バロンズ誌:債券市場の流動性不足、米株も無視できず --- 安田 佐和子

2015年06月08日 12:36

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今週のバロンズ誌は、共和党の米大統領候補者指名争いをめぐる考察です。最右翼は15日に出馬表明する見通しのフロリダ州元知事のジェブ・ブッシュ氏。乱立する候補者のなか、予備選が集中する2016年3月のスーパーチューズデーまでに残る可能性が高いのは、以下の7人と予想しています。支持率はリアル・クリアー・ポリティクスが実施した世論調査の数字です。


1)ジェブ・ブッシュ、フロリダ州元知事、13.2%
2)ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事、12.5%
3)マルコ・ルビオ米上院議員(フロリダ州)、12%
4)ランド・ポール米上院議員(ケンタッキー州)、9.2%
5)マイク・ハッカビー、アーカンソー元州知事、8.7%
6)テッド・クルーズ米上院議員(テキサス州)、8.5%
7)ジョン・カシチ、オハイオ州知事、2%

気になる詳細は、本誌でご覧下さい。

当サイトが定点観測するアップ・アンド・ダウン・ウォールストリートは、債券市場の流動性問題。「見渡す限り水で溢れているのに、一滴も飲むことができない(Water, water everywhere, nor any drop to drink.)」とは、詩人・哲学者サミュエル・テイラー・コールリッジ氏による「老水夫行」の一句です。現代は中央銀行の緩和策を通じ、「水=流動性」に満ち満ちている。にも関わらず流動性は金融市場、特に債券市場から急速に失われつつあります。

今世紀の「暗黒博士(Dr. Doom)」との異名を持ち、金融危機を予想したニューヨーク大学のヌリエル・ルービニ教授が「流動性という時限爆弾(The Liquidity Time Bomb)」と題したレポートで指摘したように、こうしたパラドックスは現実化しています。いくら世の中に過剰流動性が溢れ返っていても、独債市場や米債市場で明らかになったように流動性不足は鮮明で、利回りは急伸中。例えば独10年債利回りは6月1日週に一時1%近くをつけ、4月後半のゼロ付近から大きく上振れしました。米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)からは、「慣れるしかない」とのメッセージが空しく届くのみです。

ルービニ氏によると、少なくとも米株市場でのパラドックスは以下のような理由で発生しています。株式市場では、超高速・高頻度取引が普及したおかげで「群衆行動」を引き起こした。出来高は寄り付きと引けに集中し、日中の出来高を悪化させるというわけです(ただし、VIX指数が低水準を維持しており超高速・高頻度取引のアルゴリズムがどのような影響を与えているかは疑問の余地が残る)。

では債券市場の流動性不足はどう説明できるのか。株式市場や商品市場と違い、取引所を介さず金融機関のディーラーを通じて行うのが一般的です。ところが金融危機を経て、規制当局によりマーケット・メーカーだったディーラーに規制のメスが入り規模縮小を余儀なくされたため、市場のボラティリティが上昇していまった——ルービニ教授は、こう主張します。

また債券の投資信託および上場投資信託(ETF)の役割も、ボラティリティ上昇に一役買ったと言える。こうした投資信託もETFでの換金は価格を急落させる上、ただでさえ流動性不足のマーケットにおいてボラティリティを高めてしまいます。ルービニ教授いわく「マクロでの流動性と市場での流動性不足というコンビネーションは、フラッシュ・クラッシュをはじめ債券市場や株式市場で突然の変化をもたらすのみだった」。しかし投資家が過剰に評価された市場に流動性をつぎ込んだ反動で、流動性不足の市場、特に債券市場で「暴落」するリスクを高める。だからこそ、マクロでの流動性と市場での流動性不足は「時限爆弾」と警告しているのです。

ルービニ教授、JPモルガンCEOと同じくマーケット・メーカーを失った債券市場に警鐘を鳴らす。
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(出所:IMF/Flickr)

国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は4日、債券市場での利回り急伸を警戒しFedに年内利上げを見送るよう求めました。NY連銀のダドリー総裁は5日、良好な数字を叩き出した米5月雇用統計の後に行った講演で、中銀は金融市場を考慮した政策運営をすべきと発言。しかし、イエレンFRB議長の見解と歩調を合わせ年内利上げの可能性を点灯させています。

ダドリー総裁は、Fedの利上げが利回り急伸を招くなら緩やかに利上げを進めるべきと述べました。1994~1995年当時の利上げサイクルではオレンジ・カウンティが破産に追い込まれ、メキシコのメキシコ通貨危機を招き通貨切り下げを余儀なくされたものです。逆に2004~2006年当時のごとくFedの利上げに対する債券市場の感応度が低ければ、迅速に利上げを行うと語りました。

ゴールドマン・サックスの主席エコノミストを務めた経歴を持ち、ウォールストリートにほど近いNY連銀の総裁としてダドリー氏はこうも言い放ちます——「市場にて、混乱が起こりうる」。奇しくもECBのドラギ総裁も定例理事会後の記者会見で、債券利回りの上昇に対し「慣れるべき」との言葉を送っていました。中銀は、金融政策によって高まる不満を最低限に抑えたい意志が見え隠れします。

米10年債利回りは6月1日週、米5月雇用統計を引き金に30.5bp上昇し2.402%と2014年10月以来の高水準をつけました。ダウ平均は3週連続で下落し約2%の落ち込みましたが、債券市場と比べれば小幅にとどまります。

しかしITGのスティーブ・ブリッツ主席エコノミストは、足元の状況が1987年当時と類似していると指摘。当時、夏場に米株市場はボラティリティが低水準にあるなかで上昇をたどりました。しかし秋にかけ債券利回りが上振れし、ベーカー米財務長官によるドル安容認発言で米30年債利回りが10%を突破すると、株価収益率(PER)が20倍を超えていた米株市場に激震が走ったものです。1987年10月19日には、ブラック・マンデーが米株市場を直撃しました。

ブリッツ氏は、独債市場も国際間の資本フローが1987年当時を彷彿させると説きます。同氏は1987年のとうな暴落を予想してはいません。ただし長期金利の上昇こそ米株ラリーを終焉に導くと予想しており、長期金利が上昇する可能性を描くFedも、まるでその可能性を見込んでいるかのようです。

ストリートワイズも、米株安がテーマ。米5月雇用統計は良好な労働市場を映し出したものの、米株は下落しました。結果、ダウ平均は1日週に161ドル安(0.9%安)で引け、S&P500も0.7%安、ナスダックはほぼ横ばいで取引を終了。米10年債利回りは30.5bp上昇し2.403%で幕を閉じ、上げ幅はテーパー・タントラムが吹き荒れた2013年6月以来で最大を示現しました。米債市場が揺れたように多くの市場関係者はいま、9月利上げを織り込み始めています。

ハイ・フリクエンシー・エコノミクスのジム・オサリバン主席エコノミストは、「投資家は鈍い経済成長でFedが利上げを後ろ倒しする期待に賭けていた」ため、好結果に失望したと説きます。コモンウェルス・フィナンシャルのブラッド・マクミラン最高投資責任者(CIO)は、「来週、再来週に発表される米指標が弱含む可能性は低い」と指摘。11日に米5月小売売上高を予定しますが、米5月新車販売台数が約10年ぶりの高水準だったように力強い回復を遂げる見通しです。FOMCを予定する16~17日明け、18日発表の米5月消費者物価指数も上向く可能性が濃厚で、米株は利上げ観測とともに米債利回り上昇圧力に直面することでしょう。

(カバー写真:Leor Karni/Flickr)


編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2015年6月6日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。


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