欲が生み出す社会の矛盾

2015年07月04日 10:00

人間の欲とは果てしないものでこれで満足と感じるのはその瞬間だけでしばらくたつともっと上を目指すものです。その結果、社会には思わぬ歪が生まれるのも事実です。例えば少子化問題は経済的理由や共稼ぎに対する社会システムの不備を指摘する声がありますが、これは本当ではなくて、人間の欲が邪魔しているのかもしれません。

このブログで時々取り上げるアブラハム マズローの欲求の5段階。もう一度見てみましょう。

第一層 生理的要求 寝る、食べるといった人間の基本的欲求です。
第二層 安全欲求 泥棒に入られない、戦争や災害に巻き込まれない、元気でいることでしょうか?
第三層 社会的欲求 所属意識や仲間、家族、恋人といった人との接触欲です。
第四層 尊厳欲求 自分が仲間内から評価されたいという気持ちです。いわゆる相対的意識ともいえます。
第五層 自己実現欲求 自分の能力を引き出してもっと伸ばしていきたいとする気持ちです。

例えば上述の少子化問題を考えると子供が欲しくなるのは第三層の欲求段階であります。小さな幸せ、家族の幸せといった言葉はもはや聞くことが無くなりました。その当時は「子はかすがい」といったものですが、今、若い世代の方にこの意味を聞いても分からないかもしれません。かすがいとは木と木をつなぐ釘の一種で子どもを介して夫婦が仲良くなることを意味します。

しかし、最近の親のボイスや社会事件を見ていると子供はかすがいではなく、親の自己満足を追求するためにどこでどうやったらそのループから抜け出せるか、という発想に変わっていないでしょうか?つまり親が既にマズローの欲求の第三層より上の満足欲求の水準に達しているため、子供の幸せ、家族の幸せが置き去りにされているとも取れるのです。

日本は偏差値教育、相対評価を通じて競争社会を作り上げました。かつてはそれでも学生時代のつらい時代を乗り越えれば終身雇用の会社でほっと一息つけるはずでした。ところが成長を前提とする企業は日夜経営戦争をし、企業戦士(久々に使います。)を育成するため、訓練でふるいにかけていきます。つまり、社会が第四層の尊厳欲求の土台を作り上げてしまいました。

会社社会の競争意識は家庭を守る主婦にも受け継がれ、隣近所との相対評価を重視します。家の大きさ、所有する車、子供の学校(当然、私立です。)、はたまた家族旅行は国内か海外かといった比較論まで出てくるのです。これがバブルの本質だったのかもしれません。

ところが失われた時代に何が起きたかといえばルイヴィトンやシャネルから自分だけのおしゃれ着に変化したように自分のセンスや能力をもっと伸ばし、世界に一つだけの自分を花咲かせようとする流れでありました。あるいは男性は趣味の世界がエキストリームと化し、圧倒的水準を競うようになりました。

自己啓発系の本は「他人と同じではだめだ!もっと自分自身を持て!」という押し出しが多いと思います。まさに我々は第五層の領域にいるといえないでしょうか?

しかし、第五層に到達できた人はわずかで多くの落ちこぼれが生まれたことも事実でしょう。それを社会の二極化と表現してしまってもよいのですが、欲求達成度の差異、あるいは幸福感の相違ともいえ、社会問題が数々起きてしまうことになります。子育て放棄もモンスターペアレンツも自己満足を得るためのストレスであるとも考えられます。

戦争がしばしば起きていた時代はそれこそ生きるという第一層や安全という第二層、更に子孫を絶やさないという第三層が精いっぱいでした。我々が今、チャレンジしようとしているのは第三層の幸せをいかに取り戻すか、ということではないでしょうか?北米にいると実はこの第三層を満喫している人たちが多くいる気がします。理由のひとつは経済的安定感かもしれません。

カナダは相続税がありません。アメリカも基礎控除は5ミリオンドルあります。そこに言えるのはファミリーツリーがどんどん太くなり、争いをしなくても皆が幸せに生きていける余裕なのだろうと思います。アフリカの水場に多くの動物たちが争いなく、集まってくるのと同じです。一方、日本は常に戦い続けないと幸せをゲットできない社会を作り上げました。それは相続が「争続」と化し、ファミリーツリーは細くなるようにできているからかもしれません。我々は先進国という勲章をもらいましたが、何か、置き忘れてしまったような気がします。

日本が質的にも精神的にも豊かになるにはどうしたらよいか、少子化に高齢化社会、社会の矛盾、軋轢とどう向かい合うのか、本当ならアベノミクスの第三の矢の基礎となる部分ですが、その本質的議論をもっと進めなくてはいけない気がします。

今日はこのぐらいにしておきましょう。
岡本裕明 ブログ 外から見る日本、見られる日本人 7月4日付より

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