王者がクレーコートを去る時 --- 長谷川 良

2015年06月09日 11:10

全仏オープンテニス男子シングル決勝は、年間グランドスラム(4大大会)達成を狙っていたノバク・ジョコビッチ(セルビア)を破り、スイスのスタニスラス・ワウリンカが初優勝した。予想ではジョコビッチが有利と見なされていたが、準決勝でアンディ・マレー(英国)と天候不順もあって2日間に及ぶ熱戦を強いられ、1日休んだワウリンカと比べ体力の差も見られ、失速していった。ワウリンカは「生涯最高のテニスだった」というように、そのフォアハンドは冴え、足の速いジョコビッチも追いつけず、ボールの行方を見るだけといったシーンが多かった。


「ワウリンカが調子よければ、誰も止められない」と言われていたが、決勝戦は目下最高潮のジョコビッチにしてもワウリンカの力強いプレーには対抗できなかったわけだ。ジョコビッチは表彰式では、「来年、もう一度挑戦する」とファンに約束していたが、本人としても逃した魚は大きかっただろう。ジョコビッチは過去3回、パリの決勝戦に進出しながら、いまだ優勝できない。

スイス公営放送で連日、パリの実況中継を追っていた当方は、ジョコビッチとワウリンカの決勝戦より、準々決勝のジョコビッチとラファエル・ナダル(スペイン)の戦いが印象に残った。ナダルをストレートで破ったジョコビッチは、「このゲームが決勝戦だったらね」と冗談を飛ばしていたが、ある意味で本音でもあっただろう。ゲームはジョコビッチが圧勝。第1セットだけ、ナダルの良さが見られたが、ジョコビッチのサーブと脚力の前に屈してしまった。

「パリはナダル、ナダルはパリ」、ナダルを破らない限り、パリを制覇出来ない。その課題を準々決勝で果たしてしまったジョコビッチには、その後の準決勝対マレー、そして決勝のワウリンカ戦では対ナダルほど集中力が見られなかったのはやむを得なかったかもしれない。宿敵の王者を準々決勝で破ってしまったからだ。

試合が終わり、コートから去るナダルの姿をカメラは追っていた。ナダルは一度スタンドに手を振った後、直ぐに控室に戻っていった。通算9回、パリを制覇したナダルがライバルのジョコビッチの前に完敗した。ナダルは、ジャーナリストの質問に答え、「これが人生だ」と語ったという。

王者もいつまでも勝利できない。いつかは舞台から去らなければならない。これはスポーツの世界だけではない。人生全ての分野で同じだろう。当方が知っている範囲では、常勝、無敗でそのキャリアを終えたスポーツ選手は柔道の山下泰裕選手だけではないか。

ジョコビッチはコートを去ったナダルを見ながら、自分にも同じ日がくることを予感したかもしれない。パリ大会まで前哨戦マスターズ3大会を全勝し、今度こそはパリ制覇と決意していたはずだ。しかし、4大大会を17回優勝したロジャー・フェデラーに快勝したワウリンカの力強いショットの前に完敗してしまった。

一方、世界ランキングが10位に後退したナダルのパリ敗北後の出方が注目される。メルボルン(全豪)やウィンブルドン(全英)での敗北ではない。得意とするクレーコートのパリ大会での敗北はナダルにとってダメージが大きい。膝の故障など、満身創痍の状況がここ数年続いてきたが、パリ大会では常に最高レベルのテニスを披露し、勝ってきた。その王者も今回は準々決勝が終着駅となったのだ。

ナダルがパリ奪回に燃えるだろうか。ナダルはまだ29歳だ。パリ奪回で燃えるナダルの姿をコートで見たいものだ。いずれにしても、パリ大会を9回制覇したナダルの記録は当分、破られないだろう。たとえ王者が去ったとしても、その記録は残る。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年6月9日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。


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