思っているはずや。これを、新五区のうち総生産額一位の中央区に入れてしまえ、という発想。おまけに、区役所は西成に持ってくる予定。他地区の住民は激怒している。西成区を大事にして、教育などに手厚い予算を付けている橋下市政に、ワシは一定の敬意を持っているつもりやが、いかにもこの区割りは強引やがな。

分割後、区ごとの格差問題をどう解決するのか。議論の入口として、「格差をどこまで認めるのか」「格差を誰がどうやって調整するのか」という問題がある。

既存の市町村と同じ程度の独立性を、各区にも認めるという、東京都と似たシンプルな発想やと、現状の格差に目をつぶることになる。上述の【特別区設置協定書説明パンフレットより】の数字から、総生産額(H21)と商業販売を一人当たりの数字に直して引用する。

     総生産額(万円)   商業販売額(万円)
北区   1055          2353
湾岸区  417          329
東区   251          221
南区   231          301
中央区  1851         4536

総生産額では8倍、商業販売では20倍の差がついている。当然、それぞれ、住民税・地方消費税に大きく反映される。これは、どう見ても不公平やろ。

マンションを買ったり会社を作ったりして、そこが貧乏区に編入されたら、少なくとも良い気持ちはしない。地域の選択は自己責任とは言え、区割りという予知不能で人工的な要因で不利な扱いを受けたら、怒りたくもなるやろう。

推進派は「調整する」と言っているが、機械的にするのか裁量的にするのかが、また大問題や。ルールを決めて機械的に財源調整をしてしまうと、区の独自性はほとんどなくなる。何から何まで横並びになり、「地域の問題を市より小回りのきく区で処理する」という、メリットが消滅しかねない。

逆に、府が各区の行政を査定するとなると、府知事の権力が巨大化する。おまけに、各区ごとに予算獲得のための陳情コストと膨大な事務作業が発生する。査定する府の方も同様や。「知事の独裁者化」「二重行政どころか六重行政」という反対派の言い分が、的を射たものに見えてくる。

結局、区ごとの格差は、放置するにしろ調整するにしろ、極端なことをしてしまうと、都構想のダークサイドがあらわになるという、ほんまに困った話や。ワシの見たところ、推進派が、この問題に説得力のある回答を用意できない事が、反対論が優勢になった大きな要因のようやな。

今日はこれぐらいにしといたるわ

久々にやる気が出てきた 山城 良雄