エネルギーミックスって何?

2015年06月02日 11:59

経済産業省の有識者会議は、きのう2030年までの「エネルギー・ミックス」を決めました。これは「エネルギー構成」という意味ですが、日本は計画経済ではないので、政府がエネルギーの構成を決めるって変ですね。ただエネルギー産業は環境への影響が大きいので、そういうコストを含めた社会的コストを政府が考える必要はあります。

まず大事なのは目標設定です。政府は「温室効果ガス排出量を2030年までに2013年度比で26%へらす」という目標を出しましたが、これは科学的な根拠がありません。アメリカの「26~28%削減」に合わせたんでしょうが、これは図のように2013年比でみると18~21%削減です。

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EU(欧州連合)は40%という大きな数字を出しましたが、これは東欧の編入で排出量が激増した1990年を基準にしているので、2013年比でみると24%削減です。「日本は26%で志が低い」など言っている有識者は、こんな単純な数字も知らないんでしょうか。それとも知っていて、マスコミをだましてるんでしょうか。

日本の26%は、ほぼ欧米並みの努力目標を出したわけですが、これには科学的根拠も経済的根拠もありません。しいていえば「EUが実現できる目標」ということでしょう。この問題で世界をリードしてきたEUは、東欧が資本主義になったら自然体で実現できる数字を出したので、京都議定書の「1990年比マイナス8%」という目標を楽々と達成しました。

これにだまされて、日本は「マイナス6%」という目標を設定しましたが、民主党政権が原発を止めたために、CO2排出量は1990年より10.8%もふえてしまいました。その差の18%は、中国などから5000億円以上はらって排出権を買ってつじつまをあわせました。

つまりエネルギー問題とは、コストと環境のトレードオフ(二律背反)の中から国民が何をえらぶかという経済問題なのです。マスコミは原子力の比率ばかり騒いでいますが、これは国民や電力会社がエネルギーを選んだ結果であって、政府が決めるものではありません。

直接コストだけ考えると石炭が圧倒的に安いので、電力会社は石炭火力をふやしていますが、石炭火力はCO2(二酸化炭素)をたくさん出し、空気を汚します。中国では、毎年120万人が石炭の大気汚染で死んでいるともいわれます。原発事故で死んだ人は50年間で60人だから、少なくとも石炭火力より安全です。マスコミがこればかり問題にするのは変ですね。

そもそも原子力の比率を20~22%にするって、できるんでしょうか。いま原子力はゼロですが、それを2030年までに20%にするためには、30基程度の原発が稼働する必要があります。しかし原子力規制委員会の安全審査は大幅に遅れており、審査開始から3年近くたっても1基も動いてません。

このペースでやると、あと15年で15基の審査を終えるのが精一杯だから、原子力の構成比は10%ぐらいにしかなりません。審査を急いでも原発の寿命は40年と決まっているので、2030年に動かせる原発は20基ぐらいで15%が限度です。

マスコミは再生可能エネルギーをふやせといっていますが、これは電力の11%で、そのうち9%は水力でほとんど増えない。再エネを22~24%とするには、残りの13~15%を太陽光などの新エネルギーでまかなうことになります。太陽光でCO2を1%減らすには約1兆円かかるので、これは電気代が13兆円以上あがるということです。

要するに、このエネルギーミックスは、数字のつじつまがあっていないのです。エネルギー政策は経済問題なので、環境保護のためには無限大のコストをかけてもいいという発想では解決できません。

「悪玉エネルギー」と「善玉エネルギー」があると思っている人が多いみたいですが、毎年100万人以上を殺している石炭はどっちでしょうか。いいかげんに頭を冷やして、よい子のみなさんに負担をかけない合理的なエネルギーミックスを考えてほしいものです。

この問題は今夜の言論アリーナで「京都議定書はなぜ失敗したのか:非現実的なエネルギーミックス」と題して放送します。

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池田 信夫
アゴラ研究所所長 SBI大学院大学客員教授 学術博士(慶應義塾大学)

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