「私たちによる、私たちのための、私たちが管理する、初めての通貨」

ビットコインは世の中の課題を解決できているのだろうか?

現状のビットコインは、一般のユーザーにとって魅力的なものはあまりない。遅く、扱いづらく、相場は上下する。決済も遅いし、負荷に耐えられない。中央型のデジタルマネーやクレジットカードのほうが便利だ。

だから、ビットコインは現在のユーザーのニーズを満たしていないというのが批判の趣旨だ。

ただ、私は、もう一度、ビットコインのそもそもの発明の理由を振り返ってみる必要があると思う。原点に戻れだ。

サトシナカモトは、ビットコインを世の中に送り出したときの書き込みで、ビットコインを発明した理由について、以下のように述べている。

“従来の通貨における根源的な問題は、それが機能するために「信頼」が必要になることです。中央銀行はその通貨の価値を落とさないだろうと信頼されていますが、通貨の歴史を見るとき、その約束は破られてきました”( by Satoshi Nakamoto on Feb 11, 2009)

つまり、サトシナカモトは、ビットコインを高速な決済システムとして作ったのではなく、政府が発行する通貨へのアンチテーゼとして作ったのだ。

政府の発行する通貨は、インフレするマネーだ。

現在のガバナンス(民主主義)では、政府は、適切に支出をコントロールすることができず、常に債務を膨張させようとする。無限に増えた債務は、最後はインフレによって帳消しになる。

ギリシャ、スペイン、イタリア、キプロス、日本、ついでに米国も、債務が増えて景気も悪化するとき、さらに多くのお金を刷るという解決策でしのいできた。その行く末は限りない債務の膨張とインフレだ。

だから、ビットコインが解決しようとしている問題は、

「政府によるペーパーマネーの希釈化」

であり、

「債務をコントロールできない政府のガバナンス」

である。これに対するサトシからの解決策が「ビットコイン」だ。

だから、ビットコインは、もっとも端的に言って、政府のペーパーマネーに対する、インターネットのゴールドだとみてよい。ただゴールドは簡単に交換できないし、保有もめんどうだし、日常で使うのは難しい。ビットコインは、ゴールドの性質に加えて、容易に送金でき、スマホ一台で保有でき、支払いにも使えるという便利な機能がついている。

究極のことを言えば、必ずしも、ビットコインはビザカードのようにスケールする必要はないし、コンビニでジュースを買うのに使える必要もない。それよりも、デジタル・ゴールドとして機能すればよい。

ビットコインの意義

では、ビットコインは国の通貨をリプレイスするのだろうか?ギリシャやキプロスは、ビットコインを採用し、世界は、ビットコインを基軸通貨にするのだろうか?

それもまたノーだ。国にとって、(無限の)通貨の発行権は、絶対に譲れない権利だからだ。破綻した国であっても金本位制に戻るとは思えない。

これに関しては、私は、Xapoの創業者兼CEOのヴェンセス・カサーレス氏が述べていることにほぼ同意見であり、それを抜粋して翻訳しよう。

“お金を刷り続ける国の人は選択肢がない。価値を失っていくお金を保有する以外に方法がなく、多くの場合では、価値のすべて失った。ビットコインは、すべての人に、別の選択肢を提供する”

ビットコインはスマートフォンさえあれば保有できるし、長期的には、人々は、価値を失っていく国のお金よりも、ビットコインのような資産を持つことを好むようになるだろう。

日本においては、日本円に対する信頼は、まだ盲目的なものがあるが、一部のひとはそれを疑い始めている。歴史を紐解けば、日本は戦後まもなく預金を封鎖し、過去の借金を国民の財産を没収して帳消しにした。同時にインフレを起こし、国民は過去を精算できたが、同様にすべてを失った。

カサーレス氏は、ビットコインは、「チョイス」だという。国のお金をもつことに加え、人々は、ビットコインを持つ事もできる。

“私たちの独自の通貨を持とう!そのかわり責任をもって管理するよ。私たちは、選択肢を持ったのだから(Let’s have our own currency, but manage it responsibly, because now we have a choice.)”

ビットコインは、全世界の人々が、中央集権的な管理機構なしに管理できる初めてのお金だ。リンカーンの演説のように言えば、こうなる。

“Bitcoin is .. global, digital currency of the Internet, by the people and for the people”

私たちは、私たちによる、私たちのための、私たちが管理する、初めての通貨を手にしたのだ。

おそらくビットコインの本質とは、これである。