群抜く日本企業の長寿力

3年程前に私は『「長寿企業大国にっぽん」のこれまでとこれから』というブログを書きましたが、今年に入って『致知』の2月号4月号6月号に関連する記述が載っていました。


日本にあると言われる約六百万社の企業の中で「百年以上続く老舗企業は約一万五千二百社」(0.25%)で、更には「二百年以上続いている会社が三千社」、「五百年以上続いてきた会社は百二十四社」、「千年以上というのも十九社」あるようです。

また2008年に韓国銀行が纏めた報告書に拠れば、「二百年以上の老舗企業は世界四十一か国で五千五百八十六社が確認されて」いるとのことで、その56%をも占める日本は「世界に最たる老舗大国」です。

例えば1917年設立の野田醤油(現在のキッコーマン)を考えてみるに、醤油というのは非常に日本的なもので醤油なしに日本食は語り得ず、概して不変性を有しているとも思われる日本人の嗜好がため当該企業はずっと残り続けているのだと思います。但し、食生活というものが段々グローバルになってくると、こうした嗜好品ですら取って代わり得るという認識は持つべきでありましょう。キッコーマン自体は1950年代より醤油の国際化に取り組んでいます。

次に三越の歴史を見るに『1673年、創始者三井高利八郎兵衛は(中略)9尺間 口(約3m)の呉服店「越後屋」を開き(中略)明治に入り、三井呉服店、三越呉服店と変遷し、1904年、専務日比翁助のもと、「デパートメント宣言」を行い、三越は日本初の百貨店となり』、そして近年も伊勢丹とくっつく等、時代と共にその移り変わりが見られます。但し、物品を便利に買うことが出来る場所、手に取って見ることが出来る場所というのは、中々無くなっては行かないと思います。

あるいは「現在は国宝、重要文化財の復元、修理を始めとした寺社仏閣の新築、改修や古い木造建築の移築や復元も手掛けて」おり、世界最古1430年の歴史を有する金剛組という会社があります。刀根健一社長は上記雑誌のインタビュー記事でも、「金剛組が千年以上の歴史を通じて守り続けてきた世界に誇れる技術(中略)、宮大工の伝統技術を継承していきたいですね」と言われています。人間の修練等に基づく経験値というものが一つの技術として代々受け継がれて行っており、一般企業では同じようには行かないことだと思います。

また競り市がネットオークションに、幌馬車が蒸気機関車に発展して行くといった具合に、より効率的な社会生活が営まれるよう技術変化が起こる中で、その進歩に遅れる企業は当然滅んで行くことになるでしょう。

歴史を遡って見れば昔から日本は、外来文化を積極的に受容する国際化の時代(飛鳥・白鳳・天平の唐風文化の時代等)と、受容した外来文化を在来の文化と融合し変容する国粋化の時代(平安時代の国風文化の時代等)を繰り返してきました。その中で外来文化と在来文化の融合・調和を進めて優れた民族文化・日本文明を形成してき、正に日本独自の文化が華開いてきたのです。

冒頭挙げたブログでも述べたように、なぜ「日本の企業の長寿力は世界の中でも群を抜く」のかに関しては様々な観点から色々な要因が挙げられますが、その一つに四海に囲まれた日本という島国では長い間鎖国も続けられ、他国の侵略を受けずに外圧を殆ど得なかったということがあるのだと思います。

即ち、早くから外敵の侵入に遭うこともなく内国に因るものでしか競争状況が生じていなかったとか、あるいは総じて戦乱戦火に巻き込まれることがなかったというのが、大きな理由の一つではないかと私は思います。

取り分け江戸時代の鎖国期は外来文化の刺激を閉ざし技術変化が余り起こらなかった時期ですが、片一方で日本人特有の文化というのがその時代発達していたのだと思います。その当時、日本人の文化水準は非常に高く識字率は世界一と言える程で、多くの人が読み書き算盤が出来ました。数学のレベルも世界レベルと比して非常に高いものがあり、日本の和算なども高度な数学を発達させていた一つの証左だと言えましょう。

そして明治時代、西洋列強に追いつけ追い越せという中で次から次に外来文化が入ってき、また完膚なきまでに叩かれて全てが燃え尽くされた第二次世界大戦後もそれは同じで、老舗と雖も時代の流れの中で潰れて行かざるを得ないようなケースになったのだと思います。

最後に江戸時代にフォーカスしてもう一つだけ、所謂「石門心学」の創始者である石田梅岩先生を中心に商行為の正当性を説き商人社会に商人道というものが示されたとか、「心田」を開拓すること荒れた農地を開墾して行くことの二つを生涯の使命とした二宮尊徳翁が農業分野においても徳の重要性を説かれたように、そうした偉人の努力の甲斐もあって勤勉に一生懸命働くということが、日本人にはある意味当たり前のこととして受け入れられてきたことも大きな理由だと考えています。

つまり働くというのは傍を楽にすることであり、奉公というのは公に奉ずることであり、そしてまた「仕」も「事」も仕えると読むように仕事というのは天に仕えることである、といった一つの仕事の道徳と言い得るものが長い間日本に根付いてきたことが、なぜ日本企業が世界を圧倒して長寿力を有しているかの重要な要因だと思います。

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