鈴木修氏の葛藤

岡本 裕明

鈴木修氏は軽自動車の雄、スズキの会長兼社長ですが、既に御年85歳であります。その鈴木社長がついに社長の座を長男の俊宏氏に譲ることになりました。つい先日、ある雑誌になぜ長男はいつまでたっても社長になれないのか、と皮肉交じりの記事が掲載されていました。修氏が会長で長男社長で数年走り、その時点で修氏から手離れするのでしょう。80歳代後半まで大企業の経営トップを務めたわけですからご苦労様であります。

オーナー社長の世代交代が盛んに叫ばれる中、孫正義氏がニケシュ・アローラ氏を後継者の最有力候補としてニコニコ顔で紹介していたのはつい先日でした。世代交代グループは年齢からみれば今回のスズキの鈴木会長に次いでセブンアイの鈴木敏文氏が今年83歳となりその去就が注目されます。それ以外にユニクロの柳井正氏(66)、日本電産の永守重信氏(70)らが次のグループとして後継問題が指摘されています。

ほとんどの大企業で社長の交代がスムーズに行われているのになぜオーナーカンパニーの場合、それが難しいのでしょうか?理由は大きく二つの側面を持っています。

まず、オーナー企業が作り上げた事業体、組織、工場、販売やマーケティング、技術力などはオーナーの血が隅々まで通っています。その血液型を変えることは場合により組織全体に大きな影響を及ぼします。大経営者であればあるほど血は濃く、ソニーにしてもホンダにしても松下にしても継承が難しくなるのです。言い換えると血液型が代わっただけで昔のやり方と違う事に同意できず、組織がバラバラになりやすいことがあるのです。

二点目として組織が巨大化し、複雑化するのはどの会社でも同じですが、オーナーカンパニーの場合、経営判断をオーナーが主導することが多く、副社長以下役員や経営幹部はYES-MANになってしまうことが多いのです。トップへの報告はいかに事実を詳細にもれなく伝えるか、そしてそこで神の声(オーナーの指示)を聞き、組織に還流させるという案外古典的な流れができやすいのです。その結果、複雑怪奇となった組織回路をすべて掌握しているのは実はトップだけという事になり、副社長以下の役員は問題を見出すことは出来てもそれを解決する思考能力が欠如しやすくなるのです。

そんな馬鹿な、と思うかもしれませんがそんなものです。私もオーナー社長の側近を務めた際、オーナーからも他の役員からも聞いていました。バランス感覚も経営するセンスも必要なく、オーナー社長にいかに取り入るか、それが生きる術なのです。

スズキの場合、修氏にはどうしても自分で処理したかった問題が残っています。それはフォルックスワーゲン社との離婚問題であります。同社と提携し、株の持ち合いまで行ったのですが、一種の成田離婚となりました。持ち合い解消を求めたのですが、VW側はそれを拒否。そのためにスズキは国際仲裁裁判所にその問題処理を依頼していましたがいつまでたっても結論が出ません。このまま、それを理由に社長の座に留まっても同社最大級のリコールをした事を含め、本業がおろそかになると判断した節があります。

このフォルックスワーゲン問題は修社長のお手付きでそのために必死に挽回策を主導していたわけです。問題が勃発した2011年当時のこのブログにもそのように書かせていただいています。ただ、私がVW側なら修氏が歳を取るのを待つ、という手段を取ったでしょう。事実時間稼ぎという点ではVWの思惑通りです。

今回、修氏が社長を降りましたのでこの問題がそろそろ動き出す可能性も出てくるでしょう。相手は人食いザメでポルシェからランボルギーニまで食べてしまったのですからスズキぐらい朝飯前だと思っています。賞味期限の問題はありますが、どうもこの獰猛なサメはスズキブランドのインドカレーも食べたいのでしょう。まだそう簡単にあきらめない気がします。

スズキの次のステップが何か、どのような経営方針を長男が打ち出すのか、ある意味、期待したいところだと思います。父の経営スタイルは少なくとも積み上げて絶対に儲かる布石を築く経営でした。が、今後、絶対の領域はどんどん狭まりますから新たなる領域に進んでいく夢を作ることがまずは先決だと思います。うまくバトンタッチできるか、多くのオーナー経営者が注目していることでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月1日付より