変わりつつある東京電力

岡本 裕明

数年前、東京電力は日本で最も憎まれた会社の一つでありました。東電管轄ではない地域でも東電のおかげで原発が止まり、高いLNGを購入し、赤字となり、電気代が上がったわけですから東電悪玉論は日本中で持ち上がっていました。


当時、東電を潰すか、存続させるかという議論がありましたが、潰す話は感情論で実質的に潰しても誰も得をしないことは明白でした。それよりも安定した電力供給をしてもらうことがもっと重要であることに落ち着いたわけです。一方の東電の内部はそれまでのエリートの「のほほん」としたムードが一転し、天地をひっくり返すような状況となりました。十数年ほど前、東電に勤める友人が「うちは海外は無縁だから外国語を駆使できるのもいないし、外国で事業が出来る人間もいない」と言っていたのが非常に印象的でいわゆる既得権に甘えていたそのしっぺ返しが一気に来たという事だったのでしょう。

そんな東電を私は割と注目してし続けていました。エリートが地に堕ちた時、どう這いつくばって再び力を出すのか、と。そして多分、この会社はものすごい勢いで再生し、日本の電力会社のリーダーシップを取る時代がいつかまたやってくるはずだと思い続けていました。理由は潰せない会社だからこそ、早く経営状態を改善させ、来たる発送電自由化に向けて完璧な体制を整えることがこの会社の使命だからであります。

そんな中、東電の株価がこのところ堅調です。4月半ばは460円程度だったものが今や600円を超えるところまで回復しています。理由は東電の経営が明らかに積極攻勢に変ってきているからです。

最新のニュースでは三菱商事と組んでカタールで3000億円規模の発電所を受注しています。東電は長く海外向けの営業を止めていましたが昨年秋に方針転換していました。それ以外にもタイ発電公社とのLNGの共同調達やTポイントやポンタ導入で電気料金を払ってポイントを貯めるといった消費者向け営業も積極的です。更にはソフトバンクと組んで携帯と電気のセット販売といった戦略からガス会社との提携交渉も進めています。

今年に入ってからの東電は明らかに昔のボンボンから野性味あふれる企業に変身しつつあります。多分、発送電自由化を前に圧倒的ポジションを確保する戦略なのだろうと思います。6月にも同社は新戦略を発表するようですが、かなり積極的なものになると考えてよさそうです。

唯一、私が気になるのは柏崎原発であります。東電の主力である火力発電施設は福島から茨城、千葉、東京、神奈川の湾岸であります。最近東電の新たなリスクの切り口として富士山などの噴火にともなう影響があります。火山爆発に伴う深刻な降灰が進めば火力発電所のフィルターが詰まって機能しなくなるというのです。この研究がどれほど信憑性があるか、またその確率問題は別として、リスク分散という観点からは東電としては水力発電を別にして唯一の遠隔地にある柏崎の発電施設の稼働は絶対条件だと思っています。

経営側は柏崎の再稼働は毎年、経営計画に織り込んでいましたが最近はあてにならないのかあまり強調していないように見受けられます。他の合格した原発を見ても本当の再稼働がいつなのかさっぱり読めないのを見れば経営計画に織り込めるような代物ではないことに気がついたのでしょう。

但し、東電の発電施設の偏りは国家戦略上よろしくないと思います。インフラ、特に電力は今や、空気と同様、あって当たり前なのです。そのあたりをもう少し考え、日本全体がバランスの取れたリスク対策を取れるような自由化を進めるべきでありましょう。日本は天災が多い国であることは誰もが知っています。それに向かって英知を絞るのは電力会社任せではなく、国家戦略として支えていかねばならないと思います。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 5月26日付より